多分、大丈夫だよね?
クルミが羽根付き蜥蜴とやらの方へ戻って行ったが、こちらまで来る体力がもうないのか、私らを警戒しているのか、中々出てこない。
しょうがないから低木の間を押し入るしかないかなぁと思い始めたら、突然ふいっと白龍さまがクルミが行った方へ飛んでいき、尻尾まで含めて30センチ強の何かを口に咥えて戻ってきた。
この飛んでいる蛇(龍だけど)がだらんとした蜥蜴を咥えている現象って普通の人に見えているのかなぁ?
白龍さまは通常は私達の会話に参加しても碧と私以外には見えないようにしているようだが、今回も自分と羽根付き蜥蜴に同じことをしているのだろうか。
まあ、誰かが騒いで寄って来たら記憶を消させてもらおう。
最近だったら携帯で録画されてもディープフェイクか何かだと思われる可能性が高そうだから、極端に神経質にならなくても大丈夫だろうし。
『ほれ。
魔力をやっただろう。もう少ししゃんとせんか』
ポテっと羽根付き蜥蜴をレンタカーのボンネットの上に落としながら白龍さまが羽根付き蜥蜴に言った。
日陰だから良いけど、真夏に日差しで熱せられていたボンネットの上に乗ったら火傷しそう。
炎華の熱避けってボンネットにも効いているのかな?
次にサービスエリアに入る時にでも、触って確認してみよう。
「こんにちは。
君が通って来た境界門がどこにあるのか、教えてくれる?」
碧が羽根付き蜥蜴に声を掛ける。
『うっかり早飛びの競争をしている時に勢いよく突っ込んだせいか、僕が通り過ぎたら崩壊して閉まっちゃったんだよね。
ゴリゴリ脇を擦ったせいでかなり僕も怪我をしちゃったし。
頑張って傷を治したら魔素不足で死に掛けた』
羽根付き蜥蜴が念話で答えた。
おや? かなり格が高い幻獣なのかな?
何を思っているか漠然と感じられるとか、死んだ後に霊から記憶を読むことで何が起きたか分かったことはあったが、白龍さまと炎華以外でこんなに普通に念話で人外な存在とコミュニケーションが取れたのは初めてだ。
まあ、現実的な話としてまともな状態の幻獣に殆ど会った事がないんだけどね。
こんなに小さいのにスピードを出した状態でゴリゴリ体をぶつけながら通り過ぎただけで境界門が閉じちゃうなんて、実はサイズに見合わぬ格の持ち主だったりするのかな?
知らないタイプの幻獣だけど。
まあ、前世では人間を襲う魔物か、脅威度は低めさけど役に立つとか美しいと言った理由で王侯貴族に好まれた幻獣しか目にしなかったからね。
人間に無関心な幻獣は知らないものの方が多かったのだろう。
「境界門が閉まったのだったら退魔協会に知らせる必要はなさそうね。
あとは……白龍さまの聖域にある境界門で幻想界に行けば大丈夫ですかね?」
境界門が無くなったのはラッキーだった。
どこにあるか知れず、どんな魔物や異世界の虫とかが通って来るか分からない境界門を手探りで探すのは遠慮したいからね。
しかも、見つけたら退魔協会の連絡して、誰かが来るまでここで待たなきゃならないだろうし。
危うく3日しかない聖域での予定が大幅に狂うところだった。
『まあ、大丈夫じゃろ。
こちらに来る前に住んでいた地域とは違う場所に出るかも知れんが、この世界に残るよりはマシな筈』
白龍さまが頷いた。
『あ、近くにもう一つ門があるの?
ラッキ〜。
ありがとうございます』
羽根付き蜥蜴が白龍さまにペコンとお辞儀した。
なんかかなり気軽な対応だね。
炎華でももっと遜ってる感じなのに。
単にこの羽根付き蜥蜴が幼体で世間(?)知らずなだけなのか、それともこれが龍の幼体か何かで白龍さまに親近感を抱くような存在なのか。
どっちなんだろ?
『うむ。
お主を見つけた我が愛し子に感謝せい』
白龍さまが重々しく頷きながら言った。
小さな蛇っぽい龍の体で重々しく言われてもあまり威厳は無いんだけどね。
『愛し子さま、ありがと〜』
羽根付き蜥蜴が碧にお礼を言う。
「どう致しまして。
実際に探し出したのはクルミちゃんに命じた凛だしね」
碧がにっこり笑いながら応じる。
『リンも、ありがと〜』
なんか段々おざなりになってきたが、私にもお礼がきた。
「どう致しまして。
それはさておき、こっちに出て来た時に他に魔物や虫みたいなあっちの生き物は来ていなかった?」
変なのが出ていて被害を及ぼしたら面倒な事になるかもだからね。
『虫は居たけど食べちゃった。
他は見掛けなかったね』
羽根付き蜥蜴が答えた。
虫が出て来てたんだ……。
白龍さまと気軽に話すような蜥蜴が餌にするような虫ってちょっと心配なんだけど、魔力枯渇になりかけた羽根付き蜥蜴にうまい具合に全部食べられたと期待しておこう。