親族は選べないからねぇ
と言う事で、チャットアプリで碧に連絡をとり、彼女の名前で退魔協会に白木さんを紹介する旨のOKを貰い、退魔協会の電話番号を伝えた後はのんびりとスイーツを楽しんだ。
まあ、私はスイーツを楽しみ、白木さんはちょっと溜まったストレスを発散させた感じかな?
「両親や伯父夫婦は父の死を覚悟していたし、遺産相続も別に全部祖母に継がせちゃって老後のケアをしっかり金でカバーして欲しいと思っているから、相続はそれ程揉めないと思うのよ。
両親も伯父達もちゃんと働いて企業年金とかもあるから、自分の老後は大丈夫そうだし、下手にここで金を寄越せと主張して、祖母が要介護になった時に本人が納得する施設に入る資金が無いからって家族で介護しなきゃなんてなる方が困るって以前から兄妹だけで話している時には言っていたもの。
だけど逝去の知らせをすると他の知り合いや遠縁の親族がぐちゃぐちゃ煩くって……」
白木さんが疲れたように言った。
「金を寄越せって言ってくるの?
法的に有効な借金の証書でも無い限り、遺産相続で権利を主張できるのは配偶者と子供だけでしょ?
何だったら弁護士でも雇って煩いのはシャットアウトしたら?」
誰かが死ぬと『実はお金を貸していたんだ』とか『出資を約束されていたんだけど』とか言い出す人って意外と多いとネットで見た気はする。
そんな言い掛かりを信じてお金を払う人がいるの?!とその時は思ったのだが、良心的かつ精神的にも肉体的にも疲れている高齢者だったらそう言う時に騙されるケースもあるのかも?
だが安易に証書のない借金を信じて金を払ったりしたら……カモ認定されて裏社会のリストに載り、次から次へとリフォームやら羽布団やらの売り込みが来ることになりそうだ。
戸建てに高齢者が住むのって倒れた時に発見してもらえないって言うのも危険だけど、そう言う押し売りが来やすいって言うリスクもあるよねぇ。
普通のマンションだったら少なくとも屋根のリフォーム詐欺は来なくなるだろうし、押し売りに対してノーと言うのも集合住宅のインターフォンだったらやりやすいだろう。
高齢者用施設に入っていれば、更に確実にそう言うのから隔離されるし。やはり高齢者は一人になったら思い出があろうと戸建てにそのまま住むのは危険そうだ。
まあ、高齢者用施設に入るとあっという間にボケそうな危険性もあるけど。
マジで高齢者ってどの時期まで施設に入らずにいても大丈夫かの判断が難しいよねぇ。
それはさておき。
「金をくれ関係はそれ程ないかなぁ。
それよりも、ここ数日母がキリキリしているのは、善意なお節介焼きな知り合いと母の従姉妹。花や香典は要らないって言っているのに善意なお節介焼きから父の死を知らされて花とかを送ってくる人が多くて家中花だらけになっちゃってお香典返しが〜ってキリキリしてる。しかも猫を飼っているから百合が入っているのは即隔離しなきゃだし。
その上に母の従姉妹がねぇ。
今回って私の母方の祖父が亡くなった訳だから、母方の祖母の姪にあたる母の従姉妹は亡くなった祖父とは血は繋がってないの。
と言うか、その従姉妹とやらとは私が個人的に会った記憶も無いから親族の集まりに来てないみたいだし、ここ15年はその人が祖父に会ってない可能性が高いと思うわ」
大きく溜息を吐き。モンブランにブスっとフォークを刺しながら白木さんが言った。
親の従姉妹ねぇ。
親の兄妹なら伯父叔母って事でそれなりに子供の時なんかは会うかもだけど、親世代の従姉妹って田舎の大家族的な一族じゃない限りあまり縁は無さそう。
「そのお母さんの従姉妹が何をしたの?」
流石に血の繋がりが無いのに金を寄越せは無いと思うし、愛人とか隠し子だったとか言う騒動もないだろう。
「なんかその従姉妹って結婚する話があったのに本人が『踏み切れないから』とか言って中止したせいで独身で子がなく、親は早い段階で離婚して一緒に暮らしていた母親は数年前に亡くなり、父親とは子供の頃から疎遠らしいの。
しかも母親が亡くなった時の遺産相続で弟と揉めたからそっちともちょっと気不味いらしくて、今になって寂しいし自分の老後が心配らしいのよ。
で、時々思い出したように母に会おうって連絡してきて、ランチとかに行くんだけどその度に母はぐったり疲れて帰って来てたのよねぇ」
白木さんがぐいっとモンブランを突き崩して大きく一口頬張った。
「老後が心配って気持ちは分からないではないけど、滅多に会わない従姉妹に縋るよりは一人様高齢者を助ける良心的そうなNPO法人ででもボランティアを始めて、人の輪を広げたら良いんじゃ無い?」
じゃなきゃ弟と仲直りするとか。
まあ、相続で争った家族って表面上は仲直りしても二度と元通りにならないとも聞くから難しいかもだけど。
「そんな前向きに動ける人だったら母に会うたびに自分のことを卑下しまくりつつ露骨に母を持ち上げながら妬ましさを滲ませてげんなりさせないわよ。
まあ、それはさておき。
認知症が悪化してからは祖父も子供とか孫以外とは会わなくなっていたし、祖母も介護とかお見舞いとかで疲れていたから、静かでこぢんまりとした家族葬を希望してその通りにやったの。
なのにその従姉妹ったら、また食事に行こうとメールが来たから母が祖父の逝去のことを知らせて断ったら、『もっと早く知らせて欲しかった』ってぐちぐち言ったらしいの。
かなり疎遠な、故人の血族ですらない遠縁の親戚なんて通知の対象ですらなかったでしょうに。
しかも、『穏やかに亡くなられましたか?』とまで聞いてきたんだって。いやそれって誤嚥性肺炎で呼吸もできずに苦しみ抜いて死んでいたら『いえ、苦しんで死にました』って答えて良いの??って感じで。普通そう言うことを家族を亡くしたばかりの遺族に聞く??」
白木さんが呆れたように言った。
「確かに?
誰かが亡くなった時って穏やかに眠るように死ねたら一番だけど、どんな風に亡くなったかって聞くのは中々リスキーだよね」
あまりそう言うことって考えてこなかったけど。
でも、死に様を聞く前に、どんな答えが返って来るかを想像して言葉や質問を吟味するのは重要だよね。
「で、その挙句、いかに自分が家族との関係が疎遠になっていて老後が危ういかとか、老いた父親の言動についての愚痴とかを延々とメールで何度も母に書いてきて。
普通、父親を亡くした遺族にお悔やみの形を借りて自分の寂しさと不安をぶち撒きまくる?!」
白木さんが憤懣やる方ないと言う感じに聞いてきた。
ストレスが溜まってるっぽいね〜。
これはどうやら、母親から色々と愚痴られたかな?
「面倒な親族って困るよねぇ」
友人なら切り捨てられるけど、親族は微妙にそれをしにくいからねぇ。
まあでも、疎遠な従姉妹程度だったらうっかりメールの返事を送り忘れ、着信にも気付かないフリをするのもありじゃない?