挨拶
色々と双方の希望について話し合った結果、キャロルの友人とは上諏訪駅で落ち合うことになった。
卵を渡してさよならでオッケーなら東京で会っても良かったのだが、入れないにしてもせめて聖域のそばまで行ってその存在を確認しなければ自分を頼った存在の信頼を損ねる事態になったら困ると主張されたのだ。
ちなみに、日本語は話せないとのこと。
東京で落ち合って諏訪までコミュニケーションに苦労するよりは、現地で落ち合う方が楽!と言う碧の意見により、上諏訪駅での待ち合わせになったのだ。
「折角だから外人との時間を英語の鍛錬に活用するかと思ったてた」
上諏訪駅の駅前のロータリーでレンタカーを停めて待ちながら、コメントする。
私よりも碧の方がキャロルとかのやり取りも熱心っぽかったし。
「いやぁ、流石に凛もいるのに英語の勉強に集中する訳にもいかないでしょ。
そうなると一々キャロルに色々と訳してもらいながら会話するのはチンタラし過ぎでイライラして疲れそうでしょ? 車でささっと駅まで迎えに来て聖域に行ってまた送るんだったら家に誘わなくて済むし。やっぱ背景が不明だったり微妙だったりな人は実家に招きたくは無いからねぇ」
碧が苦笑しながら言った。
確かに。
変な盗聴器とかを設置されたら嫌だよね。
なんと言っても数少ない現存する氏神さまの愛し子で、超一流な回復師なのだ。
上手いこと家族の情報を使って海外移住するように説得しろって上から言われている可能性だってゼロでは無い。
それどころか、碧の移動プランを知ることで誘拐するとかだってあり得なくはないのだ。
普通ならば白龍さまの祟りが怖くてやらんだろうと思うけど、何と言っても現在のあの国のトップは地球温暖化を世界最大の詐欺だと国連のスピーチで言い放つような人間なのだ。
本人もしくはその部下が何を信じてどんな命令を出すかは分かったものではない。
まあ、地球の未来のためには、あのトップ本人が命令しているならば敢えて碧に手を出させて、天罰ディフェンスで政界から(この世でも良いけど)追い出すのも一つの選択肢と言えなくも無いけどね。
とは言え、そこまで差し迫っていない現状では流石に碧もそこまで自己犠牲精神が強くはないらしい。
中途半端な地位の人間が命令を出していて、天罰ディフェンスを喰らった部下を見て大統領が日本にイチャモン付けてきても困るしね。
時間通りに電車が到着したのか、待ち合わせの時間になったら人が駅の中から流れ出てきた。
お。キャロルの明るい色の髪の毛を発見。
まあ、今時だと金髪とか銀髪とかピンク髪とかいるから、外国人の髪の毛がそこまで目立つ訳じゃ無いんだけど。キャロルは他の日本人よりは背が高いし、首や頭の形や姿勢がちょっと違うんだよね。なのでそれなりに探しやすい。
一緒に出てきた人は小柄で日本人っぽい背格好だったけど。
そっか、インディアンな人って見た目は東洋人なんだっけ。
東洋人と言うか、モンゴロイドか。
確か最終氷河期ぐらいにシベリア経由でアメリカに渡ったとかってネットに書いてあった。
それが北米と南米全部に行き渡ったんだから、人間の広がるパワーって凄いよねぇ。
なのに人種がそれほど混じり合わずに白人と黒人とモンゴロイドの三種が今でも残っているのって、見た目とかの違いがあると混じり合わない人間社会の排他性の証左かね?
まあ、1万年(?)かければ南北両方のアメリカ大陸を網羅できるぐらい人間が広がるとは言え、一度広まったところに他から入って来るのは戦いになって難しいのだろう。だから各地域に住み着く集団が出来上がった後は人類の広がりは一気に遅くなり、停滞して混じり合わなくなったのかも?
車から出て手を振ったら、こちらを見たキャロルが手を振り返して友人に声をかけ、こっちに向かってきた。
「ハ〜イ!
こちらがカレンです!
Karen, this is Midori and Rin!」
キャロルが一緒に来た女性を紹介した。
うわ〜。
なんかこう、アメリカ人って骨格が日本人に似てても、メイクの仕方が全然違って、明らかに『外人』なんだね!
こう、アイシャドウが濃いと言うか目力が強いと言うか。
日本人でもそれなりにマスカラをばっちり使っている人はいるけど、アイシャドウがもっと大人しめなんだね。
キャロルは明らかに白人顔で異質だからあまり気にしなかったのだが、こうやってモンゴロイド顔にしっかりアメリカ風のメイクをされているのを見ると、メイクにも国による違いがあるんだと実感した。
インディアンの人ってもっと素朴かと思っていたんだけど。シャーマンで先祖の宗教観とかに関する研究が好きだからって自国のスタンダートに基づいた美意識で美しくなろうとしないとは限らないんだね。
サンダーバードがかなり素朴と言うか無頓着だったから、なんかインディアン系の人って皆あんな感じなのかと思っていたわ〜。
「藤山碧です、よろしく」
碧がにこやかに挨拶した。
『白龍《white dragon》の愛し子!!!
助けて!!』
どこからか、念話が挨拶に割り込んできた。
『助けを求めるなら、挨拶ぐらいちゃんとせんか!』
ピシャっと軽い雷(電撃?)がカレンさんのキャリーケースに落ちた。
あらら。