社畜化を避けるには?
『近隣の高齢者施設で類似した問題は起きていないので、施設内の人間が呪詛に関わっている可能性が高いと思われます。ですのでまず呪詛をかけた人間を見つけ出して捕縛に協力し、そのあと転嫁を回避しながら全員の呪詛を返してほしいとの依頼が来ているのですが、お願い出来ますでしょうか?』
遠藤氏が電話での依頼の説明を続けた。
愉快犯的なランダムな犯罪だったら他の施設の老人も狙われている可能性が高いのか。
犯人が職員だったり、施設内の住人だったら最悪だね〜。
だが、それよりも。
「ちなみに、何人が呪われていて、全部転嫁付きなのですか?」
転嫁付きじゃなければ人数が多くても碧が一気に施設を清めちゃえば呪詛は返せるんだけど。
『こちらの調査員が調べたところでは、何故か一部だけ転嫁付きで残りは転嫁されていないそうです』
遠藤氏が言った。
つまり、一人一人確認して、転嫁付きを解呪してから残りをばっとやるって形じゃなきゃいけないのかぁ。
ちょっと面倒くさそう。
とは言え、本人に不快感は無いかもだけど命に関わりかねない呪詛なのだ。
さっさと問題を解決すべきだろう。
ちらっと碧がこちらを見たので、頷く。
面倒そうだけど、やるしかないよねぇ。
「分かりました、引き受けましょう。
場所は何処ですか?」
碧が応じる。
田舎だったら嫌だなぁ。
いい加減、暑い最中に出歩くのは嫌になってきた。
この案件が終わったら夏休みってことで9月半ばぐらいまで居留守宣言をしないか、碧に提案してみようかな。
遠藤氏が提供した住所は東京都だが23区外のちょっと外れだった。
しかも駅からはバス。
まあ、高齢者施設って要介護でもう出歩かない人がメインなところだったら、交通の利便性よりも値段が安いことが重視されるんだろうけど……面倒だなぁ。
今回も送迎は無いらしいから、駅からタクシーかな。
この案件も急ぐとの事なので、明日から早速取り掛かる事になった。
考えてみたら、退魔師の仕事で急がないのってそれこそセミナーの受付バイトぐらいなのかも?
悪霊にせよ呪詛にせよ、辛いから早く対処してくれって依頼主から退魔協会はせっつかれているだろうし、下手をすれば命に関わることも多そうだからなぁ。理解は出来るが、嬉しくない現実だ。
「なんかこう、大学という言い訳がなくなると、卒業後にフルタイムで働き始めたら良い人になり過ぎると社畜化しかねないね。
快適生活ラボの商品生産に決まった時間が必要で、その間は退魔協会からの依頼は受けないって最初からある程度決めておく方が良いかも?」
断る権利があるにしても、最初から連絡が来ない方が時間の無駄が無いし波も立たないよね。
「だねぇ。
快適生活ラボの商品作りは諏訪の方でやる?
考えてみたらそれなりに量産するならあっちでやる方が聖域の素材を運ぶ手間が省けるでし。
小さな古家でも借りれないか、うちの母親に探しておいてもらおうか?」
碧が提案した。
確かにアイピローにせよ碧のクッションにせよ、それなりの数を仕入れて紋様と聖域の草とを入れなきゃいけない。なので正式に販売を始めたら数を絞っていてもこのマンションで作業するのは難しいと思われる。
東京で作業部屋を追加で借りるよりは、諏訪の方が家賃は確実に安いよね。
そう言えば。
「ちなみに、赤木氏の敷地って使っていない離れとか蔵とかないのかな?
元々は温泉宿だったんでしょ?
離れとか大きな物置とかないかな?」
あそこを間借り出来たら霊泉が入り放題だ。
「それは良いアイディアかも!
使ってないスペースがあるなら間借りさせて貰えればセキュリティとかもそれなりにしっかりしているし、良さげだよね。
ちょっと美帆ちゃんに聞いてみるわ。
ダメだったら適当なアパートか空き家を借りてみるしか無いかなぁ。
作業をするだけだったら実家の蔵を使えなくはないけど、在庫を置く場所も必要だと考えるとちょっとあそこだけでは厳しいと思うんだよねぇ」
碧が頷いた。
「ちょうど良い場所が無かったらコンテナハウスをレンタルして、どこかの空いているスペースに置かせて貰うのもありかも?」
近所の爺さんとかが持っている農地とかも、それなりに空き地っぽい場所があったみたいだから、ああいう所に置かせてもらえそうじゃ無いかな?
電気をどうやって引くのかとか、調べる必要があるだろうけど。
「それもありだね。
まあ、取り敢えずまだ卒業まで時間があるし、今度美帆ちゃんにそれとなく聞いてみるわ」
にっこりと笑いながら碧が応じた。
うん、やっぱ霊泉入り放題が一番だよね〜。




