狭い所がお好き
「リリちゃん、こんにちは〜」
声を掛けながら美咲さんちの玄関を開け、入っていく。
猫は耳はいい筈だから人が玄関へ近付いてきたのは気付いている筈だが、飼い主である美咲さんやそれなりに慣れてる(多分)宮田さんならまだしも、完全に赤の他人な私は来るのはウェルカムではないかもだから、逃げ隠れたかったらさっさと出来るように声を掛けたのだ。ちょっとそうなると悲しいけど。
暑い最中に歩くのは嫌だったので夕方の4時半まで待ってから家を出たのだが、それでも汗だくだ。付けっぱなしになっていたクーラーが気持ちいい。
「お?
今日は逃げないんだ?」
意外にも、リリちゃんは玄関の先の廊下に香箱座りしてこちらを見ていた。
留守番2日目(多分?)ともなると、寂しさがグレードアップするのかな?
私としても歓迎してくれる相手の世話をする方がやり甲斐があって嬉しいね。
「お邪魔しま〜す」
指を差し出して匂いを嗅がしてからこしょこしょとおでこの辺を撫で、部屋の中へ進んでいく。
まずはトイレ掃除だね。
考えてみたら、ブラッシングさせて貰えない場合は少しクイック◯ワイパーで床を掃除した方が良いかも?
一週間もあれば床が毛や埃が凄いことになって、それを毛繕いの際に食べるリリちゃんの健康によくない可能性がある。
ウチでは基本的にワイパーでの床掃除は碧が源之助と遊ぶついでにやってくれているからあまり私は床掃除をしていないのだが、やるべきかもなぁ。
新婚旅行から帰ってきたら綿埃の転がっている新居っていうのもちょっとアレだろうし。
「お、ちゃんとウンチしてるね〜。
良い子〜。
オシッコも2回やってるし、問題はないようだね」
書斎の奥にある猫トイレスペースで排泄物を回収して、リリちゃんに声を掛けながら人間用トイレに向かう。
やっぱ寂しいのか、リリちゃんが後ろから少し離れた距離で着いてくる。
昨日はもっと隠れていたけど、二人いると警戒対象になるんかね?
「およ?」
トイレの扉を開くと便座の蓋が自動で開き……少量の穢れが舞い上がった。
昨日、ささっと祓ったんだけどな。
宮田さんの目があったから力技の急いだ清めだったけど、それ程溜まって居なかった穢れにはあれで十分だと思っていたのに。
何か悪い物でも食べて吐いたのがこびりついていたのかもと思っていたが、清めた後に戻ってきたってことは、マンションの建物そのものの排水管にでも問題があるのかな?
昨日私が清めた後は流してないので、水道管の方では無いと思われる。
「う〜ん」
取り敢えずリリちゃんの排泄物を流し、猫トイレ掃除用道具を戻して少しトイレ砂を足してから、台所に行ってドライフードをお皿にいれて出す。
ウェットフードもパウチ一つ分あげてくれと言われているが、まず先にミニボウルを洗っちゃわないとね。
ドライフードは昨日の夕方に出た際にはお皿が空だったので洗ったし、朝はタイマーで餌が出したのでお皿は綺麗な状態だったんだけど、ウェットフードは昨日帰る前までに完全には食べ終わって無かったからミニボウルを洗ってないんだよね。
タイマー付き餌やり機の餌を入れる容器の方も洗わないと。
台所に行って蛇口から水を出してお皿を濡らしたら、一瞬ふわっとシンクの排水溝の方から微量の穢れが舞い上がった。
どうやら排水の方に問題があるのは確定なようだ。
微量だから開きっぱなしなシンクからはそれ程目立つ穢れは見えず、蓋をしているトイレだけちょっと目に見える程度の少なさだけど。
「うなぁ〜お」
リリちゃんがすりすりと頬を私の足に擦り付けてきた。
どうやらさっさとウェットフードをだせと言うところかな?
『遊んでちょうだいだったら』もっと嬉しいが。
「ちょっとお皿洗うから、先にドライフードを食べてて〜」
リリちゃんに声を掛け、急いでお皿を洗う。
お皿を洗っている間は何も出てこないと分かっているのか、リリちゃんはあっさり私を見捨てて先程出したドドライフードの方へ戻って行った。
「は〜い、どうぞ」
お皿を洗い終え、タイマー式餌やり機に明日の朝の分のドライフードを入れて時間を設定してから、ウェットフードを出す。
既にさっき出したドライフードも半分ぐらいなくなっている。
すごい食欲だね。
留守番させると次の食事がいつ貰えるか分からないと言う危機感から沢山食べたくなるのかな?
さて。
リリちゃんが食べている間に排水管のどこに何の問題があるのか、調べないと。
「クルミ。
ちょっと躯体から離れて霊体だけになってこの排水管のどこから穢れが流れ込んで来ているのか、確認してきてくれる?」
魔力を多めに渡しながらクルミに頼む。
いくら小さな隠密用のピンバッジだと言っても、実質下水管の中を入ったのを後で触れるのは嫌だからね。
下手したらGに触れたり、その卵を付けてきたりしたら悪夢だ。
『ほいほ〜い』
クルミがあっさり言って、シンクの中に飛び込んでいった。
猫の霊なせいか、暗くて狭い所が好きなんだよねぇ。
正直言って理解を超えるが、嫌がる使い魔に無理強いしないで済んで、助かるわ〜。