水浴び
「やっと着いた……」
関西から諏訪までの乗り継ぎがあまり良くなく、夕方にテーマパークを出た我々が碧の実家の前に着いたのは結局夜の10時過ぎだった。
名古屋で新幹線から乗り換える際に待ち時間が長かったので駅弁ではなく普通の駅ナカのレストランに入って味噌カツを食べたから食事はしっかりと摂れたが、朝から移動しまくりな感じな1日でぐったり疲れた。
「疲れたね〜。
高校の夏休みに一度あのテーマパークに行った時も思ったけど、大阪って遠いわ。それに下手に途中下車してこっちに来るより、東京に帰る方が早いって言うのもなんか無駄だわ〜」
碧もため息を吐きながら言った。
「白龍さまの聖域から帰るってだけなら私ら居なくてもいい気がするけど、流石に家庭料理を所望されてそれを碧のご両親に押し付けて私らは東京に帰るって訳には行かないもんねぇ」
現代日本の移動ってそれなりに便利で早いとは言え、それって基幹ルート上だけが早く、そこから外れると乗り継ぎや便の数の都合とかでどんどん所要時間が増えていく事に、今回初めて実感した気がする。
今までの移動って諏訪へはレンタカーだったし、依頼で地方へだったら新幹線や特急で行きやすいところまで行って残りはレンタカーだった。だからイマイチ乗り継ぎの不便さとかって実感してなかったんだよね。地方都市ってやっぱ交通の便が悪いわ〜。
「今晩はもう寝て、明日の朝もちょっとのんびりしてから昼食作りを手伝って、サンダーバード様に食べさせたらさっさと追い出して私たちも帰ろう。
源之助が寂しがっているわ!」
碧がむん!と拳を上げて宣言する。
「だね〜」
きっと碧ママだったら客に三人前の料理を食べさせるのぐらい、お手のものだろう。ちょくちょく氏子さんとかを食事に招く事もあると以前言っていたし。
まあ、氏子さんに出す料理と、フォークで食べられる『肉、家庭料理』と言うリクエストだとちょっと違いそうだけど。
そんな事を考えながら家族用の入り口へ向かおうとしたら、突然上を何かが通り過ぎていき、物凄い勢いで湖に飛び込んでいった。
「はぁ?!」
隕石?! それとも飛行機でも落ちたの?!
でも、隕石って流れ星だから光るよね?? つうか、大きいと認識できるようなサイズの隕石が落ちたらここら一体がクレーターになっているだろう。
でも飛行機だってライトが点いていそうだし、墜落したら爆発しない??
思わず神社奥から湖が見えるところに走り寄ったら、何やら湖の奥の方で水飛沫が飛び交っている。
多分。
月明かりであまりはっきりは見えないけど。
『サンダーバードの奴が着いたようじゃの。
水遊びなら人が居ない夜にやっておけと言っておいたのじゃが、早速水浴びを楽しんでいるようじゃな』
白龍さまが言った。
あ、そうなの?
私らが苦労して移動してきた距離を、あのサイズの存在が飛べばテーマパークが閉園して直ぐにこっちへ辿り着くのか〜。
まあ、旅客機と競争しようとしていたんだもんね。
ヘリで飛ぶよりも早いのだろう。
しかもあの凄い水音は水をバシャバシャやっている音なのかぁ。
小鳥が小さな浅いボウルみたいなところで水浴びするって本とかのシーンで時折出てくる事あるけど、ジャンボジェットサイズの巨大な鳥が水浴びしようと思うと大きな湖じゃないと満足できないのかぁ。
海じゃあ塩水でベタつくから嫌なんだろうね。
諏訪湖サイズじゃなくても大きめな池でも良さげな気もするが、人目とかを気にして遠慮していたのかね?
それとも今までにもあちこちの池や湖で『夜中に水音が?!』と言うような怪奇現象が起きていたのか。
「鳥の形をしていても、放電現象は抑えられるんですね〜」
水辺の方を見ながら碧が言った。
確かに?
バチバチ湖に放電されちゃあ魚の死骸が浮かび上がりまくって明日は大騒ぎになる。
変な音がしないし、周囲に特に魚が浮いてきていないから、大丈夫なんだよね??
『あれの雷は、戦う時の威嚇と攻撃手段じゃよ。
機嫌が良すぎる時も出てしまう事があるようじゃが、流石に水浴び程度なら我慢できるじゃろ』
白龍さまが言った。
そっかぁ。
境界門を通る時に雷を帯びた巨大な鳥っていうのを見えるかな〜と密かに思っていたんだけど、攻撃時しか出てこないなら、見えなそうだ。
ちぇ。
これだけ振り回されているんだから、せめてそのくらいは見たいと思ったのだが、諦めよう。
「じゃあ、中に入ろうか。
もうお風呂入って寝ちゃいたい」
碧がため息を吐いて家の方へ足を向けた。
「だね」
夜は聖域で眠るなり適当に山で飛び回るなりして過ごしてくれると期待しよう。