ドン引き
取り敢えず、この粘着女は魔術やスキル、呪詛を使って悪事を働いている訳では無いから、私が関与しなければならない謂れはない。
多少は魔力を使って微妙に意思誘導に近い効果を出しているみたいだが、あれは胸を押し付けたりしている方が効果が高そうだ。
その証拠に、同じサークルの女性陣には遠巻きにされている。
ある意味、ちょっとした香水やオシャレな服や化粧で人の第一印象をよくする程度の効果しかない。
とは言え。
一応知人に頼られたのだ。
少しは役にたつ助言を与えられたら良いかも?
私の職業を知っている一般人な知人はそれ程多く無いので、縁は大事にしておいても損はないだろう。
多分。
ここでちょっと助言する程度なら大した手間じゃないし。
『あの女の背中か腰辺りにこっそり貼り付いてくれる?』
一応念の為にと亜空間収納から出しておいた隠密型クルミに念話で頼む。
多少は魔力の片鱗があるとは言え、あの程度ならば粘着女もクルミ経由でちょっと記憶を読んでも分からないだろう。
本当に病的に西江に執着しているのか、何らかの理由でやっている嫌がらせ紛いな悪戯なのか、確認しておきたい。
さっきの様子から見て、本当に西江の事が好きって訳じゃあないとは思うが、好きな子を虐めるような感じに執着して嫌がらせっぽいレベルまで付き纏うタイプな可能性はゼロではない。
ついでに、何をやられたら嫌かが分かれば対処法も見えてくるだろうし。
本当にちょっと頭がおかしかった場合、迂闊に安易な『完全拒否』を勧めて無理心中紛いな事をされたら後味が悪い。
『了解〜』
クルミがそっと天井の方へ上がり、入り口のそばで屯している連中の方へ向かう。
その間に私はそっと瞬間的に認識阻害結界で気配を消して部屋の中に入り、奥にいる女性陣のところへ行った。
「あれ、いつもあんな感じなの?
来年入ってくるかも知れない知り合いの子がこのサークルに興味があると言っていたからちょっと様子を見に来たんだけど、あれはちょっとお勧め出来ない感じなんだけど」
よく見たら、女性陣の一人が去年必須科目で授業が一緒で顔見知りだったので、認識阻害を解除して彼女にそっと尋ねる。
「あの八代アヤカが新川真也に連れられてここに顔を出すようになってから、妙にキャバクラチックな雰囲気になっちゃったのよねぇ。
しかも、彼女ったらこの部室を占拠する勢いでいつもキャラキャラ騒いでいるけど、サークルには入っていないから会費も払ってないのよ?!」
イラっとした感じに聞いた相手(名前は……守屋さん、だったと思う。多分)が教えてくれた。
マジか〜。
部員ですら無いのに占拠されちゃあ、やってらんないねぇ。
4年でもう直ぐ卒業だしサークルも辞める時期だから追い出す為にはっきりと敵対行為はしていないのかな?
でも、あの調子でサークルが変質しちゃったら、OB・OG会に支障が出るだろうに。
あまり卒業後のネットワークとしては活動していないサークルなのかな?
「彼女、妙に西江氏に執着しているっぽいけど、新川とか言う人との関係はなんなの?」
まあ、セフレ程度な関係なら彼女が他の男に媚を振っても気にしないのかもだが。
結婚願望が無いなら、知り合いの彼女・婚約者・妻を寝取るのを楽しいと感じるゲスも世の中にはそれなりに居るだろうし。と言うか、結婚願望があっても、自分が他人の結婚を台無しにすることには何も問題があると考えないクズも世の中にはそれなりにいるよね。
「彼女って自分に靡かないタイプを落とすのが好きなのよねぇ。
めっちゃ強気に押していくかと思ったら上手に引いて見せたりって感じで仕掛けてくるのよ〜。
あの女が出入りするようになってから、男どもは押され負けて落ちて連中の仲間入りするか、サークルを辞めるかの2択って感じになってるわね。
お陰でサークル内の雰囲気も最近かなり悪くなってきちゃってて」
溜め息を吐きながら、守屋さんと一緒にいた女性が教えてくれた。
うげ〜。
マジもんの逆ハー付きサークルブレイカーってやつ?
『準備完了にゃ!』
女性陣と雑談していたら、クルミから念話が届いた。
ちょっとバッグの中の携帯を探して漁っているふりをして雑談から抜けて、クルミ経由で八代アヤカの精神を読むのに集中する。
うげげ〜!!
キャバクラ嬢っぽいと思ったら、この人マジでキャバクラでバイトしているんじゃん?!
ちょっと高級路線な店で男相手に愛想を振り撒いて酒をオーダーさせている記憶が見えた。普通の大学生が通えるようなところでは無いから、まだ大学の知人には知られていないようだ。でも、貢がせる為に男をどんどん引っ掛けているなんて、キャバクラ嬢を自営業としてやっているような感じだね。ある意味、キャバクラ嬢なのがバレても実態は変わらないってやつじゃん。
酒は売りつけてないけど。
キャバクラ嬢だったら店の護衛役みたいのが逆上した客から守ってくれるかもだけど、自営業的に大学で男を引っ掛けて貢がせていたらそのうち刺されるんじゃない??
西江に関しては……父親が刺される前の時代に買っていたそこそこ良い物を使い続けていたのを見て、金持ちだと判断している記憶が残っている。
今更金がないと言われても、それで引いたら金目当てと言うのが露骨すぎる形で顕になってしまうから、嫌がらせも兼ねてより強硬にアタックして落としてから借金漬けにでもした上で捨ててやろうと考えているのが、一番直近な先程の場面での記憶だった。
うわ〜。
ドン引き〜。




