早すぎる
「誰かヨモギ集めを手伝ってくれない〜?」
鹿の霊(雄だったのでヒコと名付けた)にタヌコと一緒に草集めを頼んだあと、ヨモギを集めようとそこら辺で遊んでいる霊達に声を掛ける。
『ヨモギ〜?』
『タンポポの方が面白いよ〜?』
『鬼ごっこしようよ〜』
色々と気儘な声が聞こえてくる。
しっかり契約していない霊だから、やる気がなかったら遊びにいっちゃうからなぁ。
クルミは契約にきっちり縛られているけど、飽きっぽくって気まぐれな猫ってちみちみと作業をするのに向いてないんだよねぇ。
牧畜犬とかだったら最適かもだけど、日本に牧畜犬ってあまり居なさそう。
まだ猟犬の方が昔の狩人が飼っていた犬の霊がいそうだ。
高度成長期後の犬じゃあ甘やかされてて猫並みに労働には向かなそうだけど。
どうしようかと悩んでいたら、何やら偉そうに鴉(多分)の霊が出てきた。
『しょうがない、我が手伝ってやろう』
暇なのかな?
鴉って賢いって言うし、知的刺激に飢えているのかも。
「ありがと。こっちの袋にヨモギを拾って入れて頂戴。
宜しくね」
鴉の霊に魔力をあげて小さなミニ熊手を躯体として一時的な使い魔契約を結び、袋を差し出して頼む。
自分一人で拾うとなると腰にクルからねぇ。
かと言って、タロウやタヌコ達は大雑把にガバッと拾って袋に入れているからあの中から抜き取るのは面倒だし。
まあ、どうせ最終的には全部家に持って帰るんだから、実際に使う際に選り分けるんでもいいけど。
バサバサ!
音がしたので振り向いたら、コン吉が憑いた塵取りが既に一杯になった段ボールの上に草をひっくり返していて、入りきらなかった分が外に落ちている。
「一杯になったら声を掛けて〜!」
慌ててポリ袋を手に駆け寄り、中に入っていた袋を取り出して新しいのを入れる。
そばに落ちていた草を軍手をした手でかき集めて中に放り込んだ。
真夏の日中に軍手をすると暑いし、それを言うなら長袖長ズボンとかなり暑い格好なのだが、草原に行くとなるとどんな虫に刺されるか分からないからねぇ。
ある意味軽い熱中症で倒れる方が、変な虫にキスされるよりはマシだ。
軍手に至っては、必須だ。草って時折スッパリ肌を切ることがあるから。
切るに任せて後で碧に治してもらうと言う選択肢もありだけど、変な虫を掴んじゃったら嫌だし。
箱から溢れた草を拾い終わったので、急いで取り出した一杯になった袋を崖っぽい壁にある小部屋へ仕舞いに行く。
少しここで放置したら更に水気が飛ぶでしょう。
聖域に置いておけば魔力は抜けないし。
サウナになっているバンの中に詰め込むよりマシな筈。
小部屋から出て来たら、またもや箱が一杯になっていた。
うわぁ、作業が追いつかない!
今日はヨモギ拾いを主にやる予定だったんだけど、そんな暇はないわ。
新しく契約した鳥クンに期待しないとだね。
何度も繰り返し小部屋の間を行き来していたら、碧にもすれ違った。
「なんかこう、めっちゃ忙しくない?
追い立てられているような気分だわ」
一瞬立ち止まって汗びしょな額を袖で拭きながら碧に愚痴る。
「まあ、皆が頑張ってくれているんだから。
感謝しましょう」
碧がにっこり笑いながら言った。
うっすら汗をかいているけど、私みたいにダラダラじゃないし、息も上がってないねぇ。
やっぱ白魔術師の裏技的な感じなのかな?
私だって体が疲れを認識しないように力を使えばある程度の無理は効くんだけど、それをやると倒れる可能性はぐっと上がっちゃうからなぁ。
諦めて仕事が終わった後の美帆さんとこの温泉を楽しみに頑張ろう。
早朝に散歩に出た際にコーヒー牛乳もコンビニで買っておいたんだ〜。
冷蔵庫で冷やしてあるから、お風呂の後にぐいっと一気に飲もう。
こう言う時ってビールが美味しいらしいけど、私はお酒ってあまり好きじゃないんだよねぇ。
明日は苺ミルクにしようかな。
そう言う定番を買っておいたらどうでしょうって今度美帆さんに提案してみようかな。
せめて小さな冷蔵庫を置いておいて、持ち込んだドリンクを冷やせるようにするとか。
まあ、ウチらは美帆さんたちの家にある冷蔵庫を使わせて貰えるけど。
さ、あと一息だ。
今日1日でバンで運べる限界分ぐらい集まりそうだから、明日はのんびり過ごそっと。