サンダーバード
「きゃ〜!!」
フライングコースターの方から楽しげな悲鳴が聞こえて来る。
ジェットコースターとかが苦手な私としては、悲鳴を上げるような乗り物になんで乗りたがるのか、分からない。
恐怖心でアドレナリンを出す反動でドーパミンでも出てくるんかな?
ホラー映画を楽しむのと同じ感覚なのだろうか。ホラー映画はジェットコースターよりも更に酷い気もするが。あれもマジでなんで見たがる人がいるのか、分からない。
流石にこの暑い最中に態々並んでそんなアトラクションを楽しもうとしている人たちの前で『気が知れんわ〜』と口に出す気はないけどね。
待っていたらベルガー氏が乗っていたコースターの回が終わったらしく、ゾロゾロと人が出てきた。
このまま素知らぬふりをして通り過ぎられたらどうやってあの存在の足を止めるかなぁと心配していたのだが、ベルガー氏が碧(と言うか白龍さまだろうね)の前で足を止めた。
『おや、お珍しい。こちらに居たのか。
ここで何をしているんだ?』
ベルガー氏が白龍さまに念話で話しかけた。
私らに話し掛けた訳じゃないのだが、どうやったのか白龍さまが自分に話しかけてきた念話をエコーっぽい感じで私達にも流してくれたので聞こえた。
白龍さまの知り合いなのか〜。
ますます私らになんとか出来るような相手じゃ無いじゃん。
『雷鳥か!
暫く見かけないと思っていたが、戻ってきていたのか。
久しぶり過ぎて、人間どもに悪魔憑きと思われているようじゃぞ?』
白龍さまがちょっと意外そうに応じた後に、苦笑しながら付け加えた。『悪魔憑き』なんて氏神様たちにとってはちゃんちゃら可笑しい形容詞なんだろうねぇ。
神様仲間なんだとしたら、それこそ国内に来たら感じられないの?と言う気もしないでもないが、そこまでパワー全開にしていたら疲れちゃうし、周囲の人間が昏倒しちゃうのかな?
サンダーバードねぇ。
なんか子供の頃にちらっと再放送(?)で見たアメリカかどっかの人形劇っぽい古いテレビシリーズの飛行機?ロケット?の名前だった気がする。
他にもアメリカンインディアンの自然の霊と言うか神様にもそんなのがいるって何かのファンタジーに出てきてた気がする。
直近では最初にアメリカで捕縛されたっぽい事を考えると、そっちが正解なんだろうね。
言うならば、氏神さまのアメリカ版で、元の姿が龍ではなく雷を纏った大きな鳥っぽいナニカなのだろう。
アメリカンインディアンの氏神さまかぁ。
開拓時にガンガン殺されまくって全滅しちゃった部族も多いらしいし、神様が久しぶりに帰って来たんだったら怒ってる?
でもまあ、数百年ほど遊びに出ていて氏子達の危機に気付かなかったんだったら、あまり怒る権利もないと思うけど。
と言うか、アメリカンインディアンの宗教って祈るから守ってね的な実質ギブアンドテイクな信仰ではなく、もっと自然信仰的な『あるがままに受け入れる』様なイメージだから、開拓者に駆逐されちゃってもちょっと悲しいけど罰するほど怒らないのかも。
『ちょっと遊び回っていて久しぶりに顔を出したら気に入っていた民達がいつもの所に居なくてね。
しかもやたらと人間が増えた上に地面が堅苦しく押し固められていて、びっくりしたよ』
ベルガー氏…‥と言うか、雷鳥と呼ぶべきなのかな? でも呼び捨ても不味そうだよね。
いいや、取り敢えず『ベルガー氏』にしておこう。
ベルガー氏が白龍さまに久しぶりにこちらに来た時の驚きを説明し始めた。
『うむ。
ここ数百年で驚くほど人間は増えたし、自然を抑圧するようになったからの。
元々そう居心地が良い世界ではなかったが、ますます息苦しくなったじゃろう?』
白龍さまが応じた。
そっかぁ、息苦しいんだ。
申し訳ない。
『まあ、これも面白いっちゃあ面白いけどね。
やっと見つけたお気に入りだった氏族の子孫が変にチカチカして煩い賭場を運営していたから、適当に遊んでコインをじゃらじゃら出していたらイチャモンをつけられてね。
思わずイラッとして追い払ったら暫くして黒い服を着た変な男が十字架を振り回して寄って来てね。
そいつも追い払ったら更にわらわらと人が寄って来てちっさい武器を振り回しながら脅し始めたから、暫く付き合ってやろうかと同行して衣食住を提供させていたんだ』
ベルガー氏が言った。
そっかぁ、悪魔憑きとして拘束されたのは、ベルガー氏としては無料でケアしてくれる食事付きホテル代わりだったんだね。
『最近起きた大体のことが分かってきたから出てきて、空を楽しんでいたら前を飛んでいく大きな鉄の鳥を見かけたから追いかけたら、ここのそばにきたんだ』
ベルガー氏が付け加えた。
偶々『もう良いや』と出てきた時に目に付いた飛行機が関空行きだったんだろうね。
万博って神様的な精霊にも、面白いのかな?