並んでるね〜
「こちらが入る為のチケットです」
新幹線で新大阪まで来てテーマパークに辿り着いた我々は、入り口で遠藤氏に出迎えられた。
おやま。
彼本人が出てきたんだ?
走り回って容疑者(?)を探したり、私らのホテルを手配したりするのは下っ端に任せるかと思ったんだけど、退魔協会も人手不足なのかな?
もしくはそれだけ碧の事を重視しているのか。
「ちなみにその悪魔憑きと呼ばれている人の名前は分かっているんですか?」
遠藤氏に尋ねる。
相手に名前を聞けるぐらい、意思疎通が出来ているんかな?
と言うか、英語じゃなきゃダメだったら私は会話が難しいけど……そこは念話でなんとかなるか。
退魔協会に『念話で意思を確認して送りだしました』と言うのはちょっと嫌だけど。
念話が出来るとはっきり認めると色々と面倒な事になりそう。
そこは白龍さまに聞いてもらったって事にすれば良いか。
「アメリカの方に確認したところ、本人が言った名前の発音が難しいため、『ベルガー』と呼んでいたそうです。
国籍や過去の住所諸々は不明だそうで」
遠藤氏が言った。
どうやら私らが移動している間に追加情報を得たらしい。
悪霊に完全に意識を乗っ取られたにしても元々の人物がアメリカに住んでいたなら完全に記憶が消し飛んでいてもある程度の履歴的な情報がある筈だけど、名前は聞けるが過去が完全に不明となると、マジで境界門から来たっぽい?!
「そのベルガー氏の現在地は分かっているんですか?」
碧が尋ねる。
「先ほどからあちらのフライング・コースターに並んでいたので、そろそろ乗っている頃だと思います」
遠藤氏が中を指しながら言った。
『フライング・コースター』が何か知らないが、ジェットコースターの親戚みたいなのだとしたら、異世界人には刺激が強すぎないのかな?
まあ、自力で空を飛べる存在な可能性があるから、平気かもだけど。
自力で飛ぶのと、よく分からない装置で飛ぶのとでは怖さが違うと思うが。
「そう言えば、昨日万博で何人も昏倒したのって何が原因だったんですか?」
怒ったりびっくりした際に制御が緩んで周囲の人間を気絶させちゃうならジェットコースターもどきは乗るべきじゃ無いだろう。
まあ、遠藤氏が騒いでいない事を考えると、今日は誰も昏倒させていない可能性が高そうだけど。
「どうも、本国でやり取りがあった人間とばったり万博会場で鉢合わせになってしまい、その人物を黙らせようとして周囲の人間まで気絶させてしまったようです」
遠藤氏が言った。
おやま、乱暴だね。
と言うか、その人物ってアメリカのエクソシストか魔術師ってこと?
そんな人間が国外に遊びに出てて大丈夫なの?
まあ、弱腰の日本政府と違って、アメリカ政府ならアメリカの術師が国外で誘拐されたらそれなりに苛烈な報復をして取り返すだろうから安心して国外旅行にも行けるのかな。
日本の退魔師なんか、パスポートの取得すら推奨されないのに。ちょっとその点だけは羨ましいかも。
「ちなみにアメリカはそのベルガー氏の扱いに関して何か要望とか出しているんですか?」
まあ、要望がなんであろうと聞かなきゃいけない謂れは無いけど、何を計画しているのかを知っておいて損はない。
「憑いていると思われる悪魔を祓えたなら、元々の氏名や住所を確認して教えて欲しいとのことです。
祓えなかった場合は拘束して貰えたら横須賀か岩国の米軍基地から本国への輸送を手配するのも可能と言われました」
遠藤氏が教えてくれた。
陸続きな米軍基地から軍の輸送機で人を国外へ運べちゃうのかぁ。
大陸側の大国が反政府的情報発信をしている人間を国外からでも誘拐・投獄しているって噂だけど、アメリカが何らかの理由で日本で人を誘拐している場合、米軍基地からあっさり連れ去られちゃいそうだね。船や貨物に紛れ込ませて運び出すよりも更に早くてお手軽そうでちょっと怖い。
昔ならまだしも、最近のアメリカはちょっと気が狂っているんじゃないかって思う様な言動をしている時があるからなぁ。
でもまあ、外国人を勝手に国外へ追い出すことはあるとしても、攫ってくるのは少なそうかな?
そんな事を考えながらテーマパークの中を人混みをすり抜ける感じで歩いていたら、長い行列が出来ている場所へ出てきた。
魔力視で並んでいる人影を確認したら、一人輝く様に魔力が溢れている存在がいた。
あ〜。
あれ、人間じゃなさそう。
悪霊憑きでもないでしょ。
「取り敢えず。
折角根気よく並んでいたようだから、彼がライドを楽しむまで、待ちましょうか」
降りてくる場所で待っていれば出てくるでしょう。
あの存在を、楽しみにしているアトラクションに乗る直前に列から引っ張り出して不快にさせるのは避けた方が良い気がする〜。