次の一手は
「どうやら結婚は目的ではないようなので、お見合いは無しでいいですよね?
半導体工場の問題に関しては、それこそ工事現場や関係する企業の敷地全体を呪詛を解除する大規模結界でも展開して貰って呪詛の悪影響を消し去るのではどうでしょうか?
単純な呪詛返しですから転嫁先に呪詛が飛んでしまいますが、工事現場の妨害程度なのでしたら転嫁されても極端な悪影響はないでしょう。
東京から人を呼ぶなら費用的にはそれなりになるでしょうけど。
もっと安上がりに済ませたいなら、関係者や従業員全員に厄落としを三箇所ぐらい寺社を変えてやらせると良いと思いますよ」
田中さんの話が終わり、大して得られるものは無いしお互いケーキも食べ終わったので、立ち上がって暇を告げた。
白魔術師に頼めば呪詛返し特化な結界を張ってもらえるし、黒魔術師でも可能だ。
碧クラスの術師じゃないと巨大工場全部を一気にカバーするような結界は無理かもだが、何区画かに分ければ普通の術師でも可能だろう。
なんだったら、大金を払って碧に指名依頼を出しても良いし。
……考えてみたら、産業スパイ探しに黒魔術師を雇うのって可能なのかね?
私が産業医か人事の人と一緒に会社の人間全員と面会すれば、産業スパイとかその他の理由で自社のプロジェクトをサボタージュしている人を見つけられる。
これは他の黒魔術師でも同じ事だが……そう言う目的で退魔師を雇えるのかな?
提案して、実際にそんな依頼が来たら面倒だから言うつもりは無いが。
プライバシーの侵害になると思うが、何分読心と言う能力そのものは立証できないのだ。
その依頼を出したとして、外部には『凄腕な心理学者に面談相手の心理状態を見極めて貰ったんです』とでも言ったらありなのかね? 私を雇った場合には『凄腕な心理学者』と称するには若すぎるだろうけど。精々がバイトのアシスタントだよねぇ。
まあ、読心能力なり、心理学者の洞察力なりから読み取った内心が正解であろうとなかろうと、どちらにしても会社に対する背信行動の証拠なしには相手をクビにできないだろうけど。
「厄落としをしてしまって良いのだろうか?」
田中さんがちょっと悩ましげに尋ねる。
「厄落としで返せるのは露骨に異常な行動や体調不良にならない程度な呪詛が殆どですから、それだったら転嫁されても極端に問題はないのでは?
転嫁にうっかり同意してしまった人にも問題はあるのですし。
なんでしたら、社内の人に転嫁されないように呪詛をかけられていると思われる人間は最後にして、他の関係者を全員先に厄落としさせてから呪詛をかけられた人に厄落としをさせてはどうです?
転嫁先の人が先に厄落としを成功していたら、呪詛返しをした時に呪った本人へ返りますよ」
こないだの高齢者施設での大量呪詛問題の時の結果を見るに、先に転嫁を受けた人が呪詛返しをされると元の呪詛は普通の転嫁なしな呪詛になっていた。
これは退魔師でなく、神社などの厄落としでも同じ結果になる筈。
「そうですか。
それもちょっと社内で検討してみます」
田中さんが頷きながら、会計の紙を手に取った。
奢ってくれるらしい。
まあ、この状況で割り勘しましょうと言い出す人はいないよね〜。
◆◆◆◆
と言う事で、北海道の半導体工場のプロジェクトに関与している吉田とか言う政治家と、その人物がここ1〜2ヶ月の間に連絡を取った退魔協会の人を興信所の人に探して貰った。
下手をしたら、こっそり北海道に自分で行って吉田とか言うその政治家へ直になんとか接触して記憶を読む必要があるかと思っていたのだが、普通に国会の審議の為に東京に出てきていた。
しかも。
退魔協会の人間と夕食を食べに行ったのがメディアの人間に目撃されていたらしい。
と言うか、ニュースになるような相手だと見做されないと誰も何も言わないようだが、政治家の行動ってメディアの連中にかなり全般的に知れ渡っているらしい。
興信所の人がお金を払うと、比較的簡単に色々と情報が手に入ると言われた。
色々な人間と会食していたせいで、そのうちのどれが退魔協会の人間かを絞る方が大変だったそうだ。
イギリスの王家の人間なんかもパパラッチとかに追われて大変だってダイアナ王妃のドキュメンタリーみたいので言っていたが、実は政治家もそれなりにニュースにならないかと見張られているんだねぇ。
今じゃあ芸能人なんかも外を出歩いていると通りすがりの人に携帯で写真を撮られてSNSに暴露されてしまうので、世の中プライバシーが薄っぺらいティッシュのように脆くなってきているようだ。
まあ、芸能人はそれでお金を貰っている一面もあるんだけど、政治家もそんな感じだと、真面目に国のことを考えて真摯に頑張っているだけの人ってそのうちプライバシーの無さに折れちゃって、権力で美味しい思いをしようと思うようなロクデナシだけが残りそうで嫌だなぁ。
それはさておき。
退魔協会の人だが。
どうしようかな。
本人をこっそり尾けて、後ろから人目がないところで昏倒させて記憶を読むかね?
お偉いさんと言うよりは普通の事務職員みたいなんだけど、流石に真正面から質問すると言うのはなしだよねぇ。




