え、そうだったの?!
「先に羽根付き蜥蜴クンを聖域に連れて行こう」
諏訪市に到着したが、碧が実家の前を通り過ぎて聖域の方へ続く奥の横道へと車を進めるように指示した。
『別に車の中で待たせておいても大丈夫じゃぞ?
こやつはこの程度の気温で害されるほど《《やわ》》ではないし』
白龍さまが口を挟んだ。
今にも死にそうな程に弱っていたのは、魔素が足りなかったからなのか。
もしかしたら怪我をしていなくて魔素を使い切っちゃう前だったら、自力でこの聖域か他の境界門を探して帰れるぐらい強いのかな、この蜥蜴クン?
まあ、今時残っている境界門は偶発的に発生した野良の門以外だとどれも魔素の拡散を減らすために結界で覆われているらしいから、見つけにくそうだけど。
「羽根がある蜥蜴なんてものを車に乗せているのを、下手に近所の人に見られたりしたら面倒だから。
チャチャっと送り出しちゃおう。
クーラーをつけっぱなしにしておきたいから、凛は車で待っていてくれる?」
碧がシートベルトを外しながら言った。
3時半って言うと冬なら日が翳り始める時間だが、今だったらまだまだガンガン暑い直射日光が地面をジリジリと焼いている時間だからね。
クーラーを切るのは危険だろう。
かと言ってエンジンが掛かった車の中に鍵を置いたまま二人とも車が見えない範囲まで離れてレンタカーを盗まれたら困るから、私は残った方がいいよね。
レンタカーが盗まれても車はレンタカーの会社がGPSで見つけられるだろうし、もしかしたらリモートでエンジンを切ることすら可能かも。
だが。
「源之助が車と一緒に誘拐されちゃあ困るからね。
待ってま〜す」
ある意味、証拠とも言える動画だったら今ならフェイクだって言い切って素知らぬふりをするのも可能だが、直に近所の氏子さんに幻獣を目撃されちゃあ面倒だよね。
羽根が付いているのも問題だが、長さ30センチ以上もあるような蜥蜴自体だって海外ならまだしも日本には居ない筈だろうし。
羽根に気付かれなかった場合でも海外の変な動物を無許可で持ち込んだのではと通報されては困るし、羽根を見られたら変な飾りをペットに無理やり付けた、虐待だ!と言われたらそれも問題だ。
……マジもんの羽根付き蜥蜴だとバレた場合はどうなるんだろ?
考えてみたら、境界門を通ってからそれ程時間が経過していなければ羽根付き蜥蜴なり、ユニコーンなり、ゴブリンなり、存在できなくは無い。
長期的には魔素枯渇で死んじゃうだろうけど、死ぬまでの間に見せ物として見せて回ったりオークションに出して売ろうとする人間って過去にいなかったのかな?
ユニコーンの角に治癒効果があるって言う伝説だって、過去にうっかり境界門を通って来てしまった不幸なユニコーンから角を奪って発見した効果なんだろうし。
まあ、ここで氏子さんに見られた場合は、白龍さまの眷属ですって言ったら口を噤んでくれるかも?
近所のガキとかに見られたら面倒な事になるだろうけど。
そんな事を考えながら猫ハウスで寝ている源之助の肉球をそっとぷにぷにしていたら、碧が戻って来た。
「無事帰還〜。
死ぬ前に私らに出会えて、白龍さまの境界門で生き残れる世界に戻れた彼はめっちゃラッキーな蜥蜴だったね〜。
恩返しに来る事はないだろうけど。
そう言えば、あの羽根付き蜥蜴クンって白龍さまの遠い親戚的な存在なんですか?」
碧が聞いた。
『あれはあと1000年ぐらいしたらドラゴンになる個体じゃの。
龍ではないから親戚とは言わんが、まあ近所の知り合いの子のようなものかの』
白龍さまが言った。
「ドラゴン!!
うわぁ、怪我をして剥がれちゃった皮とか鱗があのサービスエリアのそばに落ちてないですかね?!」
大人のドラゴンの素材であれば前世なら家……は無理でもかなりいい家具ぐらいは買えたなぁ。
ある意味、子ドラゴンの素材なんて更にレアだったから、ちゃんと子ドラゴンのものと証明できたらそれこそ家を買えるぐらいの金になったかも?
まあ、現世じゃあドラゴンの実在そのものを証明できないから、高値で売るのは無理だけどさ。
「帰りにちょっと探してみようか。
しまったなぁ、ドラゴンなら写真ぐらい撮っておけば良かった」
碧が少し残念そうに言った。
「だねぇ」
マジで惜しい事をした。