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善意の行為

「これです」

 ガックリと落ち込んだ前田さん(依頼主)が気を取り直したので、奥の方へ連れて行き、骨を見せた。


 直接触りたくないのか、前田さんは竹林のそばに落ちていた枝で土をかき分け、骨をほじくり出す。

 かなり大きいし太いから、大腿骨かな?


「骨、ですね」

 私の気のせいではないかと期待していたらしき前田さんは深くため息を吐きながら立ち上がり、携帯を取り出した。

「前回の骨の回収に来て下さった警察の人に連絡します。

 ……あと4体分あるんでしょうか?」

 ちょっと嫌そうに前田さんが聞いてきた。


「だと思いますね。

 ちょっと確認しておきます」

 元々防空壕だったとしても入り口付近だけでも埋められて長年誰も入っていないのだ。

 上部を支える様な支柱や天井板があったとしても既に腐っている可能性も高く、考えてみたら防空壕の中を掘り出して遺骨を見つけるのも大変だろう。

 物置は遺骨が隠されているのを知らなくて重機でガバッと物置の壁を薙ぎ倒したなり、土を掘り起こしたなりした際に出てきたのだろうが、人骨が埋まっていると分かっているとなったら重機で土を撤去するのも微妙だろう。手作業ならば、せめて骨の場所が分かった方が良さそう。


 と言う事で。

 前田さんが携帯を手にちょっと離れたのでちょっと死霊使い(ネクロマンサー)的に骨を使う感じで周囲の浮遊霊を呼び集め、それを憑かせて躯体とする術のやり始めぐらいな感じに魔力を動かして反応する躯体(遺骨)を確認する。

 霊が残っていない遺骨は魔力視でも特には視えないんだけど、骨って霊を憑ける躯体として最適だから、力を軽く動かし始める一歩手前みたいな状態にすると反応から骨がある場所は分かるんだよね。


 うん。

 四人分だ。

 もしかしたら地縛霊化せずにあっさり昇天した被害者がいるかも?と思っていたのだが、やはり暴力で理不尽な死に追い込まれた人間ってそうあっさり昇天出来ないようだ。


 ついでに場所もちょっと知らせてあげるかな?

 とは言え、紙を持ち歩いていないから、地面に線を引く程度になっちゃうけど。


 え〜と、こことここ、あとこっちとあそこだね。

 防空壕は小高い丘っぽい竹林の端沿いと言うよりも、奥に向かって穴を掘った感じなんだね。

 これって元は向こう側まで突き抜けていたのかな?

 宅地化するなら、この小高い部分を削り取っちゃう方が良さげな気がする。

 中途半端に小高くなっているから、坂として途中に家を建てるほどでは無いが、一軒だけ周囲より高くなっているとなんか印象が悪そうだ。

 それこそ地主さんが住むならいいかもだけど。


 もしくは、ここら辺全部をマンションにしちゃうのもありかな?

 坂の途中にルーフバルコニーが段々畑のように続くマンションって時々あるから、あんな感じのデザインにするなら小高い丘を利用できるかも?

 とは言え、住民としてはこんな陸の孤島に住むならマンションではなくせめて戸建てがいいと思いそう。マンションに住むならもっと駅に近い便利なところの方が良いよね〜。

 私だけの偏見ではない証拠に、周囲にある建物は戸建てと小さめなアパートが多い。

 アパートは節税用なのかな?

 こんなところでアパートに住みたがる人がいるのか不明だけど。

 よほど家賃が安いのかな?

 バスに乗らなきゃ通勤できない場所なんて、不便だよね?

 まあ、スクーターか自転車で通えば良いのかもだけど。

 雨が降ろうと、雪が降ろうとレインコートを着て自転車なりスクーターなりで駅に行かなきゃいけないのは辛そうだが。

 前の晩から天気予報で分かっていたら、その分早く起きてバスに乗るのかな?

 私だったら朝30分早く起きるなら、夜まで豪雨だと分かっているんじゃない限り、朝はレインコートで頑張る!と30分の追加睡眠を貪りそう。


 それはさておき。

「ここから見て、ここが今骨が見えている場所、こちらがそこから後ろの竹林の小高くなっている場所として、三角が描いてあるところが多分遺骨がある場所です」

 警察との話を終えたらしき前田さんがこちらに戻ってきたので、足元の図を見せた。


「…‥そう言うの、分かるんですか?」

 ちょっと微妙な顔で前田さんが尋ねる。

「前田さんだって、ここに不穏な霊がいるのが感じられたから物置を殆ど使っていなかったのでしょう?

 我々退魔師はその感覚が一般人よりも更にずっと鋭く、霊とやり取りできる能力を持つ人間なんですよ。

 取り敢えず、この図を誰かがうっかり踏み消してしまう前に携帯カメラで写真に撮っておいてはどうですか?」

 ヤバいとそれとなく感じていた癖に老齢なお母さんをここに住まわそうとしたのは人間としてどうなの〜と言う想いを匂わせないよう気を付けつつ、前田さんに遺体の場所が分かるのは退魔師として当然な事という顔で説明する。


 属性魔術師系だと霊が昇天したあとの遺体の場所探しはそれ程得意じゃ無いんだけどね。

 現世では黒魔術師に対する忌避感はそれ程強くは無いが、あまり特異な存在であると認識させる必要もない。


「なるほど。

 ありがとうございます」

 前田さんが携帯を取り出しながら頭を下げて礼を言ってきた。

 今回の依頼ってこの場所で霊障を起こしている存在を対処するって内容なので、想定より多い地縛霊達と穢れを祓うのはまだしも、遺骨の場所を探って教えるのは依頼の範囲内かと言うと怪しいところだからね。

 こちらの善意を感じ取ってくれたらしい。


「では、依頼完了と言うことで良いですか?」

 碧がさっと依頼完了の用紙を取り出して尋ねた。

 依頼主がその場に居ない時は別にこれにサインして貰わなくてもいいんだけど、いるならやって貰う事が推奨されているんだよね。


 そのうち、アプリで指紋認証したら依頼終了って出来るようにならないかな〜。

 まあ、指紋みたいな個人情報が必要な承認システムは無理かな?

 スクリーン上で指で文字を書くのでもあり?


 退魔協会がそこまでハイテクな技術を取り入れるかは、かなり怪しいかも。

 取り敢えず。

 夕方になって道が混む前に帰ろう。






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― 新着の感想 ―
>人間としてどうなの〜と言う想いを匂わせないよう気を付けつつ それはもう匂わせても良いんじゃないでしょうか
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