家族が居たら安心か(悪い意味で)
『知り合いでもない相手の家に紹介も約束も無く訪れるなんぞ、失礼極まりないぞ!
協会経由で自己紹介と何を求めて会いにきたのか、しっかり手順を踏め!』
ピシ!と白龍さまが尻尾を振り下ろしながら玄関の向こうの連中を叱りつけた。
念話だったからしっかり二人にも通じたらしく、一瞬ビクッと震えてから若い男が慌てたように中年女性の腕の引っ張って帰ろうとジェスチャーするのがハネナガ経由で見えた。
何か喋っても居るけどそっちは相変わらず分からず。
オバサンが青年の腕を振り払って更に玄関のインターフォンを押そうとしたところで、赤い蛇(龍なんだろうね)が宙に現れて、ピシャンと小さな雷撃みたいのをオバサンに食らわせた。
おお〜。
ちょっと痛そう?
でも、びっくりしたように手を引いただけで体は動かなかったから、物理的には衝撃が無いようにしたみたいね?
『騒がせて悪かった。
ちゃんと人の世の組織経由で連絡をするよう言っておいたから、また会おう』
念話が聞こえたと思ったら、二人組がそそくさと降りていくのが視えた。
念話だと中国の氏神さま(?)でも意思疎通出来るんだね〜。
あの二人組のどっちについて来たのか知らないが。
雷撃なんぞ食らわせていたから、あの中年女性は見張りとして付けられた中国の共産党員とか、通訳兼案内役とかかな?
流石に白龍さまの同胞に念話で通訳をさせるつもりで日本語ができないままに突撃しに来たとは思えない。
あの男性が偶然日本のアニメとかのファンで日本語が喋れる可能性もゼロでは無いが、あの女性が通訳なんだろうなぁ。愛し子に逃げられないように見張りも兼ねていそうだけど。
「取り敢えず。
退魔協会に連絡して、誰がウチの住所を漏らしたのか、調べてもらおうか」
碧が溜め息を吐きながら電話に向かった。
確かに、誰かが碧の住所を売ったんだろうね。
若しくは協会のデータベースがハッキングされて住所情報まで抜かれたか。
碧が固定電話のスピーカーボタンを押した上で短縮ボタンの01を押した。一応青木氏や柳沢氏も登録されているけど、退魔協会が一番利用頻度は高いんだよねぇ。
『はい。退魔協会、遠藤です。
藤山さんですか? 何かありましたか?』
あっさり最初のリングで電話が応答された。
ウチらの電話番号を登録しているらしい。
「なんか今、白龍さまの大陸版同胞らしき存在に気に入られた人間を含む二人組が突然ウチの玄関に現れたんですけど。
もしかして、退魔協会は私に中国へ移住してもらいたくて私の個人情報をあちらに売りました?」
碧がにこやかにキレながら電話に向かって尋ねた。
『はぁ?!?!
白龍さまの同胞?!
と言うか、何でそちらに直接人が行っているんですか!?!?』
遠藤氏が慌てたように声を荒げた。
遠藤氏が情報漏洩元ではないみたいだね。
「白龍さまの同胞の愛し子があの国に居るって知っていました?
若い男性か、中年の女性かどちらかだと思いますが」
と言うか、中年女性だったら碧に会いに来る意味がない気がするからあの若い男性の方の可能性は高そう。
愛し子同士で通じ合うものがあって移住の説得に成功するとでも思ったのかな?
どう考えてもあり得ないと思うけど。
『氏神さまの愛し子的な存在は世界にそれなりの数が存在していることは知られていますが……中国で龍系の氏神さまが愛し子を選んだと言う情報は入って来ていませんでしたね』
遠藤氏がゆっくり深呼吸をしたのちにこちらの質問に答えた。
へぇぇ。
となると、ますます若い男性の方が愛し子な可能性が高そうだね。
まあ、日本の情報収集能力は地を這っていそうだから、単に知らなかっただけな可能性も否定は出来ないが。
「家に直接突撃されるなんて、はっきり言ってショックでした。
誰が情報を漏らしたのかしっかり調べて、厳重に罰して下さいね」
碧が念を押す。
『早急に調べます。
ちなみに、その方は何を言っていましたか?』
「さぁ?
ドアを開けたりして家に入り込まれたら面倒なので、居留守をしたので知りません。
白龍さまがしっかり手順を追って会う約束をしてから接触しろと叱りつけたので、そのうちそちらに泣きついて来るかもですね。
何で私と会いたいのかしっかり聞き取りした上で、どうしても拒否できないなら退魔協会で立会人と一緒に会う形で手配をお願いしますね」
碧が言って、電話を切った。
「これって新しいバージョンのハニトラかな?
愛し子を国から出したりして、誘拐されたり訪問先でハニトラに引っ掛かって帰国拒否するようになったりしないか、心配ないのかね?」
日本は流石に訪問中の外国人を拘束する蛮勇はない気がするが、情報が漏れたらそれこそ米軍基地に攫われそうな気がするけど。
いや、物理的に攫うのは白龍さまと同じで天罰ディフェンスが危険だから、金で誘惑してオッケーの言質を取ったら即座に米軍基地経由で本国へ連れ去るぐらいの事はしそう。
「家族とかをしっかり抑えているんじゃない?
日本だったら私が他国に亡命しようが家族に害が及ぶ心配はあまりないけど、中国じゃあスパイ容疑とか汚職疑惑とかで投獄どころか死刑にもなりかねないから、家族がいたら余程の覚悟がない限り国を捨てられないでしょう」
碧が肩を竦めながら指摘した。
確かに。
それなりに国内投資額・取引額が大きな国の外国人ですら言い掛かりみたいな罪で10年とか投獄する国なのだ。
自国民だったら投獄した上で拷問までしそうだから、国を捨てるなら家族丸ごと国外へ連れ出すレスキューミッションでもしてくれそうな政府と取引でも出来なきゃ、無理だよね。




