ペットシッター
(住所は適当なでっち上げです)
『あ、凛?
ちょっとバイトでペットシッターする気ない?』
ベルガー氏の騒動が終わり、涼しい家に再び引き篭もってお守りやアイピローの符を描いてたら、母から電話があった。
小学生の頃は夏休みって言ったら近所の子と外に遊びに行ったり両親に連れられてお出かけしたりでそこそこアクティブに過ごしていた気がするのだが、最近は外を歩くだけでも汗だくになってうんざりする程暑い。お陰で今では真夏になると避けられない用事が無い限り、外に出る気がしない。
これも温暖化かねぇ?
それとも単に私が怠け者になっただけなのか。
10年ちょっとでそこまで気温は上がらなそうなもんだけど、どうなんだろ?
まあ、それはさておき。
「え〜? ペットシッターをこの暑い最中にやりたいとは特に思わないけど、やって欲しいなら理由次第ではやっても良いけど?」
母は私が退魔師として働いているのを知っているのだ。
ペットシッターのバイト代が必要だろうと私のお小遣いを増やす手伝いの為に電話を掛けてきたとは思えない。
『隣の宮田さんちの美咲ちゃん覚えてる?』
母が返事代わりに聞いてきた。
「そりゃあね。
兄貴の方が親しくしていたとは思うけど」
確か兄貴と同い年か、1歳違いぐらいだった筈。
男女の違いがあった上に小学校を出た後ぐらいからは学校も違ったので、思春期以降はそれほど親しくしていなかったと思うが。私個人の思い出としては、幼稚園ぐらいの時に通りすがりに母と宮田さんのおばさんが立ち話をし始めた時なんかに遊んで貰った事が何度かあった気がする。
本人との記憶が沢山あるというよりも、母との会話に時折出てくる近所のお姉さんって感じだね。
『彼女、今度結婚したの。
昨日から新婚旅行に行っているんだけど、その間は彼女の家の猫を宮田さんが世話しに行く筈だったんだけど、宮田さんが急遽入院することになっちゃって』
母が言った。
はぁぁ?!
ヤバいじゃん!!
「え、大丈夫なの??」
死にそうだったら碧に助けてもらうべき?
親だったら土下座してでも頼むつもりだけど、近所のおばさんの分まで土下座して頼み込んでいたらキリがない。
特にそれほど親しくしていた訳でもないしなぁ。
というか、死にそうだったら美咲さんだって連絡が付かないような僻地に行っているんじゃない限り新婚旅行から帰ってくるだろうから、ペットシッターは必要ないか。
『腸閉塞だから痛くて苦しいし入院が必要らしいけど、命に関わる可能性は低いみたい?
ただ、流石に病院から抜け出して猫の世話は難しいのよ。
隣の宮田さんちに朝晩行って猫の餌をあげるぐらいだったら私がやってあげても良いんだけど、流石に美咲ちゃんの家まで行くとなるとちょっと毎日は厳しくって。
住所からして、凛の住んでいるところに近い筈だし、1日4千円で一週間ほどやってくれない?』
1日4千円ねぇ。
それって普通のペットシッターの最低料金じゃん。
ご近所さま価格だね。
暑い最中に出歩く理由としてはちょっと弱いが、まあ実家の隣人だからねぇ。
断って、実家に帰った時にばったり会ったら気まずい。
「しょうがないねぇ。
住所を教えて?
ちなみに美咲ちゃんには言ってあるの? ほぼ赤の他人な私に家の中を見られるのは嫌かもよ?」
母親に来てもらう時の部屋の片付け方と、赤の他人に見せる部屋と、近所の知り合いに見せるのとでは大分とランクが違うと思うよ?
と言うか、新婚で既に猫がいるのか。
まあ、元々飼っていた猫を連れて行くか、部屋が大きかったんだったら旦那が引っ越してくるのかも。
新婚旅行から帰ってきて直ぐに旦那の服や靴がボロボロにされたりしたら、成田離婚じゃないけど『猫と俺、どっちが大切なんだ!?』騒動になりそうだけど。
付き合っている時から猫と仲良くしていたと期待しておこう。
『天神橋4丁目5の16、キルフィーナ天神402号室ですって』
母が言った。
う〜ん?
ウォーキングで見たような地名、かも?
タブレットを手に取ってナビアプリで確認する。
うん、うちから歩いて15分ぐらいのところだ。
意外と近い。
が、この暑い最中、歩いて15分かぁ。態々自転車や電動キックボードをレンタルする程ではなさそうだけど、着いたら確実に大汗かいているだろう距離だね。
たっぷり水分補給しないと。




