そろそろ作成開始?
「もうそろそろ符かお守りを売り出してみない?」
呪師捕縛の依頼も無事達成扱いになり、私も『初心者』から一つランクを上がったとの連絡が来た。
これで見習い扱いが終わり、大分と報酬額が上がるのでこれ以上はそれ程頑張ってランクを上げる必要もあまり無い。
呪師捕縛の依頼は危険手当付きなのか中々報酬が良かったが、そろそろもっと定期的に稼げる手段も試した方が良いだろうと、源之助と遊ぶ碧に声を掛けてみた。
「う〜ん、大学生活をのんびり楽しみたいから、お守りをまず試さない?」
ぶんっとリボンを動かして源之助の注意を引きながら碧が提案した。
「・・・特に拘りがある訳じゃないんでお守りからスタートで良いけど、何故に大学生活を楽しむのと関係するの?」
確かに碧の実家で売り出して貰う方が気楽そうではあるけど。
「収納の符って需要と供給のバランスが偏っているから、高いんだよね。お陰で作れると分かったら協会からガンガン作れと頻繁に連絡が来る様になるらしいよ?
以前依頼で一緒になった人が言ってた」
パシっとリボンを足で押さえ込んだ源之助の顎の下をちょこちょこと撫でて気を引き、その隙にリボンを取り返そうとしながら碧が答える。
なるほど。
「もしかして、収納の符って退魔協会にとって利幅が大きいの?」
「多分ね〜。
私が空港のセキュリティを吹き飛ばした時も、白龍さまの能力だから符には出来ないって言ったらかなり露骨にガッカリしていたし」
見事に取り返したリボンを再度振り回して源之助を魅惑しながら碧が答える。
「だったら無料で収納の符の作り方ぐらい教えれば良いのに」
と言うか、考えてみたら退魔協会って退魔師の能力を確認する手段がないのか?
思い返してみると、登録した時も調べられなかったな。
一応近場の悪霊を一体程除霊してみせるよう指示されたけど、それだけだ。
後は自己申告だけ。
前世での適性検査は魔道具を使っていたんだけどな。
検査対象の魔力を流して反応を調べるタイプだったので魔道具そのものは屑魔石で動いたが、魔石自体は必要だった。
魔道具が符以外ほぼ無いっぽいこちらの世界では、検査用の魔道具もないのかな?
「考えてみたら、使い魔とか式神以外で魔道具ってあるの?
符が作れるんだから、魔道具だって作れる筈だけど退魔協会の売店には無かったよね」
貴重品として店員に声を掛けて出して貰う形なのかな?
リボンを動かしていた碧の手が止まり、走り込んだ源之助がリボンを口に加えて見事に逃走する。
「あ、源之助!
持ってっちゃダメよ〜!
・・・まあ、良いけど。
考えてみたら符や使い魔が作れるんだから魔道具だってあっておかしくないよね?
見たことないけど。
もしかしたら京都の方の旧家には家宝として残っているのかも知れないけど、私が知っている限り退魔協会では売ってないね」
「まあ、今となったらちょっとした魔道具程度なら普通の機械で十分以上に代用出来るし、現代科学で再現できないようなのは必要な魔力量が多すぎて魔石がないこっちの世界じゃあ実用性がないか」
偶然が重なれば白龍さまの聖域の様な環境で魔石を入手できる事もあるだろうが、実用的に魔道具を利用できるだけの数は揃えられないだろう。
いくら魔石に魔力を充填できると言っても、リチウムイオン電池と同じで充電回数に限界はあるので使っているうちに魔石は摩耗してそのうち無くなる。
魔石を再入手出来る見込みが立たないとなると、使える期間は長いにしても魔道具は『壊れたら終わり』系の使い捨てと同じになってしまう。
適性検査の魔道具程度だったら符を作る和紙を魔石代わりに代用しても起動しそうだが、あれは何が何でも黒魔術師の適性持ちを見つけて捕獲すると言う意図があったからこその必需品だったのだ。
黒魔術師を育つ前に束縛しようとしていないのだったら特に必要はないだろう。
仄かにヤバそうな香りのする退魔協会に提供しても悪用されそうだし。
なにより、私は作り方を知らないのだ。
こっそり作って知り合いに貸すのも出来ないし・・・やる必要も無いね。
「まあ、それはともかく。
お守りって適当な紋様を普通の紙に書いて、聖域の雑草の切れ端を同封して動力源にしようって話だったっけ?
人気が出てきたら退魔師に雑草目当てで買われちゃわない?
符モドキを数ヶ月起動出来るなら魔石代わりに使い道があると思うよ?」
まあ、魔道具が無い世界なら不要かも知れないが。
でも、普通の機械を持ち込めない場所で何かヤバいことをするのに使われたりしたら不味そうな気もする。
碧がこてりと首を傾げた。
「雑草の切れ端を五百円で売れたら、それはそれで良くない??」
・・・。
「確かに」
どうせ雑草の切れ端程度だったら大それた事は出来ないだろうし。
気にしなくても良いよね!