トラック
「あれ?
クール宅配便が斜めだ」
偶々大学から帰る時間がほぼ同じで駅で出会った碧と一緒に駅から歩いていたら、右の方を見た碧がびっくりしたような声を上げた。
「は?」
思わず釣られて右を見たところ、路駐してあるトラックとヴァンの間を斜めになったクール宅配便のトラックがすい〜と進んで行った。
何あれ。
思わず呆気に取られてそれを目で追ったら、トラックの向こう側からレッカー車が姿を現した。
なぜか青と赤のライトが上で点滅している。
レッカー車の後ろに車がもう一台続いてますよ〜って知らせる為なのかな?
予想通り、レッカー車の後ろから斜めになったクール宅配便トラックの運転席?フロント部分?が現れた。故障してレッカー中らしい。
「街中で、新車とか中古車のディーラーへ運んでいる最中らしき複数の乗用車が乗ってるトレーラーみたいのとか、故障した車を動かしているレッカー車とかは時折見るけど、宅配便のトラックがレッカー車で引っ張られるのを見るのって初めてかも」
碧がコメントした。
「確かに。
駐車違反だとしてもレッカーされたりはしないよね?
だとしたら、故障したのかな?」
時間との争い的な宅配便のトラックなんて、故障しないように念入りに整備してそうだけど。
うっかり路肩とか駐車場の車止めか何かに勢いよく変な風にぶつけて車軸でも折ったのかね?
普通に車とか電信柱にぶつけたような破損跡は見あたらないけど。
まあ、整備をしっかりしていても故障することもあるのだろうが。
嫌がらせでガソリンタンクのところに砂糖とか放り込まれてもエンジンが壊れるって何かで読んだ気がする。
とは言え今時のガソリンの給油口って中からレバーを引くかボタンを押すかしないと開かないと思うから、そうそう嫌がらせをされる事もなさそうだよね。
「配達途中だった場合って、荷物はどうなったんだろ?」
碧が微妙そうな顔をして呟いた。
こないだロールケーキを通販で頼んだところなんだよね。
あれってクール宅配便で配達される筈だが、多分今日来る予定は無かった筈。
「予備のクール便用のトラックが近くにあったら良いけどねぇ。
配達が遅れて苦情が来まくるのはまだしも、中のものが温くなって腐ったり溶けたりしたら大問題だよね」
真夏だったらマジでやばそう。
代替トラックの中を冷やすのにも時間が掛かるだろうし、真夏の日差しの中で積み替える間にもガンガン熱を吸収しそう。
ガッツリ冷えている冷凍便は良いかもだけど、冷蔵の荷物なんてマジで温くなって生クリーム系の物だったりしたら溶けてべしょべしょになりそう。
まあ、普通は生クリーム系は冷凍で届くよね?
そう考えると、冷やすだけの冷蔵便って何に使うんだろ?
あまり暑くなると劣化しそうなゼリーとか?
生の果物も冷凍しちゃうと変質しちゃうから冷蔵か。
苺や桃あたりは温くなったら早く悪くなりそうなイメージだなぁ。
実際のところどうなのかは知らないけど。
「宅配のトラック運転手ってかなりハードな職種だと思うけど、配達中にトラックが故障したらマジで目の前真っ暗になりそうなぐらい大変そう」
碧が同情を込めて言った。
だよねぇ。
「街中を暑い最中に台車とかに荷物を乗せて早歩きとか駆け足で動き回っているのも辛いだろうし、マジであの業界もハード過ぎて人を見つけるのが大変そう」
まあ、そう言う大変な業界だからこそ、郵便局は配達便の運転手に関する色んな事前安全チェックをスキップする支局が多かったんだろうねぇ。
大手宅配に比べると郵便局の方が負け込んでそうだから、益々人を雇ったりコンプラに気を使う余裕が無かったんだろう。
とは言え、酒気帯びチェックは道を歩く地域の住民の命に関わる問題なんだから、しっかりやらない局員の気が知れないけど。
マジで郵便局、もっとしっかりしろよって感じ。
全国に広がる大きな組織だけど、なまじ歴史があって昔から存在する組織だから、地方の下部組織の力が強すぎて経営陣が色々と合理化しようとかコンプラの重要性とかを説いても、世襲局長的なところとかは全然言うことを聞いてくれないのかね?
怖すぎる。
そんな事を考えながら、家に帰ったら玄関の扉を開けたところで聞き慣れた電話の着信音が聞こえてきた。
あらま。
また退魔協会か。
最近依頼が多いんだけど〜。
まだ一応学生だし、卒論を書かないと卒業できないって分かってるんかね?




