政治的圧力ですか
『本国でどうしても出席しなければならない重要な会議あるとかで、至急だと押し込まれまして。
現在政府間で交渉中の関税に関する取り決めについて、大統領に対する貸しを一つ使っても良いと大使本人が言っているそうで、こちらにも色々と急げと言ってくる言葉が届いていまして……』
遠藤氏が渋る碧に裏をぶっちゃける。
凄いね〜。でもさ、大使の貸しってどの程度実行力があるんかね? それこそ先進国の大使ポジション自体が大統領が借りを返すのに使う手段の一つだってどこかの記事で見た気がするんだけど。
大統領本人は既に借りは無いと思ってたりしない?
それに。
「でも、その人ったら突然ホテルのロビーで日本刀を振り回して何人かに怪我をさせたんですよね?
どう考えても傷害罪で逮捕・起訴されるんじゃないですか?
もしくは危険な精神異常者として拘束か」
思わず突っ込みをいれる。
政府のお偉いさんと伝手があったって、人を襲い掛かったんだったら収監されなきゃでしょ??
『危険な妖刀に取り憑かれての狼藉でしたら心神喪失状態だろうと大使館の方は言っているのですよ。
ですから少なくとも悪霊を引き剥がして本人にどの程度意識があったのか、至急確認する必要があるのです』
遠藤氏が応じる。
それって、悪霊を引っぺがして意識が覚醒したら『本人はそんな狼藉を働く人間じゃ無いと確認がとれたから』ってことで心神喪失状態だったと決めつけて、あっさり釈放にならない?
政府間の交渉で手心を加えても良いと相手が思うほど重要な人物だったら、絶対に日本政府は起訴しない気がする。
「そんな危険だとわかっている妖刀を買ったこと自体がアホだし、それを人がいるホテルのロビーで手に取った時点で法に咎められても自己責任な世界じゃないですか。
お偉いさんと繋がりがあるからお咎めなしなんて、納得がいきませんね」
碧がムッとした様子で言い返す。
だよねぇ。
偉いからって人を斬り付けたのをなかった事にするなんて許しちゃいけないでしょう。
『既にそのビジネスマンの会社が大使館を通して被害者に多額の賠償金を支払って示談を成立させており、被害者たちは守秘義務契約まで結んでいます。
日本にしても、これで関税が数%下がるのでしたら今回の事件を『不幸な事故』という事で済ます積もりだそうです。
ただ、意識が目覚めないのでは話になりませんし、実際に悪霊に体を乗っ取られて人に切りつけたと言う確証が必要なのです』
遠藤氏が根気よく私たちを説得しようと続けた。
まあ、最近の新聞の記事を思い起こせば、一般人が数人斬り付けられたのを無かったことにするだけで関税が下がるなら、政治家は絶対それを推すだろうなぁ。守秘義務契約を結んでいるなら、被害者がメディアに政府の弱腰を責める訴えをするって事も無いだろうし。
怪我をした人たちがお金で黙るのも吝かじゃないならそれはそれで良いけど。
ちょっとモヤモヤするが、そこらへんはまあ目を瞑る。
が。
私と碧が大使館の人間が近くで待機していそうな人に近づくのはねぇ。
マジで危険じゃない?
スパイ映画なんかで、仮想敵国で情報とかを盗んだ主人公や脇役が大使館に逃げ込めば治外法権があるから大丈夫って言うのって、見方を変えれば大使館の中に運び込まれたらそのまま亡命希望を出したことにされて日本の警察とかと会えなくても不思議は無いわけでしょ?
勝手に亡命希望を出したことにされて、そのまま横田基地かどっかから米軍の輸送機で連れ去られたらどうしてくれる。
流石に常識的に考えれば同盟国の国民相手にそこまでやらないとは思うけど、今のあの国のトップって『常識』と縁が無いみたいだから怖いよ。
どの程度のことだったら白龍さまの天罰ディフェンスを発動できるか、はっきりしないし。
「誰か他の退魔師にやらせれば良いのでは?」
碧がイライラしながら言った。
『既に中堅の術師が一人派遣されて、失敗したんです。
どうも変なふうにビジネスマンの魂に融合してしまっているとかで、無理やり引っぺがすと一生目を覚まさなくなるおそれがあると』
おやま。
そんなに妖刀の悪霊と相性が良いんだとしたら、そのビジネスマンって人格的に問題が有りまくりなんじゃない?
社会の平和のためには、それこそ2度と目が覚めない方が良いかもなんて思ってしまうのは考えすぎかな?
「では、これは藤山家の今年後期のノルマ分だと考えて良いですか?」
碧がズバッと聞いた。
そういえば、そんなのがあるんだっけ。
政治家が圧力を掛けててどうせやる羽目になるなら、精一杯活用しなきゃだよね。
『勿論です』
「では、大使館なり本人の秘書なりガードなり、全ての人が私に触れようとしたら昏倒して重度の下痢に10日ほど苦しむことになると言う理解のもと、絶対に誰も私たちに手を出さないと誓約して貰えますか?
当然、後からお礼のために会いたいと言うのも無しです」
碧が条件を出していく。
過剰防衛上等って感じだね。
最初からそうするよって合意していれば、触った方が悪いんだし。
『……しっかり文書で書き出して署名を貰っておきます』
暫しの沈黙にあと、遠藤氏が応じた。
まあ、頑張ってね。




