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助けるんだ?

 金子さんが警官のおっさんに母親が生きていた時と死後のルーティンや、銀行口座からのお金の動きなんかの話をしていたら、インターホンが鳴った。

 若い方の警官がインターホンからオートロックを解除している。

 インターホンって実家みたいな戸建てにもあってベルを鳴らした人の顔が見えるのは変わらないけど、マンションだと鍵を開けられるのが良いよね〜。

 まあ、オートロックの部分だけで玄関は結局自分で開けに行かなきゃだけど。


 もっと最新式とか高級なマンションだったら玄関もインターホンからボタン一つで開けられるとこもあるのかな?

 とは言え、うっかり下のオートロックをすり抜けて玄関前まで来た押し売り相手に焦ってボタンを押し間違えて玄関の鍵を開けちゃったりしたら危険だから、あまり何でもかんでも自動化するのは良くないかもだけど。


 若い警官が玄関に来客を迎えに行ったら、暫くしてばん!とドアを勢いよく閉めた音と共に初老の男性が飛び込んできた。

「母さんが死んだんだって?!」

「兄さん?!」

 金子さんが(考えてみたら多分どっちも金子だろうけど)びっくりした様に立ち上がって声を上げた。


「遺体を検視解剖に回す必要がありますが、こちらはお二人の母親である金子豊子さんで間違い無いでしょうか?」

 警官が冷凍庫の扉を開けて金子(兄)に確認を要請する。

 あれ、いつの間にか電源がまた入ってるね。

 遺体を搬送する前に溶けてしまわない様に、また冷凍状態に戻したみたいだ。

 まあ、料理用の肉なんかも何度も解凍・冷凍を繰り返すと細胞の壁が壊れて肉汁が抜けちゃって味が悪くなると言うし、遺体にしても一度冷凍しちゃったのはちゃんとした施設に搬送するまでは解凍しないほうが良いんだろうね。

 人間の遺体と食用の肉を比べるのは失礼な感じがするけど、肉という組織に対する冷凍・解凍の効果は似たようなものになるだろう。


「…‥母です」

 冷凍庫に近付いた金子(兄)が暫しじっと中を見つめた後、短く答えた。冷凍庫が閉められたらさっさとリビングの方に出てきて、どかっと金子さんの正面に座る。

「一体何をやっているんだ?

 母親が亡くなったがそれを届け出ずに隠蔽していたと自首してきたので遺体の確認をと突然呼び出されたんだが」


 なるほど。

 遺体の本人確認的な感じに呼び出されたんだ? 

 母親の身分証明書だってどこかにある筈だろうけど、ある意味老人の顔ってみんな似た様な感じに皺々になるからねぇ。直系の家族の確認は望ましいだろう。

 遺体の扱いとかだって、家族に承諾を得なきゃいけないだろうし。お兄さんがいて警察側も助かっただろうね。

 遺体の扱いに関する違法行為の容疑者(?)が唯一の直系な家族だったりしたら、色々と都合が悪そう。

 こんなに直ぐにたどり着けるなんて、かなり近くに住んでいるか働いているのかな?


「なんかもう、お母さんに毎日毎日散々貶されながら出来の悪い使用人の様に使われているのに心底疲れていて。あの人が動かなくなっているのを見た時に、『やっとこれで小言が終わる』と思ったらなんかプツッと緊張が切れた様な感じがしたの。

 父さんが亡くなった時の面倒を思い出してまたあれをしなきゃならないのかと思ったら、思わず現実逃避にお母さんを冷凍庫に突っ込んで、家でベッドに潜っちゃって……次に意識がはっきり目覚めたのが3日後だったの」

 金子さんがなんかちょっと子供っぽい口調で答えた。

 お兄さんとは意外と仲が良かったのかな?

 まあ、母親の世話を手伝ってはくれなかったし親からの扱いに関して救いの手を差し伸べてくれなかったんだから、『良い』と言うよりは『悪くない』の方が近いのかもだけど。


「だからあの人の事は放置して自分の生活に集中しろって言っただろ?」

 金子(兄)が『ダメだな〜』と言う口調で返す。

 どうやら母親の死自体はあまりショックじゃないみたい?


「兄さんは良いわよ、ちゃんと大学を出てそれなりな会社に就職出来たんだから!

 私は高校を出て直ぐにあの人たちがゴリゴリ見合いで勧めてきた暴力男と離婚させてもらうのが精一杯で、慰謝料も財産分与もなし! 高卒じゃあスーパーのレジ打ちみたいな仕事しかなかったから、老後のためにはどうしても親の遺産が要らないなんて言えないのよ!」

 イラっとした感じに金子さんが言い返す。

 確かにねぇ。

 同じ家庭で生まれ育っても親が子供の教育費で差別したら、子供の生涯年収に大きな差が生じる。一人は遺産は全て放棄するから縁を切ると言えるのに対し、もう一人は親の遺産が必要だから介護せざるを得ないって状況になるんだろうね。

「…‥助けにならなくて悪かった。

 弁護士は雇ったのか?」

 金子(兄)が金子さんに尋ねる。


「自首するのに、弁護士なんて要らないでしょう?」

 金子さんが首を傾げながら応じた。

「やった行為の事実確認に異論はないにせよ、動機や情状酌量とかは色々な見方があるんだ。

 取り敢えず、腕の良い弁護士の先生に連絡を取るから、これ以上は話すな。

 現時点では任意聴取ですよね?」

 金子(兄)が年がいった方の警官に尋ねる。


「書類がまだ揃っていないので、一応そうですね。

 取り敢えず、いつでも連絡が取れるようにしておいてください」

 警官のおっさんが頷いた。


 どうやらそれで話がついた扱いなのか、金子(兄)が金子さんを連れて部屋を出ていく。

 警官は遺体の引き取りが手配できるまでここで現場検証でもしてるのかな?

 検証する対象もあまりない気もするけど。


 疎遠っぽいお兄さんが助けるために動くとはちょっと意外だが、なんとかこれで金子さんも大事にならずに済む……かも?

 リリちゃんのご近所さんが逮捕されちゃうなんて事はない方が良いからね〜。

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― 新着の感想 ―
兄貴は兄貴で親の顔も見るのが嫌だった様ですね
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