あれぇ??
家に帰り、冷凍庫に入っているらしき遺体と浄化した霊と穢れの話を碧にしたら、問題点を指摘された。
「その3階の娘さんを自然な感じに意思誘導できなかったら田端さんに通報するって……地縛霊も穢れも無くなっているんでしょ?
どうやって気付いたって言うつもり?」
げ。
そう言えば??
「どうせ依頼が来るほどの問題がある霊じゃなかったから美咲さんへの結婚祝い的な無料サービスだと思って、あまり考えてなかった!
一応中を確認したらあの老婆の霊がかなり不快な感じだったから、様子を見ようと思うよりもさっさと上に追い出してしまいたいって感じてやっちゃったわ〜」
頑張って母親の世話をしている娘にああも不快な言動をしているなんて!とマジでムカついたんだよねぇ。
兄貴が北海道に住んでいて、いつかは私が両親の介護の手伝いとかをする事になるかもと思うとちょっと同情しちゃったし。
私の母親は絶対にあんな不快な事は言わないと思うけど。
いや、認知症になると性格が変わるって噂も聞くから『絶対』はないけどね。ちなみに死んだ後の霊って認知症とかの前の状態になるから、あの老婆の言動が不愉快なのは認知症ではなく本性がああだったからなので、娘さんには益々同情を感じる。
「娘さんを説得できると良いね。
自首した方が多分司法側の心象も良いだろうし」
碧が源之助をブラッシングしながら言った。
最近は暑いせいか毛がかなり抜けるんだよねぇ。
とは言え、暑さは外だけの話で、源之助は快適な気温の室内でずっと過ごしているんだけど。
「だねぇ。
まずは彼女と出会えないとなんだけど」
エレベーターの中で会った程度ではまともな会話(とそれに紛れ込ませる意思誘導)をし難いので、1階の郵便受けで出会えないかとハネナガに彼女の動きをモニターして貰っているのだが、今日は特に動く様子がない。
まあ、この猛暑じゃあ日中は買い物にも行かないよねぇ。
夕方にリリちゃんの世話に行っている間に食料品の買い出しなり、郵便受けのチェックなりに出て来てくれると良いんだけど。
そんな事を考えていたら、ハネナガから念話が届いた。
『あの女が部屋を出て……10階に向かっているぞ』
おや。
そう言えば、こないだも宮田さんと一緒に会った時も10階に向かっていたよね。
あれってやっぱ介護していますって見せかける為に毎日10階に行っているのかな?
朝食の時間には行っていなかったみたいだけど。
流石に偽装の為とは言っても1日3回意味もなく10階に行く気は起きないのかな?
第一、あの老婆が生きていたとしても、食事は作り置きを準備しておいて、時間になったら食べてねと言って行くのは1日1回にしておいた方が精神的にもまだマシだっただろうしね。
『何をするのか見てみたいから、ついていって視野共有してくれる?』
ハネナガに頼む。
なんかこう、ドツボに嵌っちゃった人がああ言う状況で周囲を誤魔化す為に動いている時って何を考えて行動しているのか、ちょっと気になるんだよね。
精神科医とかカウンセラーになる気はもう無いけど、来世ではそう言う選択肢もあるかもだから、人間の想定外な行動とかは観察する機会があるなら観ておきたい。
『了解』
ハネナガが壁を突き抜けて外へ出て、10階に飛んでいく。
10階の廊下に入ったら丁度あの女性が1002号室の扉を開けているのが共有している視野で見えた。
「お母さん、調子はどう?」
声をかけながら部屋の中に入った女性が玄関の鍵をしめて中に入り、ふと台所で立ち止まって冷凍庫を見つめた。
う〜ん、毎日この部屋に入って冷凍庫を凝視していたんだとしたら、あまり精神衛生上良くなさそう。
マジで自首した方が良いんじゃない?
そんな事を考えながら見ていたら、3分ぐらい凍ったように動かなかった女性が突然大きく息を吐き、冷凍庫のコンセントを引き抜いた。
え?!
もしかして、死体を捨てて徘徊→行方不明路線を狙うの?
スーツケースにでも死体を入れて持ち出す必要があるけど、大丈夫?
持って来ていないようだけど、この部屋に大量の荷物の奥にでもあるのかな?
そんな事を考えながら見ていたら、女性はシンクで手を洗って部屋を出て行った。
うん???
どうしたんだろ?
手を洗うほど物に触れたとは思わないけど、次はどうするの??
どうするのかと思って見ていたら、女性は3階まで降りてハンドバッグと日傘を手に取り、外に出て行った。
まだ暑いよ??
なんか突然の思いつきで動き出したような感じだけど、どうしたんだろ?
スーツケースを買いに行くの??
そんな事を考えながらハネナガの視界でフォローしていたら、なんと女性は近くにあった警察署へ入って行った。
え〜〜〜????!!!
まだ自首するよう意思誘導してないよ??