聞かなかった事にしますね〜
「では、誰か案内と支払い役をする者を提供しましょうか?」
雷を纏った飛行機サイズの巨大な鳥と旅客機の競争を想像したのか、ちょっと顔色の悪くなっていた遠藤氏がベルガー氏に提案する。
神の力で入園料とかを払ったことにして色々と楽しんでいるみたいだけど、出来れば無銭入場とか食事の食い逃げとかはされない方が良いよね。
通りすがりに一回起きるだけなら『計算違いかな?』とか『バイトの子がレジを打ち間違えたか』で収まるだろうが(バイトの子にとってはいい迷惑だけど!)どこか気に入った場所が出来て頻繁に通い詰められたら、それこそ変な霊障?!と退魔協会に連絡が入っても困るだろう。
それに氏神さまがいるような寺社へ観光に行って、そこでやらかされて怪獣大乱闘みたいな事になっても大問題だし。
現実的な話として、神様と言える存在同士が喧嘩を始めたら退魔協会の人間が居ても止められないだろうけどね。だが少なくとも現場へ一般人が近づくのを止めたり、至急で白龍さまと碧を呼び寄せたり出来る。
碧にとってはいい迷惑だろうが。
『え〜、誰かが付いてまわるなんて面倒だしうざったいよ。
終わったら白龍さまに呼び掛けるからそれでいいだろう?』
ちょっと嫌そうにベルガー氏が答える。
まあ、楽しく気儘にふらふらと気が向いたことをしているのに、真面目な顔をした誰かがずっとそばに居るとちょっと邪魔だよね。
遠慮するような繊細さは無いと思うけど、ウザいと感じるだけの感性はあるみたい。
「ええと、夜の休憩や食事はどうしていらっしゃるのですか?」
困った遠藤氏が尋ねる。
アメリカの留置所へホテル代わりなつもりで入っていた存在なのだ。ホテルを提供すると言ったら同行を許してくれるかもと期待したのかな?
『夜は適当に森の木の上で寝ているよ?
もしくは夜空を飛んで風を楽しんでいるとか。
食事は適当に美味しそうな匂いがする物を奢って貰っている』
ベルガー氏が答えた。
どうやら夜は雷鳥の格好をしているらしい。
食事に関しては無銭飲食ではなく、適当に店なりそこらへんに居た人なりに奢るよう『説得』しているらしい。
神様って信者じゃない人にも集るんだね〜。
何かお礼に祝福っぽい小さな幸運でもプレゼントしてくれていると良いんだけど。
まあ、神様と食事をしながら話をするなんてそうそう出来る体験じゃないから、何かきっと意識には認識されてなくても思い出深いイベントになっただろう。
多分。
願わくは。
それに神様に恩を売れば(?)運が上向いたりする効果があるかもだし。
確実に悪霊とか呪詛は払い除けてくれてそう。転嫁付き呪詛の場合どこに返ったかは不明だけどね。
『う〜ん、なんか断ってもひたすら俺を探して監視し続けそうだね。
いいや、今回はちょっと白龍さまのところで水遊びして戻って、また後でこっそり帰ってきて面倒な奴らに見つからない様に遊ぶか』
こっそり忍び戻ってくる宣言をされて遠藤氏が微妙な顔をしたが、取り敢えず今回無事に帰ってくれれば、次回以降は日本じゃない可能性もあるし、知らぬが仏路線で行く事にしたのか、やがてにっこり笑って頷いた。
「今回でも次回以降でも、何かこちらで手伝える事がありましたらご連絡下さい。
私が見つけられなかった場合は白龍さまの愛し子経由でも連絡が取れますので」
勝手に碧を連絡係にしちゃって、良いの〜?
まあ、白龍さまのオトモダチなら多少の融通は効かせても良いだろうけど。
と言うか、確かに普通の個人じゃあ神様が見つけるのは難しそうだよね。
幻想界かどこかに一旦帰るなら携帯とか持たせても壊れちゃうだろうし、どちらにせよ聖域の境界門を通ってすぐにUターンして戻ってくるんじゃない限り充電切れになるのはほぼ確実だろうし。
それに、雷を帯びた鳥が本来の姿だとしたら、携帯を持ったら壊しそうだ。
神様なら亜空間収納も出来るだろうけど、手に持った時にバチバチ!と壊れるんじゃないかな?
もっとも普通にテーマパークのアトラクションに乗れてるから、人型の時は意識しなければ放電しないのかも。
と言うか。
ベルガー氏が只者じゃないのは事実だったけど、魔人はまだしもエルフかもと判断した人にはちょっと文句を言いたい。
普通のおっさんスタイルな相手を『エルフかも』と言って欲しくなかった。
やっぱエルフは美形じゃないと!
現実の世界だったら種族の全員美形なんてあり得ないだろうけど、『パワフル過ぎて人間じゃない!』という判断をして架空の存在を挙げるなら、やっぱ理想に沿って『エルフ=美形』と言うルールは守って欲しかったなぁ。