省エネは重要
藤山家の皆さんは相変わらず源之助にメロメロで、昨晩は一生懸命おもちゃを振って媚を売っていた。
猫を直接撫でようとすると嫌がられる可能性が高いと言うのは分かっているらしく、オモチャを振るという手段でアピールしようと決めたらしい。
かなり人懐っこいとは言え、既に大人になった源之助は案外と早く遊びに飽きる様になってきたのだが、敵(?)もさるもの。
色んな種類のおもちゃを準備してあり、源之助が一つのオモチャに飽きたら別のを取り出してくると言う手法で昨日はほぼ一晩中源之助と家族で遊んでいた。
私は普段から源之助と遊ぶ機会があるので遠慮して、代わりに家にあった古文書で一部オンラインにて現代語訳したと言う資料を見ていた。
オンラインで全国の古文書好きな素人(専門家も含まれるのかも)の協力の元に現代語訳するプロジェクトらしい。流石に退魔の術に関する具体的な記述がある文書は避けて、もっと伝説とか近所での争いの調停なんかに関する文書を訳していた。
悪霊の除霊なんかでちょっと垣間見る事もある情報だが、関係者が悪霊化してないだけあって比較的平和な話が多く、中々面白いものも多かった。
古い伝承だとでも言って、いつか術に関する古文書も訳して貰ったら良いのになぁ。
まあ、碧パパはそれなりに古文書を読めるらしいから、切実に必要って訳ではないんだろうが。でも翔君がどれだけ読めるか不明だし、将来の世代が読めなくても知識が失われない様に、碧パパが訳の正確性を確認できる今のうちにやっておく方が無難だよね?!
そうすれば忙しい碧パパを煩わせることなく私も読めるし。
興味はあるものの、流石に自分で古文書解読の勉強をする気はない。
まあ、碧がプロジェクトに参加してガンガン古文書を翻訳させていくのもありだけど。
大学を卒業したからと言って連日退魔の仕事をやらなきゃいけない訳でもないからねぇ。
もっとも、碧がプロジェクトで忙しいからと言う事で退魔協会の仕事の数を抑えるなら、暇つぶしに私が何をすべきか考えておく必要があるかもだけど。
それはさておき。
翌朝になって暑くなる前にひと作業しようと聖域に来たら、入り口から奥まで、2メートル幅ぐらいでスパーンと草が伐られていた。
「あれ、伐っておいて下さったんですか」
これって白龍さまのウィンドカッターっぽい手助けだよね?
「昨日のうちに伐ってもらったら少しは乾いて嵩が減るからさっさと箱詰め出来るかな〜と思ってね。
そう言えば、お助け要員の霊達はいるの?」
碧が私の言葉に頷きながら聞いてきた。
「熊と狐はそこで遊んでいるけど、鳥と狸は居ないから探してみるね。
その間に段ボール箱にポリ袋をセットして出しておいてくれる?」
塵取りと熊手は何組も持って来てある。久しぶりに遊びたいらしく、既にタロウとコン吉が一組動かそうと近寄っている。
『お久しぶり〜。
今日もこの伐ってある草を集めて箱に広げてある袋に入れて頂戴〜。
ちなみに、ソラとタヌコはそばにいるか、知ってる?』
タロウとコン吉に魔力を与えながら尋ねる。
『ソラは春先にどっかへ飛んで行っちゃったよ。
タヌコはあっちの方で遊んでるかも〜』
タロウが熊手に取り憑いてブレークダンスもどきな動きを披露しながら教えてくれた。
おやま。
季節ごとに移動するタイプの鳥の霊だったのかな?
近場の鳥の霊かと思っていたんだけど、違ったのか。
まあ近場の鳥だってそれなりに気紛れだから遠出しても不思議はないが。
『タヌコ〜。
ちょっとお手伝いしない〜?
あと、もう一体誰か、魔力を報酬にちょっと塵取りを使って手伝わない?』
周囲に念で話し掛ける。
『良いよ〜』
『やる!』
『それって楽しい?』
何体かの霊がふわふわと寄ってきた。
タヌコらしき狸の霊も来たので、まずはタヌコに熊手と魔力を渡しておく。
もう一体に関しては、遠くへ移動しなそうな鹿の霊に頼んだ。
鹿だったら鳥と違って季節ごとに移動したりしないでしょう。
熊の霊を怖がるかもだが。
『そんじゃあ伐られた草の収穫、お願いね〜』
あとはヨモギだけを集める霊も欲しいな。
自分でやると腰が痛くなりそうだし、やっぱここは省エネ狙いでいかないと。