重いんだね!
「やっほ〜美帆ちゃん、これお土産〜」
藤山家に源之助を下ろし、美帆さんのところへ来た碧がクッションとアイピローを入れた大きな袋を車の後部座席から取り出して、出迎えに出てきてくれた美帆さんに渡した。
「うん?
クッション?」
美帆さんが袋から取り出したクッションを手にとって首を傾げている。
仕事に使える部屋を借りれないかの話をしたいって相談に来たはずなのにクッションを渡されたらちょっと戸惑うよね〜。
「『大学を卒業したら退魔師になるの!』って一般人な大学の同期とかには言いにくいじゃない?
だから健康グッズを販売する会社を起業するって話にしようってことで、ちょっと開発した商品なの。
毎日1、2回使って1ヶ月ぐらいで効果が切れるから、サブスク契約的に限られた会員相手へ限定販売するつもり。ちなみに使わなくても3ヶ月ぐらいで効果がなくなるからケチらずに毎日短時間使うのがお勧め。
腰痛とかに効くから、その上で背中をストレッチしながら少し昼寝してみたら?」
碧が美帆さんに提案した。
「あ〜、じゃあ、樹の事をちょっとみていてくれる? 今昼寝中なんだけど、起きて動き出したら私に声を掛けてくれるだけで良いから。
昨日の晩は樹の機嫌が悪くてね〜。
抱っこしてそこら辺を歩き回ったんだけど、もう7キロ近いから抱っこ紐で持ちやすくしてても大変なのよ〜」
余程疲れているのか、美帆さんがあっさり頷いてリビングのベビーサークルっぽいところのそばの床にクッションを置くとその上に背中をストレッチする感じに寝転がった。
従姉妹だから遠慮が無いのかな?
私もいるんだけど、地方的な人間関係では身内扱いなんだろうか。
と言うか。
子供って1歳ぐらいで7キロ近くになるんだ?!
まだ辛うじて歩けるかどうかぐらいな小さな子供ってお母さんが抱っこして歩いている姿をよく見るけど、あれって5キロの米よりも重いのを抱えていたんだ?!?!
ベビーカーで押せば良いだろうという気がするけど、エレベーターや店に入った際の通路の幅とか、色々と不都合があるのかな?
夜泣きだったら抱っこする方が体温とか心拍音とかで安心して早く寝てくれる可能性は高そうだし。
今は夜更かしして疲れているのか、私たちがきても気付かずにすぴーと気持ち良さげに寝てるけど。
あっという間に美帆さんも寝息を立てているし、やっぱ子供がいると大変なんだねぇ。
協力的な夫が居てもこれなんだから、夫が役立たずで表面的にしか手伝わない実質ワンオペだったら超絶ブラックな労働環境だね。
そう考えると、退魔協会に仕事をガンガン頼まれるのが嫌だから月の半分は諏訪に居ることにしたいけど、そのうちの1週間みっちり働くのも面倒〜なんて言ったら怒られちゃいそう。
「……っは!
やば、本当に寝ちゃった?!」
20分ほどで美帆さんが目覚めて、体を起こした。
あの腰痛用クッションって背中を逸らす感じになるからあまり長時間は眠らないのかな?
短時間のパワーナップに良いのかも。
横になれるスペースが必要なのがちょっとネックだけど。
会社とかの床ってどのくらい綺麗なのか、不明だからねぇ。
毎日清掃の人が掃除機を掛けているだろうし、そこまでオヤツとかを溢す環境じゃあないとは思うけど、土足で歩き回るせいか、どうしても家の床よりも不潔そうな印象なんだよねぇ。
「どう?
効くでしょ?」
碧が美帆さんにドヤ顔してみせた。
考えてみたら、柳原さん達に試作品を試させたけど、やっぱ何をしているか分かって感心してくれる相手に自慢したいよね。
そうなると白龍さまの事を知っている相手じゃないとダメだから、自慢できる相手は限られる。
「マジで凄い。
これってあの腰痛や肩凝りにやたらと効くって評判な健康祈願のお守りの強化版?
クッションを使い捨てってちょっと勿体無い気もするけど、確かにサブスクで誰かが使ったのを洗って送られてくるなんてちょっと嫌だものねぇ。しょうがないか。
で。
これって幾らなの? 定期購入させて!!」
美帆さんが碧の手をガシッと掴んで言った。
「一個1万5千円。
1日1回か2回の使用で1ヶ月は使えるはず。
1ヶ月ぐらいで効果が消えるから、勿体無いけど効果が薄れた時点で捨てて貰って新しいのを買ってもらうサブスク形式で売る予定なの」
碧がするっと美帆さんの手から逃れながら説明した。
「1万5千円かぁ。
でも、即効性があって毎日使えて1ヶ月保つなら、全然お得か!
定期購入させてくれるのよね?!
それとも、部屋を貸したらタダでくれるとか?」
ニヤリと笑いながら美帆さんが聞いてきた。