無理じゃない??
結局、退魔協会で赤龍さまの愛し子と通訳(兼監視役なんだろうなぁ)と会うことになった。
あちらが黒魔術師の素養持ちで洗脳してくるリスクも考えて、私も家族がわりのパートナーとして参加することに。
『パートナー』といっても仕事の相棒なんだけどね。LGBT的なパートナーと誤解されてもまあ良いやと言う事で特に説明してはいない。遠藤氏も多分しなさそう。
今後、女性のハニトラ要員まで来たら笑えるけど。
「ちなみに赤龍さまは何か言ってました?」
遠藤氏から再度電話があって渋々退魔協会で会うことに合意したあと、暫くして姿を現した白龍さまに碧が尋ねた。
『どうもあの青年は砂漠の方の少数民族出身らしいの。一族どころか民族自体が弾圧を受けていたのが、あの青年が愛し子になった事で扱いが少し良くなって族滅から免れたと感謝されたと言っておった。
特に一族を見守っていた訳ではなく、偶々久しぶりにこちらに繋がる境界門を見かけて遊びに来て飛び回っている際に出会って気に入ったから一緒にいるところを他の連中に見られてしまって『愛し子だ!』と祭り上げられてしまっただけらしいが。まあ気に入っているから暫く一緒にいようと思っているから『愛し子』と扱うのは良いにしても、生まれ故郷の人間全部が人質扱いに近くてちょっと困っているらしい』
はぁあ??
まあ、気が合って暫く一緒にいようと思った時点で愛し子の定義に当てはまるかもだけど、碧と白龍さまの関係とは大分と違いそうだ。
しかも族滅を逃れたって……。
確かに中国じゃあガンガン少数民族の自治区に漢民族が移住して、原住民だった少数民族の成人男性は言い掛かりのような理由で手当たり次第に拘束されて強制労働させられ、自民族の文化的歴史や言語を教えるのも難しい状況に追いやられているとニュースで見たことはあるが。
あれでも少しはマシになったの?? それとも最近少しマシになったけど、それが報道されていないのか。
どちらにせよ、流石に龍といえども漢民族の住む地域を全部焼き払う訳にはいかないだろうから、中々先行きは暗そうだねぇ。まあ、大国って剥き出しの暴力や暴力の脅しに一番耳を傾けると言うから、軍事工場なり基地の一つか二つを火の海にすれば少しは交渉しやすくなるのかもだけど。
「ちなみに、中国に赤龍って幸運を与えるとか土地を豊かにするとか、色々と伝説があるみたいですが、赤龍さまはそう言う権能を有するのですか?」
ちょっと眉を顰めて話を聞いていた碧が尋ねた。
土地を豊かにするのはまだしも、幸運を与えるって言うのは考えようによっては敵対した場合に相手に不運を与えるかもなんだから、要警戒だよね。
『元々あやつとは幻想界での知り合いだ。こちらの世界で神として信仰されたのはごく短い期間で、その頃の民は既に死に絶えておるらしくての。権能なんぞほぼないぞい。昔から、幸運なんぞ与えられた事も無かったと言っておるし。
単に莫大な魔力があるだけだから、島国なり大陸を一つ燃やし尽くすのは可能じゃが、天罰と言う理に基づいた反撃は出来んそうじゃ。
今回こちらに来てから人間に赤龍だと拝まれる事が増えたらしいが、数年程度の信仰ではなんの変化も起きぬ』
白龍さまが言った。
おやま。
天罰ディフェンスの応酬は起きないけど、代わりにあの青年を酷い目に遭わせたら国はまだしも町の一つぐらいは火に飲まれかねないってこと?
前世でも、歳を取って強くなった竜や龍を怒らせれば都市どころか国が滅びたからなぁ。
現代社会の攻撃力で考えたら核兵器とかが直撃したら倒せるかもだけど、核兵器って元々動かない都市を狙って燃やし尽くす兵器だよね?
空を自由に飛び回る龍相手に撃っても命中させられないんじゃないかな。
……そう考えると、ゴジラみたいなのが本当に東京やニューヨークを襲う事があったら、攻撃手段として使える武器って限られそう。
それこそ、白龍さま助けて〜!!と碧に泣きついてきそうだ。
「で、そんな祭り上げられた人間が何しに日本にまで来ているんです?」
碧が溜め息を吐きながら尋ねた。
『どうもあの愛し子は術師としての訓練はあまり受けて無かったようでの。
赤龍と一緒になった事で物に憑いた悪霊ならば焼き尽くせるようになったが、人間相手だとうっかり被害者の精神を悪霊ごと焼き尽くしてしまった事もあるらしく、あちらで問題になったらしい。
じゃがパワーだけなら儂と対抗できるだろうと、碧を勧誘する役割を押し付けられたようじゃの』
白龍さまが言った。
「精神へ干渉できる黒魔術師なんですか?」
龍のパワーを使える黒魔術師だったら、いくらそいつの腕が悪くても単なる人間である私に対抗は出来ないよ!
ヤバいじゃん!!
『いや、風への干渉が一番得意らしいの』
白龍さまがあっさり答えた。
え〜??
マジで何しに来たの??
赤龍さまの愛し子なら碧の共感を得られてハニトラに掛けられると思っているの??
無理だと思うけど。




