要注意
「こないだペルーに行ったクラスメイトが悪霊を拾ってきてたって話をしたじゃない?」
朝食を食べながら近藤さん達の話を碧にした。
昨日は碧が大学の友人と遊びに行っていたので帰ってきた時点でちょっと遅かったし、軽くお酒も飲んでいたみたいだったから後回しにしたんだよね。
「ああ、◯川神社を勧めておいた人でしょ?
ちゃんと厄祓いに行ったの、その人?」
碧がオレンジジュースをコップに注ぎながら応じた。
「ちゃんと行って、悪霊も祓えたみたい。ついでに病院にも行ったらピロリ菌みたいのを向こうで拾っていたらしくてそっちも除菌して貰ったんだって。
で、それは良いんだけど。一緒に行った残りの二人にも厄祓いの事を教えたらしいんだよねぇ。
そしたら、一人は適当に自分の家の近所の神社でやったら効果がなく、その後◯川神社に行ったら上手くいったんだって」
「2カ所目ならまあまあな勝率じゃ無い?
で、最後の一人は?」
オレンジジュースを飲み干した碧が冷蔵庫を漁って卵、牛乳と食パンを取り出しながら聞いた。
「最後の一人も近所の神社で効果なく、とうとう倒れて入院中だって言われたから、退魔協会の連絡先を教えておいたわ。
だけどその2カ所神社を回った方のクラスメイトの友人、なんと最初の神社に対して厄祓いの料金を返金しろってクレーム付けたんだって。
しかも返金が無理なら、私にその神社を痛い目に合わせるのを手伝って貰いたいってクラスメイトが私に連絡を取った時に強引に引っ付いてきたらしい」
昨晩、あの後暫くしてから謝罪と説明のメッセージが近藤さんからチャットアプリ経由で来たのだ。
なんでも、西江さんはその亜希子とか言う人(苗字は藤本だと教わった)の親しい友人なんだそうだ。近藤さんが親しいのは亜希子さんの方で、西江さんは亜希子さんの幼馴染と言うことで今回の旅行に際して亜希子さん経由で紹介されて一緒に行く事になったと言っていた。
流石に行く前に一度か二度ぐらいは会って話をしただろうけど、然程親しく無い人と長めな旅行に一緒に行くなんて、中々ハイリスクな行動だよねぇ。
気が合わないことが後から発覚したら折角の旅行が台無しだし、万が一ヤバい人だったら行った先次第では危険かも知れないのに。
とは言え、確かに比較的フリーな大学生でもペルーに10日かそこら行くだけの時間と資金のある人はそうそう居ないだろうね。
どうもパッケージツアーに三人分だけ席の残りがあり、三人だと少し割引すると言われて個人的にお互いを知らない近藤さんと西江さんが亜希子さんと旅行に行く事になったらしい。
昨日は厄祓いを勧めた事にお礼を言うと共の亜希子さんの事を相談しようと思っていたら、うっかり聞かれたからその事を西江さんに言っちゃったら自分も礼が言いたいとかなり強引に着いてきたらしい。
まさかそこで神社へクレーム出すのに手伝えと言い出すとは思っていなかったと謝られた。
近藤さんってちょっと押しに弱いのかな?
まあ、あの西江さんってかなり強烈な人だったからねぇ。
ああ言うのは避けるのが一番だろう。
「厄祓いに効果が無いとクレームねぇ。
ある意味そこまで神社の力を信じているなら有難いと言うべきかもだけど、一緒に行った最後の一人が入院するほど酷い悪霊だったら厄祓いでなんとかできると考える方が間違っているとも言えそうじゃない?」
フライパンにミルクを少し混ぜた卵を落として菜箸でかき混ぜながら碧が首を傾げた。
「かもね〜。
まあ、どちらにせよ。
下手をしたら、その案件がこっちに来るかもじゃない?
被害者の名前が藤本亜希子って言うんだけど、もしもそんな苗字の依頼主から話が来て依頼を受けるとしたら、家族も友人も周囲から追い払って、廊下で出待ちも無しな状態じゃ無いと絶対に請けないって言った方が良いかも。
上手くいったとしても、退魔師だとバレたらこれからずっと無料で自分の悪霊祓いをやってくれって付き纏われそう」
そんでもって拒否したら大学中に悪評をばら撒かれる未来が目に浮かぶ。
「うわ、そう言うタイプなんだ。
まあ、神社に返金請求をするのを人に知られても平気な人だもんねぇ。
確かに粘着しそう」
フライパンの火を止めて、塩と胡椒を軽くかけてからマーガリンを塗ったトーストの上にスクランブルエッグを乗せた碧が顔を顰めた。
「退魔協会が高くつくかも〜って言ったら、命を救う為にお金を請求するのか!って憤慨してたからね。
間違いなく一度知り合いになったら何かある度に『友人価格』って事で無料かせいぜい厄祓いの値段で対処してくれって付き纏うと思う」
自分は絶対に他人の手助けをしない癖に、知り合いを全部『友人』って事にして都合よく使おうとするタイプだよね、あれ。
そういう人に実際に本当の友人って居るんかね?
まあ、亜希子さんの幼馴染だと言うから、そちらとは仲がいいのかもだけど。
それでも、亜希子さんの退魔料金を払う気はないようだったが。
「うへぇぇ。
海外旅行でうっかり悪霊を拾ってきた案件の電話が来たら、出来るだけ断る方向でいくわ〜」
スクランブルエッグを乗せたトーストフォークとナイフで切り込みながら、碧が約束した。
なんか見てたら私も食べたくなったから、同じのを作ろうかな。
イギリスに留学したとか言う叔父さんから碧が教わった食べ方らしいが、意外と美味しいんだよねぇ、あれ。