愛し子?!
卒論の草稿第二弾を提出し、OKを貰って何箇所か改善点を指摘されたところを手直しして最終バージョンを書き上げていたら、インターフォンの音が鳴った。
「凛、何か宅配で受け取る物を注文した?」
碧がリビングから聞いてきた。
このマンションはオートロックではない。
一応入り口とエレベーターに一つずつ防犯カメラが付いているが、変な押し売りや宅配の配達のふりをした押し込み強盗だって普通に階段を上がって玄関の前まで来れちゃうので、基本的にインターフォンには何か受け取りを想定している時だけ応じることにしている。
想定していなかった配達物だった場合でも、再配達のお知らせが郵便受けに入れられるからそれで後日受け取ることにしている。
配達の人には二度手間がかかって申し訳ないが、安全第一だからね。
現実の話としては、押し込み強盗だとしてもドアを開けた瞬間にグサッと急所を刺されでもしない限り私でも碧でも侵入者を制圧できる筈だけど、押し売りだった場合は追い返すのが大変だからね。
安全の為という口実を使った押し売り避け対策です。
最近は期限が切れたクレジットカードとかの新しいのの配達とかも前もってお知らせが来る事が多いから、家にいてインターフォンを無視したからって再配達のお知らせが入っていたことは殆どないし。
「うんにゃ。
碧のじゃないんだ?」
ここ暫くは卒論に忙しくて買い物もしていない。
ストレスが溜まると他の事をやりたくなるのだが、今回は買い物ではなく符を描くとか源之助と遊ぶとかで我慢したので、何も届く予定はない。
「うん、私も何も買ってないし……なんか、配達じゃないっぽい?」
碧がインターフォンの画面を見ながら眉を顰めた。
「……確かに」
インターフォンの小さな画面なのでハッキリは見えないが、中年の女性とその後ろにジャケットに秋物のコートを羽織った若い男性が映っていた。
「少なくとも私の知り合いじゃないね。
碧の親戚とかでもないの?」
私の親戚はかなり数が限られるから確実に違うが、碧はそれりに大家族と言うか分家も沢山ある旧家だから、血が繋がった親族まで含めたらかなりの数になるだろう。
「見覚えが無いし、人の家に連絡もなく押しかけてくるような親戚なんて他人よ。
う〜ん、このインターフォンって画像の保存が出来ないのかな?」
碧がインターフォンの画面を指で適当に触りながら言った。
「携帯でインターフォンの写真を撮った方が確実かも? その方は拡大とか転送とかも出来るし。
碧が写している間に、私はちょっとハネナガにでも探って貰ってみるね」
『ハネナガ!』
碧が携帯を取り出している間に、鴉の霊な使い魔を喚び出す。
玄関の外の二人組は諦める様子は見せず、もう一度インターフォンを押した。今度は長押ししている。
ちょっと感じが悪いぞ?
『何か用か?』
ハネナガが姿を現した。
「ちょっと玄関の外の連中が何を言っているか聞こえる位置に潜んで、感覚共有してくれる?」
玄関の方へ首をグリっと向けたハネナガがこちらを向いて聞き返してきた。
『術者っぽいが、バレない方が良いんだな?』
え??
そう言われて慌てて魔力視に集中して玄関の方を見遣ったら、確かに二人とも魔力が練られていて多い。
と言うか、男の方は碧並みに多いじゃん。
退魔協会がとうとうお見合い相手を勝手に手配したの??
でも、それでも予告なしに家への突撃はないでしょう。
誰か、碧の個人情報を入手して勝手に突撃しているのかな?
どう考えても第一印象が悪くなりすぎて有り得ないアプローチだと思うが。
「見つからないように、廊下の天井近くの影あたりからでも観察出来そうだったらお願い。
何を言っているか、是非とも知りたい」
『承知した』
霊だから術者かどうかに関して敏感なのかなぁ。
ハネナガを喚び出したのはラッキーだったね。
「誰かお見合いの為に紹介したいなんて話、きてた?
あれ、術者っぽいんだけど」
インターフォンの画面の写真を撮り終えた碧に尋ねる。
「まさか。
と言うか、断れない相手からの紹介だろうと、お節介焼きからのお見合いだろうと、家への直撃はあり得ないでしょう」
碧が眉を顰めて玄関の方を向く。
感覚共有していたハネナガが廊下の消火器の後ろに現れたので、声が聞こえてきた。
何を言っているのか、全く分からない。
このすごい早口で捲し立てるような言語は中国語かな? 韓国語だったらもっと発音が日本語に近い気がする。
「マジ??
あの二人、多分中国語っぽい外国語で話し合ってる」
「はぁぁ??」
碧が目を丸くして声を上げる。
『儂の遠い親戚モドキな同族も一緒におるようじゃの』
突然現れた白龍さまがさらに混乱に付け加えた。
え???
碧みたいな愛し子?!
氏神さまの愛し子同士で積もる話もあるでしょうみたいな名目で押しかけてきたの??




