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中だけじゃなかった

『ちなみに、転嫁してるの視えた?』

 階段を降りながら碧に念話で尋ねる。

 呪詛特攻な碧はうっかり転嫁付き呪詛を返そうと力を使うと、ばっと一気に呪詛が解呪されて転嫁先に行きかねない。

 細心の注意を払えば転嫁させずに解呪も出来なくは無いらしいが、30センチ先の針にピンセットで持った糸を通すぐらいの集中が必要でめっちゃ疲れるらしい。


 なので転嫁付き呪詛を返すのは私がやって、それが終わったら施設全体を碧が清めて力技で残りの呪詛を返しちゃおうと話していたんだけど、まずは転嫁付き呪詛を受けた人を特定して先に解呪しておかなきゃいけないからね。

 犯人を確保した後、私と碧で手分けして確認作業ができたら早く仕事が終わる……かも?


『呪詛の繋がる先が近いお陰か、視えたわ〜。

 あれ、転嫁先も呪詛を掛けた人もここにいるよね?』

 碧が私に問いに応じた。


『呪詛をかけた人間が妙に瘴気塗れだから、下手をしたら呪師が転嫁先確保を兼ねてここで働いているのかも』

 介護業界って労働時間が長くて給与は少ないって人手不足に関する新聞の記事に載っていた気がするが、パートタイム的な短時間労働もあるのかな?


 まあ、呪師だって人を呪う仕事が毎日入ってくる訳では無いだろうから、一回やればそこそこ大きなお金が入ってくる呪師にとってここで何かタイパ(時間効率)の悪い表向きの仕事をしようと、疑われにくい転嫁先を見つけ放題な高齢者施設での副業(もしくは本業?)は十分割に合うのかも。


『うわ、マジ?!

 じゃあ、見つけたら速攻で昏倒させて、田端さんを呼びつけよう』

 碧が言った。

 元々呪詛を掛けた犯人探しも依頼の一部だったから、田端氏に引き渡すのは既定路線なんだけど、普通の一般人だと思っていたからそこまで相手を危険視してなかったんだよねぇ。

 まあ、今回の犯人だって、ネットか何かで大量に呪詛を掛けられるサービスを見つけて手当たり次第に呪っているヤバい一般人な可能性だってゼロではないけど。


 でも、思っていたよりも呪詛の被害を受けた人数が多い。

 1階はそれほど入居者を見掛けなかったから気が付かなかったけど、呪詛を追うために魔力視で施設全体を視たところ、呪詛の線が大量に入り混じっている。

 これって暑さを感じない呪詛だけじゃ無いんじゃないかなぁ。

 いや、目を眇めて更に集中して確認したところ、どうやら呪詛の線の半分ぐらいは外から繋がっているわ。これって、転嫁先にされた人への呪詛の線で、本体は別にある呪詛だよね?

 呪詛返しの転嫁先になっているだけだったら現時点では症状は無いから、本人も周囲の人も気付いていないだろう。

 退魔協会の報告書には特に言及されてなかったけど、『入居者に呪詛が掛けられている』かを確認出来たら今回の依頼が成立するから、難易度の査定の為にざっと人数は確認しても、その程度だったら転嫁先か本体の呪詛か、ちゃんと見極めなかったんだろうね。

 まあ、下手に批判して恨まれたり、『じゃあ君が調査も手伝ってくれよ』なんて言われても困るから、何も言う気はないけど。


 そう言えば考えてみたら、呪詛って碧が転嫁先の方だけ清めたらどうなるんだろう?

 私がやる分には本体まで解呪しようと意図して頑張らない限りは単に転嫁が無くなるだけだが、碧がやったら大元の呪詛ごと解呪されちゃうかも。

 まあ、呪いは無いに越したことはないから、構わないか。


「では、こちらにしましょう」

 3階に着いて、高井さんが304と書いてある部屋へ向かった。

 301〜303の人は呪詛を掛けられた症状がないのか、単に304の人が寝込んでいて、私らを連れ込みやすいと思ったのか。

 どちらにせよ、全員を確認しなきゃなんないんだけどね。


「田中さ〜ん、お体の調子はいかがですか〜?」

 ノックをした後に顔認証をした高井さんが声を掛けながら部屋の中へ入っていく。

 後について入ったら、中には車椅子に座った老齢の女性がテレビを見ていた。

 見ているというか、テレビに向かって座っていると言うべきかも?

 高井さんの言葉への反応も鈍いし、ちょっと痴呆症が進んだ入居者なのかな?


 う〜ん、どうも色々と都合が悪い質問を出来るぐらい体調がいい入居者に、私らを会わせたくないのかな?

 とは言っても、解呪する為に全員一度は会う必要があるんだけどね。

 呪詛を掛けた犯人を捕まえてからにしたいのかな?


 取り敢えず、ぼんやりとこちらを眺めている女性に軽く挨拶の声を掛け、呪詛を辿る為にもう少し近づく。

 部屋のサイズは5階とほぼ同じだけど、あっちの方が生活感はあるなぁ。

 ほぼ自立状態な入居者と、介護度が重度な人の違いなのかな?

 ほぼ自立状態だとしたらワンルームってちょっと狭いと思うけど。

 もっと大きな部屋ってないのかね?


 私の老後には色々と変わっているだろうし、今から考えてもしょうがない。取り敢えずは呪詛のリンクを追って犯人を捕まえよう。

 この田中さんとやらの呪詛は……呪詛と言うよりも転嫁だね。

 でも、どちらにせよ呪詛を掛けた人間には繋がっている。


 先ほど移動中に携帯で写真を撮ったこの施設の案内図を呼び出して確認する。

 どうやら奥にあるラウンジコーナーの方にいるのかな?

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― 新着の感想 ―
いくら軽い呪詛でも大勢いたら返された方は相当酷いことになりそうですね まあ因果応報ですけど
昭和38年老人福祉法及び施行通知では「痴呆」は使われていない。  ・老人ホームへの収容等の措置の実施について(昭和38年7月31日厚生省社発521号)第4  2 特別養護老人ホームへの収容の措置 法第…
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