犬と猫ではかなり違う
「あれ、凄く良いですね!!!」
私たちが温泉から出てきて更衣室でちょっと扇風機の前で涼み、母屋の方に戻ってきたら赤木恭弥さんが来ていた。
おや〜?
仕事中じゃ無いの?
まあ、会社のトップなんだからミーティングとかの予定が入っていなければ時間はかなり融通が効くんだろうけど。
「幾ら疲れが取れるからと言っても、1日に何回も使ってデスマーチを強行するのに利用しては駄目ですよ?
1日2回、どんだけ辛くても3回が限度。
使い過ぎで効果が早く切れても、月に一つしか提供しませんから」
ちょっと柳原税理士事務所人たちと同じ社畜臭を感じたので、釘を刺しておく。
「もう、恭弥さんったら。
眼精疲労回復効果は疲れた時に凄く良いとは思うけど、そんなに疲れるまで働かない事も起業理念の一つだったでしょ!」
パシッと美帆さんが恭弥さんの背中を叩く。
どうやら仕事が忙しいみたい?
お陰で樹君の夜泣きで疲れてても美帆さんをヘルプ出来てないんだろうね。
まあ、退魔協会の仕事に行かなければ美帆さんの方が日中は時間が自由になるんだろうけど。でも夫側もそこそこホワイトな労働環境じゃないと子育てを夫婦の共同作業的にやっていけないよね。
「そこは勿論。
でも、あれは本当に良いんだよ〜。
目が疲れてたのがすっと引いた感じでね。
で。あれを家賃がわりに幾つか貰えるんですよね?」
にこっと笑いながら恭弥さんが聞いてきた。
「月次の家賃代わりに提供するのはアイピローとクッション一つずつまでです。
それで大体3万円相当なので、足りない金額分は現金で払いますよ」
碧がパンっと手を叩いて口を挟んだ。
「ちなみに、その社員寮はいつぐらいに完成しそうなんですか?」
更地になっている場所に家が建つのってあっという間な印象はあるが、あれって工事を始める前に設計士と色々話したり、自治体に届け出したり、大工やその他の職人を確保したりってやんなきゃいけない事が色々とあるよね?
どの程度まで話が進んでいるんだろうか。
「2月には完成して、何か遅延することがあっても間違いなく来年の新卒入社時期には完成している予定です。
う〜ん。
本来は外部に貸し出す時の家賃は5万円ぐらいを考えていたんですが、調整用の部屋として、3万円相当で貸す代わりにもしもこちらで人を雇ってその人が社員寮に入りたいって事になった場合に1ヶ月で退去して貰うという契約でどうでしょう?」
恭弥さんが提案してきた。
なるほど。
実際に社員寮に入る社員の人数以外の分を外に貸し出したら、定期借家契約だとしても契約が切れる月までは寮に入りたい社員が増えても追い出せないもんね。
いつ人員を増やすか分からないし、新しく採った人が社員寮に入りたがるかも不明だけど、かと言って貸し出さないのはお金の無駄だし無人な部屋は傷みやすいって聞く。
そうなると、調整用に貸し出す相手として、いざとなったら取り敢えず碧の実家に物を移せる私らは理想的かも。
「良いアイディアかもですね。
部屋の間取りとか仕様を教えて貰えます?
あと、ペット可ですよね?」
碧が応じた。
ペット可は必須だよね〜。
「え?
作業部屋として使うんですよね?」
恭弥さんが微妙な顔をして聞き返した。ペットはあまり歓迎じゃないみたいだ。
「こっちに毎月一週間かそれ以上滞在して仕事をするんですもの。
当然愛猫を連れてきますよ。
部屋のサイズが足りていれば借りた部屋で就寝する事も考えていますし。
第一、社員寮として使うにしても、ペット可じゃないと使わないと言う社員も出てくると思いますよ?
ちゃんと躾けた猫だったら壁紙で爪を研いだり、粗相したりはしませんから。
なんだったら、フローリングを最初から猫用のにする費用を払いますし、壁紙は出る時に貼り替える費用を払います」
碧がピシリと言った。
少なくとも、ペット不可だったらこの話は流れるからね〜。
「社員寮が福利厚生の一部で、社員を集めたり引き留めたりするのに効果を期待しているなら、ペット不可にすると猫好きな社員の不満が溜まると思いますよ?
ペット不可だったらペットを手放すのではなく、社員寮を諦めて自腹でアパートを借りるか、就職先として別のところを探すでしょうから」
まあ、猫を飼っていない人だったら飼うのを諦めるだけだろうけど。でもやっぱ家に帰った時にペットがいると精神安定的な面でも大きなプラスだと思う。
「だが、ペットは煩いんじゃないか?」
恭弥さんが言った。
「猫は比較的静かですよ。
避妊していなくて発情期になったら凄い事になるらしいんで、なんだったら去勢・避妊済みの猫のみオッケーにすると良いかもですね。
犬は吠えるらしいですから避けた方がいいかもだけど」
犬好き派から文句が出そうだけどね。
とは言え、一人暮らしで働いている人間だったら犬を飼う事自体がかなり厳しいと思うし。
「う〜ん。
ちょっとそこら辺に関しては、社内でアンケートでもとって確認してみますね。
いつまで諏訪にいるんです?」
恭弥さんが尋ねた。
「明後日までは確実にこちらに居ますね。
そのあとはちょっと不明です」
碧が答える。
明日は聖域で雑草刈りだからね。
明後日はそれの積み込みと疲労回復。
ここの社員寮が駄目だったら明々後日以降もちょっと不動産を見て回る為にこちらに残るかも?