離れ、ねぇ。
「温度はそれほど暑くないのに、湿度が高すぎて不快〜〜!」
碧がソファに寝転がりながら唸った。
「だねぇ。
エアコンドライつけるとちょっと寒いぐらいで居心地悪いのに、つけないでいるとなんか湿度が高過ぎるせいか妙に汗ばむ感じで、辛い〜」
三連休だと言うのに微妙な天気で、暑さが少し引いたのはいいものの湿度が爆上がりして却って不快。
炎華が温度調整を幾らでもしてくれるんだけど、湿度調整はエアコン頼みだからなぁ。
エアコンで除湿すると温度が下がるんだけど、中途半端な温度だからエアコンドライを使うとちょっと部屋が冷え過ぎるが、除湿しないと汗ばんで不快ってマジで居心地が悪い!
「少し炎華に室温を上げてもらった上でエアコンドライを使う?
なんか微妙に申し訳ないんだけど」
碧が溜め息を吐きながら言う。
寒い冬に少し温度を上げてもらうならまだしも、態々冷やすために温めて貰うってなんか違うよねぇ。
「いや、考えてみたらエアコンドライを使った上で長袖のシャツを着れば良いんじゃない?
25度ぐらいに室温が下がったところで、秋だったら普通の温度じゃん」
真夏だから半袖で過ごすべきと言う先入観があるけど、エアコンドライをつけるために炎華に部屋を暖めて貰うよりは、長袖のシャツを着て寒さを感じない様にする方がマシだろう。
どうせ明日か明後日にはまたウンザリするほど暑くなるんだから、部屋を少し冷やしておいて損はないし。
「確かに?」
碧が頷き、シャツを取りに行こうと立ち上がったところで電話が鳴った。
おや。
退魔協会の呼び出し音じゃん。あそこってお盆休みないんだ? しかも今日は祝日だし。
なんかこう、旧家が多い業界だからお盆には皆本家に戻って先祖の霊を迎えるとかなんかそう言うことをやっているのかと思っていた。
でも考えてみたらお盆って正式には祝日じゃないし、依頼主側はお盆休みなんぞ待ってられん!って切実な人も多いだろうから、休めず、しかも依頼を請けてくれる退魔師が減っちゃって一番困る時期な可能性もあるかも。
碧がスピーカーで電話を受ける。
「こんにちは〜」
『いつもお世話になっています、退魔協会の遠藤です。
実は、ある依頼主の家で物置を壊して離れを建てる事になって基礎工事を始めたところ、遺体が発見されたそうです。
そちらは法に則って撤去したのですが、何やらそれから現場で事故が起きることが増え、依頼主も変な夢を見たり幻聴に悩まされたりする様になったので、もしかしたら遺体の霊が不満を訴えているのかと祓って欲しいと依頼が来ました。
請けていただけますか?』
遠藤氏の声が電話から流れてくる。
彼も大変だね〜。
お盆休みは無いみたい?
勿論、私らが依頼を請けていない時に休んでいる可能性はそれなりにあるけど。
退魔協会って有給をちゃんと取れる勤務先なのかな?
退魔師の数よりも依頼の方が多いって、需要と供給がビジネス的には有利だけど依頼の対応を手配する側にとってはゴネる退魔師に依頼を請けさせなくちゃいけなくて、大変そう。
ちゃんとその分しっかり報酬を貰えているといいけど。
もっとも退魔協会の中抜きはそれなりな金額だろうから、組織にお金はあるよね。
報酬をたっぷり払う代わりに休みの方が取りにくいってケースかもだけど。
なんだかんだで退魔協会に連絡した時に遠藤氏が捕まらなかった事って殆ど無い気がするんだよねぇ。
休み自体も取れてないとしたら可哀想だし、取れても何かあったら携帯で呼び出されているのだったらそれも哀れだ。
家族サービス的には最低だよね、折角のおでかけの時に父親が仕事で呼び出されて途中退出するのって。
それはさておき。
「場所はどこですか?」
碧が尋ねる。
今時離れを建てるなんて、珍しそうだ。
首都圏だったらそんな土地がある家なんて固定資産税がすごい事になるだろうし、田舎だったら過疎化が進んでて離れを建てる必要自体が必要なさそうだし。
今時だったら子供が結婚しても、実家に暮らすから離れを建てるなんて事もなさそう。
親と一緒なんて、離れだとしても奥さんが嫌がるでしょう。
「神奈川県の方です」
おや。
首都圏じゃん。
お金持ちな地主ってやつかね?
まあ、神奈川県だって辺鄙なところはあるけど。
取り敢えず、日帰りでは行けそうだ。