カルマ
まずは碧がハサミを浄化した。
それなりにタチの悪い悪霊が憑いていたが、黒板に爪を立てる様な不快な悲鳴(物理的じゃないけど)をあげながら消えていった。
それでも被疑者のおっさんは目覚めない。
やはりおっさんの精神に取り残された悪霊の残滓が問題なようだ。
「ハサミは浄化しました。
おっさんはそのうち目覚めるのでは?もしかしたら意識を失った時に頭を打ったのかも?で帰っちゃやっぱダメかな?」
条件付けを埋め込むのってそれなりに疲れるし、神経を使うからなぁ。
このままおっさんが植物人間になってくれる方が楽なんだけど。
「ダメじゃ無い?
下手をしたらハサミを振り回したこの男を取り押さえた警官がやり過ぎたって処分されかねないし。
それにハサミの方の悪霊の本体を祓ったから、もしかしたら本人に紛れ込んだ残滓の方は普通の術師でも祓えちゃうかもだから、今のうちにちょっとした後遺症っぽく条件付けを埋め込む方が世のためでしょ」
碧が私の提案を却下した。
まあ、確かに紛れ込んだ悪霊の残滓を消し去るのはそれ程パワーは要らないだろうね。
丁寧にやらないと本人の記憶とかをうっかり一部消し去っちゃうかもだけど。
少し悪事の成功経験的な記憶も消して、悪霊を引っぺがした後遺症が『ある』し『しょうがない』って認識させるかな?
そうすれば別の術師に再確認させないかも。
「折角本人の魂の奥深くまで悪霊の一部が入り込んで居るから、それを利用して深層心理の方に条件を埋め込んで、あとはそれこそ悪事を働いたら穢れ過ぎて死んだ時に昇天できなくてあの刀に取り憑いていた悪霊みたいな存在になるか、生まれ変わる先が下等生物になるってアイディアも浸透させておくか」
悪霊が本当に存在するのだ、カルマもあるかも?って自分で考えるように誘導しよう。
「そうね。
考えてみたら露骨に悪事をした時だけ偏頭痛が起きるとかだったら何か変な条件付けをされたのかもと疑われて本国の術者に術の解除を依頼されかねないかも。こう……人を足蹴にしたら心臓がドキドキするとか、視界が一瞬暗くなるぐらいな程度にしておいて、あとは夜にGかゴブリンに生まれ変わる悪夢を見させるようにしたらどう?」
碧が提案してきた。
私が埋め込んだ制約的条件を解除できる術者がそうそう居るとは思えないが、何事も絶対はないからねぇ。
それに解除出来ないけど術は掛かってますってあっちの術者にチクられて政府経由で苦情が来たら色々と問題が起きるかもだし。
ちょっと心臓が不整脈を起こし漠然と不安を感じるようにして、その晩に悪夢を見るようにするか。
私がゴブリンとして生きた人生(ゴブリン生)は覚醒した後に比較的短期間で終わったけど、それまでに死ぬような目に遭ったり、仲間が死ぬのを沢山経験したのは覚醒後にも記憶に残っていた。
あの記憶をがっつり色々と記憶の奥深くにコピーしておいて、悪事を働くたびに夜にそれをアクセスして追体験の悪夢を見るようにしよう。死んだ後に審判を受けて積み重ねた悪事に対応した転生先が決められたって一場面を入れておけば、死霊に取り憑かれて死後の世界を意識する様になったせいで悪夢を見ていると思ってくれると期待しよう。
オスのゴブリンとして人間を襲って人殺しをしていた記憶なんて持たせたら却って凶暴性が悪化しそうだが、メスのゴブリンは群の中でも殴られる事も多く、当然餌を探しにいっても苦労が多くて飢えているか、どこか怪我をして痛い思いをしているか、その両方かが多かった。
私の過去の転生ライフで全て性が同じだったことを考えるとこのおっさんが生まれ変わったら男になる可能性が高いが、そんなのは誰にも分からないからね。
次の生でメスゴブリンの惨めな生涯で苦しむのがカルマのせいかもだと思って、自分の行動を反省してくれると期待しよう。
それが全然効果が無かった場合に備えて、悪意で人を殺したり、殺させたりしたら脳卒中でも起きるようにプレッシャーを掛けるトリガーでも埋め込んでおこうかなぁ。
因果応報的な死だったら極端にカルマに悪影響はないよね??




