悪魔憑き?!
『すいません、至急大阪に向かって頂く事は可能ですか?!』
程よく冷えた部屋でのんびりとお守りを作成していたら電話が鳴った。碧がスピーカー通話にして受けたら、いつもよりも切羽詰まった感じな遠藤氏の声が流れてくる。
依頼の内容を全く話さずに何処ぞに行けないかと聞いてくるなんて、この慌てたような話ぶりと相まって……なんか不穏だね。
「え〜と、ペットがいますし、日帰りか一泊二日ならまだしも長期だと色々と手配が必要なんですが。
まず、依頼内容を教えて頂けますか?」
碧が意識的にゆっくり話す感じに応じる。
慌てている人に合わせて早口で対応すると、こっちまで追い立てられるような気分になるからね。相手もますますヒートアップしちゃうし。
碧も親からそこら辺の対処術を習っているのかな?
私の場合は前世で『パニックした貴族に詰め寄られた時の対処法』として習ったんだけど。
『すいません。ちょっとこちらがバタバタしているせいで、ちゃんとコミュニケーションが取れていませんでしたね』
ふうっと大きく息を吐く音がして、遠藤氏が言葉を切った。
なんかやばい未来視でも上がってきたのかね?
でも未来視って『未来の事』だから、大抵最初のステージで慌てる必要は無い事が多いんだよね。ヤバければヤバいほど、早くビジョンが上がってくる。まあ、それをいつ何処で起きる危機なのかピンポイント出来た時点ではギリギリなタイミングになっている事はそれなりにあるだろうけど。
霊的な事態の対処に駆り出される退魔協会だったらピンポイントされてなくても未来視自体の情報共有はされてるだろうから、いざという時にこうも慌てる事はないと思うんだが。
『実は、どうもアメリカ本国で『悪魔憑き』と呼ばれる程の悪霊を憑けていると思われる観光客が万博に来たらしい事が判明しまして。
万博でバタバタ人が倒れて、熱中症かと病院に運ばれたら霊障に近い事が判明したんです。最初は誰かが万博の会場に来る前に何処か古戦場でも回って慰霊碑を壊すような行動をして悪霊を連れてきたのかと思われたのですが、倒れたうちの一人がアメリカ人だった関係で来たアメリカからの問い合わせで、あの国で危険な悪霊に憑かれている為に軟禁されていた人物がいつの間にか逃げ出して、日本に来ていた事が判明したので、それかもと言うことになり。
AIと人手を使って監視カメラを総チェックしたところ、件の人物が集団熱中症現場に居たことが確認されました』
つまり、集団熱中症ではなく、集団霊障被害って事だね。
と言うか、普通に飛行機に乗ってアメリカを出て来れた時点ですごいね。
周囲の人間に霊障を起こしてバタバタ倒れさせられるような悪霊が、飛行機と電車の乗って移動できるって違和感があるんだけど。
もしかして、もう完全に悪霊に乗っ取られてそいつの願うままに動いているから悪霊が行きたいところの辿り着くまでは周囲に漏れる霊障や穢れも最小限に抑えているのかな?
悪霊が観光客として動いていると言うのも不思議だけど。
「ちなみに、何故『悪魔憑き』なんて呼ばれているんです?
悪霊のせいで人を殺しまくっていると言うなら、アメリカならさっさと死刑にしちゃいそうですが」
碧が尋ねる。
あれ、でもアメリカでもinsanity pleaってやつで本当に悪霊が殺させたなら心神喪失状態って主張したら精神病院行きになって死刑はないかも?
『詳しい事は我々も知りませんが、非常に強くて危険な悪霊が憑いているせいで悪霊祓いが出来ず、悪魔が憑いているようだと拘束されてバチカンからの専門家が来るのを待っていた人物らしいです。
取り敢えず明らかに危険で周囲に害を及ぼしかねない存在なので、出来る事ならば祓ってしまい、それが無理でも拘束して本国へ送還する必要があります』
遠藤氏が説明を続けた。
確かに暑い最中で周囲の人が熱にクラクラしていたにしても、バタバタと集団で人を倒れさすような悪霊が憑いている人物だったら、拘束しようとしても警官も倒れちゃいそうだね。
とは言え、私らだけでは物理的に成人男性を押さえつけるのは無理だよ?
たとえ女性だとしても、アメリカの大柄な女性だったら私達二人がかりでも抑えるのは無理じゃなあいかな。
それに。
「ちなみに、その悪魔憑きといわれた人物が何処にいるのか、分かっているんですか?
警官が拘束する間だけ霊障を抑えるぐらいの事はできると思いますが、別に態々東京から我々が行かなくても、京都から誰かが行って解決に貢献できると思いますが」
碧が指摘する。
だよねぇ。
大阪の万博会場となれば、京都からそれなりに近そう。




