さすが!
では早速、羽根付き蜥蜴クンが突っ込んできた場所へ行こうと横の方から脇道へ進み、茂みの裏に出た。車からそんなに離れていないから、誰かが近付いたら分かるだろう。
駐車場から見える茂みまではそれなりに手入れがされているが、その裏は案外と手抜きな空き地空間がちょっとあり、3メートル弱で敷地を囲った塀に行き当たっていた。
「どうやらあの羽根付き蜥蜴クンは塀にぶち当たって突き抜けたようね」
碧がしゃがみ込んで塀の穴を観察しながら言った。
「だね。
ぶち抜いたところで大体勢いが消えて、茂みの下まで這って隠れたのかな?
ここから向こう側に出られるかなぁ」
勢いがあったせいか、塀は蜥蜴クンを真っ直ぐにした時の幅よりは大きく壊れているようだが、私らが地面を這って潜り抜けられるかはかなり怪しい感じだ。
イマイチ這った場合にどの位のスペースが無いと突っ掛かるか、知らないんだよね〜。
まだ細い隙間を横向きに歩いて通るとかって言うならそれなりに無理かどうかの判断が出来るんだけど、穴を這って潜り抜けるって言うのはそれこそ小学生低学年を過ぎた頃ぐらいからやってない。
「ちょっと厳しいし、何よりも地面を這って進んだら手足も服も汚れちゃうわよ。
昨日の晩にちょっと雨が降ったみたいだから、地面の上を這ったら多分泥だらけになる」
碧が嫌そうに言った。
確かに地面に手をついたら湿っている。
「うん、この上を這うのは無謀だね」
取り敢えず、塀の穴周辺を調べる。
ここに蜥蜴クンの皮とか鱗とか、落ちてないかなぁ。
ある意味、将来はドラゴンなのだ。
怪我を治すために魔力を使ったせいで魔力枯渇で死に掛けていたが、塀をぶち抜いた時点ではまだ治療に取り掛かっていなかったんだから、素材に魔力が籠っていてもおかしくは無い。
肉眼では特に露骨に皮とか鱗だと思われるものは見当たらなかったので魔力視で再度確認。
「お?
これかな?」
ちょっと魔力が籠った何かの欠片を発見。
千切れたプラスチックの破片かと思ったら、もしかしたらこれが蜥蜴クンの鱗??
「考えてみたら、蜥蜴って鱗があるんだっけ?」
碧が覗き込みながらちょっと首を傾げた。
「ドラゴンは確実に鱗があるから、ドラゴンの幼体にだってあってもおかしく無いんじゃない?
まあ、単なるプラスチックのゴミと言われても納得な形状だけど」
これって魔力を含有してなかったら絶対に気付かなかった。
魔力の量も白龍さまの聖域に適当に転がっている石とか枝と大して差がないレベルだ。
どうやら蜥蜴クンはこの世界に来た時点でもあまり魔力が無かったのかな?
「あまりドラゴンの落とし物としては凄くないねぇ」
碧が残念そうに言った。
「1000年後にドラゴンなるって話だから、やっぱまだまだ成長と修行が必要みたいだね」
考えてみたら白龍さまに魔力を貰った後でも大したことは無かった。てっきり白龍さまが甘やかさないようにと死なないギリギリな量だけしか魔力をあげなかったんだと思っていたが、もしかしたらあれが現時点での健康的な適量だったのかな?
「クルミ、塀の向こう側にも何か魔力の籠った落とし物が無いか、見てきてくれる?
あなたが持ち運べるサイズだったら回収して来て」
泥まみれになって穴を潜り抜ける気も失せたので、クルミに魔力を与えながら頼んだ。
取り敢えずハンカチを敷いてそこに膝をのせ、穴の向こうへ覗き込んでみたがちょっと地面が数メートルほど荒れているっぽく見える以外は何も無い。
あの荒れたラインが蜥蜴が境界門から出た後の移動ルートかな?
ちょっとお邪魔してクルミの視点を共有すると、ずざ〜って感じの跡は塀から2メートルぐらいのところで突然消えている。
あそこで消えたと言うよりも、ずざ〜跡の始まるところが境界門が開いていた場所なんだろうな。
クルミが重点的にそこら辺を調べたが、特に何も落ちてないようだ。
もしかして、蜥蜴クンは一度塀をぶち抜いてから境界門のところまで戻って取れた体の一部とか一緒にきた虫とかを食べたのかね?
「何かある?」
あまり期待せずに、クルミに尋ねる。
『魔力が籠ったのはさっき拾った欠片みたいのが2、3個ある程度にゃ』
ふわふわ〜とクルミが戻って来た。
ぬいぐるみの足に一枚鱗(推定)が張り付いている。
2、3枚あったんだったら残りは持ち運べなかったのかな?
タブレットのペンを動かせるんだから、鱗の3枚ぐらい持って来れそうなもんだけど、バラバラだとダメなのかな?
「残念〜。
この程度じゃあ魔道具の動力源に使ってもあまり大した効果は得られなそうだね」
碧がため息を吐きながら言った。
「だねぇ。
これだったら聖域の石の方がもっと魔力が籠ってるのもあるわ。
まあ、小さい割には魔力が含まれていると言えなくも無いけど、小さすぎて足りないね」
蜥蜴クンの皮をベリっと大きく剥いてもらえないか、交渉すべきだったかも。
蜥蜴とかの脱皮って頑張ればちょっと早めに剥けたりしないのかな?
もう帰っちゃった後だから手遅れだけど。
……どちらにせよ、考えてみたら蜥蜴の皮をバッグや服のポケットに入れるのはちょっと嫌か。
『幻想界から何か取ってきても良いぞ?』
白龍さまが碧に提案した。
「いえ、気軽に白龍さまに国宝級な凄い物を持って来てもらえるなんて話が広まったら色々と面倒な事になりますし、結構です。
別に現時点で不便している訳でもないですしね。
ちょっとドラゴンの落とし物って事でロマンを夢見ただけです」
碧が手を横に振って笑いながら断った。
流石碧。
それこそ国宝級な物を里帰りのお饅頭土産の感覚で貰えるのに、あっさり断る精神力は凄い。
まあ、だからこそ白龍さまが愛し子として可愛がるんだろうね。
見習わなきゃ。
ちょっと山もオチも無しな感じですが、これでこの話を終わりにします。
明日はお休みしますが、明後日からまたよろしくお願いします。