取り敢えず観察し
「ランチ奢るから、良かったらこの講義の後にサークルの部室まで同行してくれないか?
粘着してくる女が変な生霊か悪霊に憑かれてないか、確認して貰えたら……物凄く助かるんだが」
クラスルームに向かいながら、暫し迷っている感じに沈黙していた西江がやがて小さく咳をしてから私に頼んできた。
ランチ代で何かに憑かれているか判定を頼むのはちょっと相場より安いよ〜?
青木氏の事故物件判定でももっと取ってるのに。
まあ、ランチに行くついでにちょっと部室に忘れ物を取りに行く感じで寄って顔を出して相手を見る程度だったら構わないけどね。
「ランチの時にサークルの部屋に行ったらその女性が確実にいるの?
会える様になるまで何度も付き合って出向くのは嫌よ?」
夕方ならまだしも、ランチ時間にいるんかね?
「毎週火曜日はちょうどサークルで仲のいい連中の講義スケジュールがいい感じに合うから、今年になってからはいつもランチの時間に皆でサークルの部屋で集まってどこに食べに行くか決めていたんだ。
あの女にそれがバレて、最近は常に待ち受けている様になった上に……何故かダチたちも、あの女の味方をするんだ。
俺が興味がない、あいつを彼女にする積もりは微塵もないって何度も言っているのに、本人は『照れちゃって〜』なんて嬉しそうに言ってまともに受け止めないし、ダチたちも『あんな可愛い子に好かれたら最高だろ〜?』とか言うんだよ。
どう考えても何かおかしい。
部屋が変な色魔的な悪霊にでも取り憑かれたのかとも思ったけど、皆の行動がおかしいのはあの女に関してだけで、しかも部室じゃなくてもあいつに味方する。
だからあの女に色魔的な悪霊でも取り憑いているのかも?と思ってね。
もしくは何か生霊的に皆を操っているのかも?」
西江が溜息を吐きながら説明した。
う〜ん、悪霊が自分の面白い様に周囲を動かすために変な影響を及ぼす事も絶対に無いとは言わないけど。その女が黒魔術の適性持ちな可能性の方が高いんじゃないかな?
もしくは魅了系のスキル持ちだとか。
と言うか。
「意外とさりげないボディタッチとか微笑みで男を上手く転がせる女もいるもんだよ?
あと、生霊はストーキングするとか恨みを撒き散らして恐怖を与えるケースが多くて、変な姫プをするのを手伝うことは少ないんじゃないかな」
魅了系の力持ちだったら封じるべきだけど、私がそんな事が出来ると大学の人間には知られたく無い。それに、私に相談すれば解決すると思われて安易に頼られる関係になるのも御免だ。
西江は私が退魔協会で退魔師として働いているのを知っているから、普通にプロの退魔師が持っている能力の一種だと思わせればいいけど。
まあ、魅了系だろうが普通の能力だろうが、悪用していたら封じるのに代わりはないから退魔協会に通告して封じちゃうべきかね? 多分、気付いたのに放置したらカルマ的にマイナスだよね〜。
下手に通告すると露骨な違法行為していないのに封じるのは……とか言われる可能性もある。マジでチヤホヤされて条件が良さげな男をモノにする為に力を使っているなら、何も言わずに封じた方が良いかな。
西江には、あんたの為にやるんだから秘密だよ?!と言い含めるか。
いや、それよりも悪霊憑きだったって事にして神社に連れて行って厄祓いするよう誘導して、その結果で治ったと思わせた方が良いかな。私が手を貸したとは極力思わせたくない。
知らない事は人に漏らせない。
変に能力を封じる事が出来ると知られて今後も頼られるよりは、『確かになんか変な悪霊が憑いているね』と言って厄祓いに連れて行くのに協力して、その時にどさくさ紛れに能力を封じる方が無難そうだ。
『悪霊』憑きと言うよりも『悪魔』憑きと考えれば、変に異性を魅了する力があってもおかしくはないよね。
……そう考えると、悪霊でもそう言う方向に力を振るう存在も実際にいるのかな??
西洋系の悪魔が実のところは悪霊なのか、何か別な異界のサキュバス的存在なのかは不明だが。人の生気を吸うタイプの存在でも、こうも魔素が薄い現代地球では力を振るうのも生き残るのもかなり厳しいと思う。
毎回人間がミイラになって干からびるぐらい生気を吸い尽くせるならまだしも、そこまでやったらあっという間に追っ手を掛けられるから生存競争的にはマイナスだ。
最近流行りのラノベでは上手い事親や周囲を言い包める毒姉や毒妹って、別に魅了系の能力がないのに巧みな嘘や泣き真似で主人公の立場をズタボロにするようだけど。ああ言うのって現実に可能なテクニックなのかな?
ある意味、その粘着女が能力無しで悪霊も憑いていなかったら、どうやって周囲を転がしているのか、観察してみたいかも。




