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繋がってるよね、きっと。

「藤本さまの病室は4階です。

 ここから降りて直ぐですので」

 吉田氏(病院の職員)がそう言いながら職員用駐車場から繋がっていた廊下を進み、『非常階段』と緑色の人影が走っているランプが設置されたドアを開いた。

 階段の踊り場に『5』と大きく書いてあるから、直ぐ下が4階だよね。

 そう思ってるかも下を見たら。

 人影があった。

 何やら階段からの扉を少しだけ開けて、中腰で覗き込んでいる女性がいる。

 ……背丈的に、西江さんじゃない、あれ?

 少なくとも近藤さんが一緒になってやっていない事だけは救いだが、なんだって退魔師の姿を見ようと隠れているんだろ?

 別の理由で隠れている可能性もゼロではないが、どう考えてもあまり人様に言えないような理由で非常階段でコソコソしているよね、彼女。

 それこそ、次回厄祓いが必要な状況になった時に、知人価格で安く退魔師に頼める伝手が欲しいとか。じゃなきゃ、大金払ったのに退魔師が来ても状況が改善しなかったら『詐欺師だ!』って現れた人物をネットに晒そうと考えていそう。


「吉田さん。

 下の階の踊り場に変な人が」

 階段を降りようとした吉田氏を止めて、手すりの内側から下を覗き見るように手招きする。


 はぁぁぁぁ。

 西江さん(推定)の姿を見て、吉田氏が深くため息を吐いた。

「彼女ですか。

 藤本さんの幼馴染らしくて、ご当主様とも面識があるようなんですが医師にはベタベタと甘い声を出してゴマをすって診療の時間を無駄に長引かせるのに、病院のスタッフに対しては入院費や検査料を騙し取ろうとしているヤブか詐欺師とでも言いたげな言動をチクチクするので、本当に皆から嫌がられているんですよ、彼女。

 あんな所に隠れて何をやろうとしているんだか」

 吉田氏が携帯を取り出した。

「あ、伊藤先生。

 あの『幼馴染』が非常階段に隠れています。

 下に行くふりをして思いっきりドアを開けてガツンとやってくれませんか?」

 吉田氏が電話でリクエストしていた。


 いやいや、流石に扉で頭をガツンとやれは意図的にしちゃダメでしょう。

 気持ちは分からないでもないけど。


 そんな事を考えていたら、カツカツと靴音がしたと思ったら、バーン!と非常階段扉が押し開けられ、若い女性の医師(多分)が階段に急ぎ足で入ってきた。

「あら、西江さん。

 色々と危険性や準備があるから取り敢えず病院から一旦退去してくださいとお伝えした筈ですが、なにか忘れ物ですか?」

 慌てて中腰の姿勢から背を伸ばして扉から飛び退いた西江さんに、その女性が声を掛けた。


「え〜と、ああ、ちょっと忘れ物をしたかと思って戻ってきたんですけど、考えてみたら家に置いてきたのかも!

 取り敢えず一旦帰って確認しますね!」

 そう言いながら、西江さんが中々の速度で階段を駆け降りていった。


 いやぁ、職員の人に目立たないルートから迎え入れて貰って良かった。

 普通に自力でコソコソしていたら目撃されて、彼女の記憶を無理矢理消すハメになっていたわ。


 女医の先生もそのまま階段を降りていったので、私たちは4階まで降りて扉を開けて病室の方へ向かう。

 奥の角にナースステーションっぽい机の集まった場所があり、そこの斜め前の部屋へ案内された。


「うわぁ」

 碧が思わず声を上げて周囲を見回した。


「凄いね」

 まだ日が暮れる前で、窓があって天井の電気もついていると言うのに部屋の中は薄暗く、壁や床が黒い霧に包まれているように視える。


 そしてベッドに横たわる女性の胸の上には何やら人影っぽい黒い塊がのしのしと亜希子さん(多分)の胸や腹を踏み砕かんとでも言いたげな感じにどすどす動き回っていた。


 いや、霊だからいくら闇が濃くてもドスドスと音はしないが、なんかこう、地響きしそうな迫力を持って動いているんだよねぇ。

 どんだけ怒り狂っているんだか。

 でも、亜希子さんって貴方らを虐殺した連中とは完全に別口だよ?

 人種からして違うんだから、『同胞』枠の八つ当たりの対象にもならないでしょうに。


「これは話し合いも説得も無駄そうね」

 碧がドスドス動いている黒い塊を見ながら言った。


「だね。

 結界を張るから祓うのお願い」

 今回のようにどっちがやっても大して差がない除霊1体の場合は十円玉をトスしてどちらがやるか決めるのだが、今回は表(2人の間では大きく10と数字が書いてある方を推定『表』としている)が出たので私が結界、碧が祓う事になっている。


 入り口で立ち止まっていた吉田氏に一言断って扉を閉め、部屋に結界を張る。

 かなりガッツリ力を込めなきゃ祓えなそうだから、結界もしっかりしないと病院中がうっかり清められかねない。


 そんな事をしたら退魔協会からグダグダ言われそうだし、誰か転嫁付きの呪詛を受けている人が居たら不味いしね。


「はい、準備完了」

 結界がしっかり出来たところで碧に声を掛ける。


「ほ〜い」

 碧が祝詞を唱え始めた。

 お、今回はかなり本格的な祝詞をですね。

 普通の悪霊だったら一人なら声を出さずに済ますことも多いのに。


 それだけこの悪霊が強いようだが。

 日本で祓われて、ペルーの天国にいけると良いね。

 きっと空は地球上のどの地点でも繋がってるよ。

 ……インカ文明の天国が空にあると信じられていたのかは知らないけど。



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国や文明ごとに違うあの世があるのでしょうか
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