何故やるんだろうね?
西江さんは私に何を求めているのだろうか?
変な事を頼まれちゃう前に、取り敢えず厄祓いに関するクレームは無理だと意見表明しておくのが無難かな?
「え〜と、厄祓いって悪霊を追い払う事を確約している訳ではないから……。
それこそ、何か不運な運命の流れを変えたとか、悪霊を弱めて隣駅の◯川神社での厄祓い成功に貢献したとか、いくらでもなんとでも言えるから、返金を求めるのは無理じゃないかしら?」
と言うか、神社相手に返金を求める人がいるなんて、びっくりだ。
ある意味、結婚式で牧師さんに祝福して(?)もらったのに新婚旅行で大喧嘩して成田離婚したから返金しろって迫るのと同じぐらい無茶な気がする。
考えてみると、結婚式に関しては牧師や宮司や神父に夫婦の仲を保障する事を求める人は居ないよね。
なのになんで結婚式をするのかって改めて考えるとちょっと不思議な気もする。
祝福を受けることが目的ではなく、神様に新しい家族を作りますって報告する場なのかな?
報告しても離婚しちゃうのが日本人だけど。
もしかして、神様に報告したんだから分かれるのは原則許さん!と言うのがカトリック教会の離婚不可な考え方の大元なのかも?
それはさておき。
「でも、◯川神社の倍も取っているのに、ほぼ何も変わらなかったんですよ?!
神社の前で『ここの厄祓いは効きません』と書いた看板でも持って歩き回ろうかと思うぐらい腹が立って。
ただ、圭ちゃん……近藤さんがそれは名誉毀損で訴えられるだろうから止めた方が良いと。
もしかして◯川神社を近藤さんに勧めた長谷川さんなら、何か業界に伝手があって悪徳神社を懲らしめられる手法を知らないかと思ったんです」
西江さんが言った。
大学生になって友人を『なにそれちゃん』と呼ぶのってちょっと子供っぽくない?と密かに思っていたのだが、西江さんも同じ事を思い当たったのか、途中で『近藤さん』に呼び方が変わった。
それはさておき。
友人が非常識な事をしようとしたからって私を巻き込まないでよ、近藤さん。
友として、友人の非常識さは貴女が責任を持って押し留めるべきでしょう。少なくとも善意で手助けしようとした私を巻き込むべきでは無いと思うぞ〜。
「厄祓いと言う儀式をせずにお金だけ受け取って追い出したって訳じゃあないんですよね?
だとしたら、神社側に『古くからの歴史がある儀式を行うことで清められた気分になるのが厄祓いです』と言われたらどうしようとないと思いますよ?
第一、厄祓いに行く前に悪霊に憑かれていた事も、その神社で悪霊が祓えなかった事も、◯川神社での祓えた事も、どれも客観的には証明できないですよね?」
何らかの手段で霊が憑いている状態を可視化出来る機械でもあったら、別の悪霊に憑かれた人を連れて来て問題の神社でやる厄祓いに霊を祓う効果がないことを証明できるかもだが。現時点の技術ではそれは不可能だよね?
「それに、厄祓いが悪霊を祓いますとはあの神社のサイトにも書いてないし。
宮司さんが祓えるって約束して追加料金をせしめたとかじゃあないんだよね?」
近藤さんが口を挟んだ。
そりゃそうだろうねぇ。そんな訴える口実を与えるような事はしないでしょう。
神社の説明サイトとかには神社の儀式の効果の詳しい説明は通常記載されていない。
神の存在すら証明できない世の中で、神社の儀式の効果を証明する方法はほぼ無いのだから、何も書かない方がまだ良心的かも。
出来ないことの証明も不可能なんだから、怪しげな事を出来るって言い張る事だって可能といえば可能だ。それをしないだけ、良識的な気がする。
「だけど!!
人々を助けるための神社が、お金を騙し取るなんて!!」
西江さんが腹立たしげに声を上げた。
もしかして、神様とか神社の神通力を信じている人だったのかな?
今時としては珍しいよね。
「戦後に信仰心がダダ落ちして、寺社も存続するのに必死になったせいで精神的な鍛錬とか、昔からの儀式の正しい方法の引き継ぎとかが難しくなったんでしょうね。
今ではちゃんと悪霊を祓える神社は三つに一つらしいですから、しょうがないのでは?」
慰めるような、身も蓋もないような事を告げる。
さっき出されたケーキもそろそろ食べ終わったから、もう帰っても良い?
ちらっと時計を確認したら、近藤さんが慌ててメニューを押し付けて来た。
「もう一個、どう? 実は、ペルーに行った三人のうちの最後の一人が長谷川さんに勧められた神社で厄祓いをしても効果がなかったの。
どうしたら良いか、何かアイディアを貸してくれない?」
「いや、流石にもう一個ケーキを食べたら太るから。
そのもう一人はどうしているの?」
ここに居ないけど。
具合が悪すぎて出てこれないならまだしも、悪霊祓いなんて詐欺師の手法だ!と主張して今日来る事を拒否したなら私はそんな人を宥めすかす役割はごめんだよ?