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無いわ〜。

「急に具合が悪くなったようですので、ちょっと休める様に彼女を車椅子でどこか別の部屋に運んであげてはどうでしょう?」

 碧が高井さんに声を掛ける。

 さっさと他の部屋に隔離した方が、ボケてない入居者の注意を引かないで済むよ?


 早く動け!と念じながら(意思誘導を使ってはいないけど)意味深にラウンジ側の入居者達に目をやったら、高井さんも不祥事の大元の人物を取り押さえている場面を入居者達に見せない方が良いと思い当たったのか、ささっと動いて廊下の方から素早く車椅子を持ってきて、中々器用に椅子に力無く座っている女性を車椅子へ移して移動させ始めた。


 私らも手助けしたけど、実質高井さんほぼ一人で昏倒している犯人を椅子から車椅子へ動かしていた。

 コツもあるだろうが、凄いねぇ。でも、こう言うのってずっとやっているとそのうちうっかりぎっくり腰になるか、腰痛持ちになりそう。

 と言うか、腰痛持ちになったら介護業界って転職不回避?

 それとも入居者が立ち上がったり座ったりするのを助けなくて良い業務もあるのかな?

 最近はミカンとかの収穫などで腰の負担を緩和するアシストスーツがあるらしいけど、介護用に使わないのかね? 何箇所か仕事で訪問した高齢者用施設で、それっぽいのを使っている様子を見た事が無いけど。

 服の下に来ている可能性もゼロではないが。取り敢えず、ベテラン職員が軒並み腰痛持ちになる前に予防策を講じる方がいいと思うよ〜。


 そんな事を考えながら、廊下の奥にある扉を開けて入っていった高井さんの後に続く。

「本当に石川さんが犯人なんですか?」

 車椅子を止めた高井さんがこちらを振り向いて尋ねた。


「多数の呪詛の線が彼女に繋がっています。他にも呪詛を掛けた人がいる可能性は否定できませんが、彼女も確実に呪詛を掛けていますね。

 信じられませんか?」

 物凄く良い人で、絶対に呪詛なんてかけなそうなタイプなの?

 嘘が上手いか、騙されたかだけど、誰かに騙されてこの数の呪詛を掛けるって言うのは無いでしょ〜。

 そんだけ騙されたとしたら、病的なレベルで人のことを信じるアホだよ?


「いえ、まあ……愚痴は多い人でしたが。それなりに知っている同僚がまさか熱中症を引き起こすような呪いを入居者達に掛けるなんて信じ難くって。

 一つ間違ったら誰かが亡くなっていたかも知れないんですよ??」

 高井さんがちょっと憤慨したように言った。

 いや、私らに対して憤慨されても、困るんだけど。

 要は同僚にそんな人殺しに繋がり掛けない呪いなんぞ掛ける人がいたのが許せないって事かな。

 そう考えると、病院で点滴に洗剤か消毒液かを混ぜて何十人も殺したって看護婦の同僚なんかも憤慨したのかなぁ。


 つうか、ここだって点滴や酸素チューブをつけている人も見かけたから、殺す気になったらそっち経由で殺せたのかも?

 いや、点滴は看護師の資格がある人がやっているのかな? 普通の介護の人は入居者に針を刺して点滴を打てなそう。第一、利用価値的には殺すのでは無く転嫁先に使うのが重要だろうし。


「取り敢えず、退魔協会の方に逮捕する人員を寄越すよう、連絡を入れますね」

 碧が携帯を取り出しながら言った。

 碧が遠藤氏に電話して田端氏を送り出すよう連絡している間に、高井さんにも一応これからの流れを説明しておくか。

「呪詛を掛けていた人が分かったので、この後は全ての入居者を確認して転嫁付きの呪詛の人はその場で私が解呪、転嫁なしだった場合は最後に全部まとめて藤山が呪詛を返します。呪詛返しをしたらそれなりにこの石川さん、ですか?に影響が出ると思います。実際に他者の健康を害する呪詛を掛けたので、彼女の身柄は退魔協会経由で警察に委ねることになります。

 警察に突き出されると気付いたら危険な行動を取る可能性もありますので、取り敢えず当局の人間が来て彼女を拘束するまで、意識を奪ったままにしておきます」

 一応さらっと記憶は読ませてもらうけど。


「はぁ」

 微妙に高井さんの反応が鈍い。

 呪詛を掛けた人が内部にいると言うのは分かっていたのに、いざ犯人が見つかるとこうも信じがたいって反応を示すのはなんでなのかね?

 自分の周囲にそんな悪意を持つような人間はいないだろうという願望なのかな?

 世の中、意外と悪い人は居るんだよ?


 そんな事を考えつつ、石川さんとやらの肩に触れて記憶を読む。

 う〜ん。

 どうやら、元々呪師だったけどダメージが大きな呪いが掛けられるだけの腕が無い上に呪詛返しが怖いから依頼主が返しを受けるタイプの呪詛しかやらなかったせいであまり人気が無かったのだが、最近大金を払って業界の知り合いから呪詛の転嫁の方法を教えて貰ったようだ。で、ここの入居者を転嫁先にすることでボロ儲けし始めたらしい。


 そして。

 何故入居者の皆に暑さを感じない呪詛を掛けたかと言うと。夜とかにクーラーの効きの良し悪しの事で呼び出して文句を言う入居者がウザかったから。

 邪魔されたく無いから、暑さが気にならないようにすれば良いと安易に呪詛を掛けたらしい。

 最初は返されたら困ると転嫁させていたが、誰も気付かないしどうせ返っても大した害はないだろうと途中からは転嫁なしで掛けまくったようだ。


 うわぁ。

 介護施設の職員なのに、入居者に呼び出されたり愚痴に付き合うのが面倒だから呪詛を掛けるって……ある意味、金の為に転嫁先に利用するよりも非人道的で怖くない??

 無いわ〜。





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― 新着の感想 ―
芋づる式に師匠や兄弟弟子など呪師グループを検挙したいところですが
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