やっぱり?
「取り敢えず、関係者用の裏口から入ろう」
室内着から着替えてリビングに戻ったら、先に戻っていた碧がタブレットで病院を検索をしていた。
「確かに正面玄関はどこかから見張られている可能性はあるけど、裏口から入れるのかな?」
誰でも入れるんじゃそれこそ入院した芸能人とか政治家に突撃したいマスコミやファンの人間が入り放題で問題あり過ぎな気がする。
「そこは病院の人に駐車場の目立たない場所にでも迎えに来て連れ込んで貰おう。
今回は病院も依頼の履行を急かすのに絡んでいるんだから、そのくらいの協力はしてくれるでしょ」
碧が言った。
確かにね。
認識阻害もある程度は使うにしても、意識誘導とかを使って警備員を騙しながら入っていくよりは、病院側に協力させる方が良いよね。
丁度その時に電話が鳴った。
遠藤氏だろうね。
「家族・友人の退去は確認出来ましたか?」
碧が尋ねる。
『入院中の部屋とその階からは離れました』
遠藤氏が微妙にはっきりしない口ぶりで応じた。
どうやら追い出しに納得しない家族か友人が病院内に残っている可能性は高いんかな?
まあ、家族が居るのは邪魔さえしなきゃ別に構わないんだけどね。
でも幼馴染となると家族とも面識があって情報漏洩が起きそうだから、顔を合わせるのは避けたい。
「じゃあ、病院の裏口か駐車場の目立たない場所かで誰か病院の職員にでも迎えに来てもらって、人目につかない関係者用のルートで病室まで案内して貰えます?」
端の方の人が来ない非常階段とかで上がっていくんで構わないから。
『……分かりました、手配しておきます。
病院の最寄り駅に着いたらご連絡頂けますか?』
遠藤氏がこちらの要求に合意した。
うっし。
あとは職員の人に合流した後に私と碧の周りに緩い認識阻害の結界を張っておけば大丈夫だね。
◆◆◆◆
「退魔協会の方ですか?
本日はどうもありがとうございます。◯堂病院の吉田と申します」
遠藤氏に言われた通りにタクシーで最寄り駅から病院の向かい、駐車場の方に入って2階の角で降ろして貰って階段へ行ったら若い(と言っても30歳ぐらい?)男性が待っていた。
「ええ。お待たせしました」
まあ、直ぐにタクシーが捕まったし、道も混んでいなかったのでそんなに待っては居ないと思うけど。このセリフは定番の社交辞令というか建前と言うか、人間関係の潤滑油っぽい配慮みたいなものだよね。
「いえいえ。
急な依頼に対応していただき、こちらこそ有難うございます。
あの患者が運び込まれてからもう……」
言葉にもならないぐらい大変なのか、一瞬男性が天を仰ぎ、そのまま言葉を続けずに急いで階段を上がり始めた。
「駐車場の4階は職員用で、上から院内に直接入れるんです」
吉田氏が教えてくれた。
なるほど、看護師はまだしも、夜中に呼び出されたりするかも知れない医者なんかの車を停める場所は必要だよね。
職員用駐車場は不可欠か。
まあ、都内に住んでいたら車を買うよりもタクシーを使う可能性の方が高そうだけど。
あるいはバイクで来るとか。
いや、急患の連絡があってバイクで急いでいて交通事故で医者本人が大怪我しちゃったら意味がないから、バイクは慌てている時は使わない方が良いかな?
駐車場代等はかなり安くなるけど。
それはさておき。
こっそり私と碧の周りに認識阻害の結界をふんわりと展開しながら吉田氏の後を追う。
「ちなみに藤本さんのご両親は入院当初から居たんですか?
居たのだったもっと早く退魔協会へ依頼を出されそうなものですが」
ふと気になったので尋ねる。
親が退魔師の存在を信じないタイプなのか、ちょっと知りたいんだけどどう聞くべきか、分からないんだよねぇ。
「藤本さまは旧家らしく退魔協会の存在はご存知でしたが、霊の存在を信じていない様子で『絶対に何か聞いた事がない南米の風土病に違いない、もっと調べろ』と主張するばかりで。
一緒に旅行に行った友人2人が先日見舞いに来た後に、再度戻ってきて自分たちはちょっとした菌に感染していたけど、それの除菌よりも神社の厄祓いで具合が良くなったと言い聞かせて、同じ除菌手続きをやっても容態が改善しなかったのを見てやっと退魔協会へ連絡するのに合意してくれたのです」
吉田氏がため息を吐きながら教えてくれた。
あ〜。
確かに、なまじ南米なんて怪しげなところに行っていたら、聞いたこともない病原菌を貰ってきているに違いない、もっと色々と検査しろ!と主張したくなる気持ちも分からないでもないね。
近藤さんがピロリ菌もどきっぽいのを除菌したけど厄祓いの方が更に効果があったと言ったのが効いたのかな?
でもそれであっさり100万円強を調査員に言われて一気にその場で払うなんて、亜希子さんのお父さん、中々太っ腹だね。
それだけ彼女の容態がヤバいのかもだけど。
まあ、取り敢えず。さっさと除霊して万が一にでも西江さんに見つかる前に帰ろう。