モラトリアム期間が終わる〜
「考えてみたら、快適生活ラボでクッションやアイピローを売り出す事になって両方50個ずつぐらい作るとしたら、やっぱ諏訪に最低でも毎月1週間はいる必要がありそうだよね」
赤木さんたちのところに連絡を入れ、レンタカーの手配を終えた碧が作業部屋に戻ってきた。
「符の部分はこっちで作っておくにしても、聖域の雑草と一緒にして、アイピローやクッションに縫い込む作業に……1個につき30分でできるとしても1時間で2個、1日7時間働いて14個となると50個作るのに四日かかるね。
と言うか。縫込み作業に慣れて一個20分でできる様になったとしても、考えてみたらアイピローやクッション用の符を月50枚も作るのは大変そう。
雑草を刈り取る作業もあるし、事務とか出荷作業を頼むにしてもお金の収支確認とかも含めると1週間は諏訪で真面目に働く必要がありそうだよね」
ちょっと面倒かも?!
50個も売らないどこうか。
でも、それこそ柳原さんのところと赤木さんのところの社員だけで50個ぐらいいきそうな気がする。
「……なんかさぁ、50個売れたら75万円稼げるんだから悪くはない副業ではあるんだけど、忙しすぎる気もしてきた。
怪しげな霊媒師モドキじゃないですよ〜ってアピールする為の事業としてはちょっと手間がかかり過ぎかも?
赤木さんのところでの使いかたをちょっと考え直さない?
そっちにも売るとなると、一気に販売数が上がりそうな気がするんだけど」
改めて考えてみると、ちょっと忙しくなり過ぎそう。
赤木さんの会社に社員が何人いるかは知らないけど。
柳原さんのところだって確か十五人程度なんだから、赤木さんのところもその程度だと期待しても良いかなぁ? もっと多そうな気もしないでもないけど。
「そうねぇ。諏訪に定期的に行くのは良いし、行っているって事で仕事を受けない週を作るのは賛成だけど、諏訪での滞在時間が長いと源之助が落ち着かないかも?
それに向こうにがっつり滞在するならレンタカーじゃあ高くつくから車を買う必要があるかもだし」
碧もちょっと困った様な顔をして付け加えた。
「こう、赤木さんのところで離れみたいな一軒家っぽい建物が空いていて住めるならありだけど、普通に部屋を一つを使えるって程度じゃあ源之助が確実に逃げない様にするのも難しいかも。
かと言って藤山家に預けておくんじゃあ日中一緒に居られないからねぇ。
それに売る数を減らそうと思うなら、やっぱ赤木さんの会社の人に快適生活ラボの商品を売る権利を提供するのはやめて、美帆さん夫婦にのみ賄賂代わりに一組提供するだけにしない?
どうしても偏頭痛や腰痛に悩まされている人がいるっていうなら例外的にもう一個売る感じで。
社員全部に売るのは仕事が増え過ぎちゃって面倒そう〜」
筆を置き、描き終わった紋様をそっと乾かすスペースに動かしてゆっくり背を伸ばす。
どうしても符を書く時って猫背になるから肩が凝るんだよねぇ。
「使ってない離れってちゃんと防水とか防虫の手間を掛けないと中々凄い事になってるかもだから、無いか、あっても使いたく無いような状態かも?」
碧が指摘する。
「う〜ん、そう考えると美帆さんところで間借りは難しいかなぁ?
考えてみたら元は経営破綻した温泉宿なんだから、潰れる前から建物のメンテはお金が足りなくて手抜きしてただろうし。
会社で使っている部分と美帆さんたち家族が住んでいる部分はちゃんとリフォームしただろうけど、他の部分はもしかしたら破棄してるかもだね」
ちょうど良い離れがあるなんて都合の良い事は期待しない方が正解かな?
「悩ましい〜!
学生時代ってやっぱ色々自由で良い時代なんだねぇ。
卒業したらガンガン依頼を受けろと圧力を掛けられたり、それを避けるために別の仕事を作ってたらそっちで忙しくなったり、中々上手くいかないもんだね」
どちらの前世よりも今の生活は自由度は高いけど、今世の大学生生活の自由度が高過ぎて、どうしても卒業後はちょっと条件が悪化する。そう思うと、少し憂鬱だ。
「ちょっとこう、1年留年しちゃいたいかも」
碧も同じ様なことを考えたのか、苦笑しながら冗談を口にした。
確かに!