悪事の継続を可能にするのは共犯行為?
「この人ったらなんて言うか……嬉々として自分の利益の為に弱い者虐めや弱者からの搾取、ついでに敵どころか味方陣営でも競争相手を陥れるような事をやりまくってきたみたいなんだけど。
そんな奴をハサミに残っている妖刀の悪霊から切り離して、清めてそのまま世に戻しちゃって良いのかな?」
思わず碧に相談する。碧が浄化したらこのドブ水の如き人間性も清められたり……しないよねぇ。
社会で生活する中で、すれ違った誰かが他者を痛め付けている事に気付いたからってその人物を勝手に裁いて社会から除外する権利も義務も私たちには無い。だが、折角無力化された状態なのに、それを癒して再度世に放つとなると……今後のコイツによる悪事の責任の一端がこちらにも多少なりともある様な気がするんだけど。
どうだろう? 気のせいかな? 私のカルマ値は大丈夫だろうか?
「う〜ん、依頼だからって他者を陥れる様なタイプの人間を社会に戻すか否かっていうのは確かに悩ましい問題だね」
碧が顔を顰めて考え込んだ。
「人からの怨みに対して極度に弱くするなんてことが出来たら良いんだけど、難しいから。人の悪感情に気付きやすくなってそれを気に病むようにちょっと意思誘導するのは可能だけど、この人格だと気に病んで恨みの念を抱きそうな相手を先に手を回して抹殺させそうな気がしないでも無いんだよねぇ」
悪事を止めて恨まれない様にするのではなく、裏社会に金を払って恨んでくる様な人間を殺すよう依頼する方向に動きそうで心配だ。
ある意味、此奴は今までの悪事は自分なら大丈夫という多少自信過剰な思いから報復などを恐れずにやりたいようにやって、やった後は被害者達へ一顧だにしないで生きてきた。だが悪事を気に病むようにしたら……そういう行動をやめようと考えるよりも、逆恨み(正当な恨みも)をしそうな相手を陥れた段階でついでに最終的な形で排除するスタイルになりそうなんだよねぇ。
社会への害を減らそうとして、より周到に、徹底的に周囲を叩きのめして欲しいモノを手に入れる人間になってしまったら困る。
「こう、条件付けとか意思誘導で法を守らなきゃいけないって考えを埋め込むのはどう?」
碧が尋ねる。
「あの国は弁護士と権力者次第でかなり柔軟に法も正義も曲がるみたいじゃない?
法の抜け穴を見つけるのに邁進しそう」
そんでもって法ではなく倫理的な価値観に基づく『悪事をしない』って言う条件付けも難しいんだよねぇ。
流石に自分で人を殺す気はないようだが、嘘をついて騙す事に関しては『情報収集をちゃんとしないで騙される方が悪い』って心の底から信じている。なので詐欺行為や裏切りが本人的には『悪事』に含まれないのだ。
マジで来世はGにでも生まれ変わりそうな勢いでマイナスカルマを積み上げていると思う。
でも、問題は今世なんだよねぇ。
これを世に放ったら私のカルマにマイナスな影響がありそうで、怖い。
「じゃあ、合法だろうが違法だろうが。人を蹴り落とすような行為をしたら頭がガンガン痛くなる様な条件付けなんかどう?
無辜な人を搾取するのも『蹴り落とす』に含まれる様にして」
碧が提案した。
確かに、無辜な人を搾取するのだって相手を蹴り落としているのに近いかも?
搾取も蹴るような攻撃だと前提条件的に刷り込んでから、蹴り落とす=頭痛と条件付けるか。
頭痛を気にせずに悪事を止めない可能性はあるが、偏頭痛っぽい頭痛になるようにしたら動きが取れなくなって悪事をやらなくなるか、やっても頭痛が邪魔で隠蔽する体制を完璧には準備出来ず、悪事が早く発覚するかも?
「それでいってみようか。
じゃあ、取り敢えず碧がハサミを浄化しちゃって?
何かおっさんの方に残ったら私はそれを綺麗にして、その後条件付けを埋め込んでみる」
どの位条件付けが継続するかは不明だが、抗えば抗うほど早く消える。
願わくは、偏頭痛の痛みが酷すぎて抗う気力も出てこないと期待しよう。
 




