話し合えば良いんでしょう?
イヤイヤながら退魔協会に来た私たちは、どちらもジーパンにセーターと素っ気ない格好をしていた。
仕事着ですら無いのは、お見合いなんてするつもりはこれっぽっちも無いよという意思表示だ。
と言うか、相手の方だってまさか言語が通じない相手とお見合いを真面目にできると考えているとは思えないが。
しかも通訳が仏頂面した中年女性って。
あり得ないでしょう。
『現地の人と付き合うのが言語を学ぶ一番の早道だ』と以前近所のバックパッカーとして世界を旅行しまくるのが趣味なお姉さんに言われた事がある。あの時は『ふ〜ん、そうなんだぁ。語学学校行くより楽なのかな?』と思っただけだったが、今となってはあれって言語を学ぶのは早いかもだけど、早死にリスクもめっちゃ高めていたんじゃないかと思う。
しかも変な病気を拾いそうだし。
会議室に案内されて入った私たちを見て、中年女性が一瞬眉を顰めた。
服装が気に入らなかったのかな?
男性の方は呑気に窓の外を眺めていて、私たちが入ってきてもちょっと軽い興味程度の視線しか向けてこなかった。
取り敢えず日本に来て碧に会って話さえすれば良いとでも言い聞かされているんかね?
成功報酬は言われて無いか、最初から無理だと諦めているのか。
まあ、変に粘着されたりアピールされてもうざいしね。
さっさとこの話し合いが終わって帰ってくれると良いんだけど。
「こちらが赤龍さまの愛し子であるアブドゥル・ハンさんです。そしてこちらの女性は通訳として付き添っているジンウィー・ザンさんです。
ハンさん、ザンさん、藤山碧さんと長谷川凛さんです」
遠藤氏が紹介をした。
ハンはまだしも、アブドゥルってなんか中国系っぽくない名前な気がする。
砂漠地帯の少数民族だとイスラム教の遊牧民だった部族も多いって聞くから、そう言う人たちって中東っぽい名前を引き継いできているのかな?
あの国だったら言語も少数民族の先祖代々伝えてきた言葉ではなく中国の標準語(北京語と言うのが元々の名称だったらしい?)を学んで使う事を強制して、元の言語をどんどん衰退させるんだろうなぁ。まあ、言語はヨーロッパの先進国とかでも移民が故郷の言葉しか喋れなくて社会に溶け込まないのが問題になっている国が多いようだから、国の一体意識を高めるためにはそう言う手段も場合によっては必要なのかもだけど。
とは言え、自分から望んで他国に来た移民と違って、勝手に戦力のゴリ押しで統合されちゃった地域の少数民族にとっては良い迷惑だろうけどね。そのうち、漢民族系の名前じゃないと色々と補助金とか税金の控除とかで不利になるような手法で名前まで変えさせそうな気がする。
まあ、戦いと占領と抵抗をウン千年も続けてきた中国大陸では、中央権力が自分たちの文化の息を止めようとするに対抗する根性も筋金入りで負けないのかもだが。
以前テレビで見た中国の昔の街並みが残っている地方都市って、なんか凄かった。個性的なところを選んで紹介していたんだろうが、どこも侵略と抵抗の為って云うのが露骨に徹底した作りになっていたからなぁ。
戦国時代の100〜200年程度しか血で血を洗うような争いを経験しなかった日本とは、先祖代々積み上げてきた抵抗に関する根性が違うんだなぁとアレを見た時に実感した。
それはさておき。
「赤龍さまに念話でアブドゥルさんの言いたい事を伝えてもらえます?
人間の通訳よりも正確に言いたい事が伝わると思いますので。
ですから通訳の方は観光でもしてきたらどうでしょう?」
碧がにこやかに提案した。
だよねぇ。
アブドゥルとやらは風系の術が得意ってことなので元素系魔術師だから、それほど危険はない。
暗殺しようと思っているなら殺傷力は高いだろうが、白龍さまがいるから多分大丈夫だろう。
それこそ龍の愛し子同士で争わせて、東京に壊滅的ダメージを与えようと狙っているんじゃない限りだが。少なくともアブドゥルにはそんな事を考えているような緊張感はない。
その点、中年女性は何をしてくるか分からないからね。
いない方が安心だ。
「いえいえ、龍さまに通訳を頼むなんてオソレオオイですから」
ちょっと訛りがあるけど流暢な日本語でジンウィーが応じる。
「誤解のない意思の疎通のためには念話が良いんです。
私と会話をするためにゴリ押しして今回のミーティングを設定したのですよね?
会話をする為の私の希望を聞いて下さい。
赤龍さま、通訳をお願いしても構いませんよね?」
一応前もって白龍さまに聞いておいてもらったからね。
流石に氏神さまへ前もってお伺いを立てずに通訳をしろと要請するつもりは碧もない。
『うむ、勿論だ。
ザン、お前はこの場に必要ないから出て行け』
アブドゥルの後ろに現れた赤龍さまがあっさり中年女に命じた。
「ですが……!」
ジンウィー必死になって抗議する。
やっぱ、アブドゥルは碧を引っ張り出すための口実でしかないんだね。
メインはこの中年女か。
『聞こえぬか。あちらの愛し子が我の言葉で話し合いたいと言っているのだ。
去れ』
赤龍さまが威圧感を込めて命じた。
なんどか口をぱくぱく開け閉めして説得する言葉を考えようとしたみたいだが、どうやら龍を納得させられる口実を思いつけなかったのか、碧に恨めしそうな視線をチラッと投げて、中年女が出ていった。
さて。
これで適当に2時間ぐらい話したら終わりって……出来ないかなぁ?




