限定的影響
『すいません、先ほど靴の修理を依頼されましたリペアショップセリアですが、長谷川さんのお電話で間違いないでしょうか?』
信じ難い強引なお見合いモドキを撃退したあと、日常が戻った私は涼しくなってきたのでそろそろブーツのシーズンだと夏の間は仕舞っていたお気に入りのブーツのヒールの修理に出してきた。
ヒールといっても3センチ強程度の高さで四角くしっかり体重を支える形だから、ヒールと言うよりも踵って言うべきかな?
ほぼ5年前にお年玉を使って新年セールに買った臙脂色っぽいエナメル皮(多分)のブーツで、デザインは比較的シンプルだけどすっきりしているし、何よりも色が良いからお気に入りなのだ。
大学に合格してお洒落な毎日を過ごすんだ!!と気合を入れるために、気分転換に予備校の帰りに覗いて一目惚れしたブーツへお年玉を注ぎ込んだ。
新年セール前に売れて無くなっちゃったら縁がなかったと諦めようとは思っていたが、思わずブーツの周りに認識阻害結界を張ってしまおうかと本気で悩むほど気に入っていたので、年初に開店前から並んでゲットできた時は本当に嬉しかった。
いくら気に入ったとは言え、ブーツの為に寒い中で並んで風邪をひいたらどうするのと母には呆れられたが。
そんなお気に入りのブーツだし、そもそもパンプスやサンダルよりもブーツの方が足をしっかり支えてくれるから好きなのだが、流石に暑い最中には無理だ。なので5月終わりぐらいから10月初めぐらいまでしまいっぱなしだったのだが、出してみたらヒールの部分のゴムが一部擦れて釘(?)が見えてきていたので、駅のそばの修理屋さんに持ち込んだところ……靴底全体のゴムをグイグイと押し引きして、『これもそろそろ剥がれそうですよ?』と言われたのでそちらの貼り直しも頼むことになった。
ヒールが1540円なのに対し靴底全体のゴムの貼り直しが3300円。接着剤で貼るだけなのに高いの〜とは思ったが、外に出ている時に剥がれたりしたら困るので、文句を言わずにお願いしたのだ。
その修理屋からの電話とは、幸先が悪い。何事かと思ったら、案の定更に高くなることが判明。
『実は、靴底を剥がしてみたら裏側の部分がもう硬くなってひび割れだらけでして。
これじゃあ貼り直しても近いうちに割れてしまいますから、靴底のゴム自体を変えた方がいいと思うのですが』
と電話のおっさんに言われた。
マジか〜。
そこそこ毎年履いているんだけどなぁ。
ゴムって履かないと劣化が早いと聞くが、5年も経つと履いていても劣化が凄い事になるのかな?
「じゃあ、それもお願いできますか?
幾らになります?」
先に値段を聞いてから頼むべきだったな。
言ってからちょっと後悔したが、しょうがない。
『本来ならば8千円になるんですが、今回は我々が剥がしてみて初めて分かった事なので……あと3千円でどうでしょう?』
合計6300円か〜。
本来8千円だったと思えば割安と言えるかもだが、最初はヒールの修理代1540円だけだと思っていた事を考えると大分と値段が上がったなぁ。
まあ、しょうがない。
「じゃあ、それでお願いします」
修理そのものも1週間近く掛かると言われた。
思ったより長い。
しっかし。もうよく覚えていないが、私の毎年のお年玉の金額から考えてもあのブーツって1万5千円前後だったと思うんだよなぁ。
どう考えてもエナメル皮のブーツって、デザインとかエナメル皮部分の方が靴底のゴムの部分よりも高いだろうに、靴底のゴムだけで8千円って。
ブーツの原価っていったいどう言う割合なんだろ??
それとも修理屋だと人件費が高いのかな?
ブーツその物の製造は工場とかで機械が大部分の作業をやってそうだから、割合的に人件費は低くなるんだろうし。
まあ、取り敢えず。
早くあのブーツが帰ってくると良いな。
もう一つのブーツはちょっとヒールが高いので、長時間立っていると足が疲れるんだよねぇ。
「どうしたん?」
電話を終えてリビングに戻ったら、碧が膝に上ででろんと寝ている源之助をそっと撫でながら聞いてきた。
源之助は気温が下がってきたら露骨に愛情マシマシになった。
普段も『遊ばせてやっても良いぞ』と寄ってくる事は多いが、夏の間は碧の膝の上にすらほぼ乗らなかったのに、涼しくなったら碧が居なければ私の膝にも乗ってくる様になった。
愛情っていうよりはホットカーペット代わりなんだろうけど。
ついメロメロになって、足が痺れようが動かないのが下僕の悲哀って奴だね〜。
下手に痺れるとトイレに行くのすら難しくなって困るんだけど、どうしても源之助が自分から退くまではギリギリまで我慢しちゃうのだ。
それはさておき。
「さっきヒールの修理に出したブーツが靴底部分のゴムもちょっと剥がれそうって言われて接着し直しも頼んでいたんだけど、店で作業を初めて剥がしてみたらひび割れてボロボロだったからどうします〜?って」
あれって本当にボロボロなのかなんて見てないから分からないけどねぇ。
ブーツを引き取りに行く時に現物を見せてくれるんだろうか?
一々ゴミまで取っておかなきゃってなったら店側は大変だろうけど、騙そうとしているんだったら客側には分からないからねぇ。
どこまで店を信用するか、中々微妙なところだ。
今度、引き取りに行く時にこっそり隠密型クルミに接近させて表面の考えだけでも読んで、嘘をつかれていないのだけでも確認しておこうかな。
嘘をついていたことが分かっても返金請求はしないし出来ないと思うが、今後の修理は別の店に行く。
「あらま。冬の初めはブーツ類の手入れをちゃんとしておかなきゃなのね。私も気をつけないと。
そう言えば、さっき遠藤さんから電話があったわよ。
あの二人組が帰国したんですって」
碧が教えてくれた。
へぇぇ。
結婚してくれなんてとんでもない事を言ってきたが。流石にそれが通用するとは思って居なかっただろうけど、最終的には何が目的で、どの程度その為に時間を掛けるつもりだったんだろう?
碧本人なり、碧の卵子なり、どちらを狙っていたかにしても数日で何とか出来ると思っていたとは想像できないが。
碧と親しくなる為に留学でもする手続きの為に暫く滞在する予定だったのかな?
白龍さまの天罰を喰らってまともに出歩けなくなっていたようだが。
『結局、何人ぐらいが天罰を下される事になりそうか、分かりますか?』
リビングでのんびり窓際で日向ぼっこしていた白龍さまに尋ねる。
「あの女を含めて五人、かの?
一人は既に昨日死んでいるようだが』
はぁぁ???
マジで権力闘争でうっかり足を踏み外すと命に関わる国だねぇ、あそこ。
でも五人かぁ。
それじゃあ、国のトップまでは届かなそうだね。
ちぇっ。折角天罰ディフェンスが発動したのに残念だ。
本当に、勝手に自分の野心の為に碧に手を出してくるな!
これでこの話は終わりにします。
明日は休みますが、明後日からまたよろしくお願いします。




