おお〜、便利!
いつものバンをレンタルし、亜空間収納に段ボールの猫ハウスとトイレと自分の着替え諸々を押し込み、源之助をキャリーバッグに入れて下へ降りる。
都内ではやはり運転が慣れている碧に任せた方が安心なんだよね。
私もそれなりに退魔協会の依頼でレンタカーする際に運転するようにして大分と慣れてきたが、バンは大きいから都心だと路駐されていたり自転車がフラフラと走っていたりした場合の車間距離の判断に自信がないのだ。
一階に降りたすぐ先に碧がバンを停めてくれていたのでさっと後部座席に乗り、扉を閉めてから源之助を解放。そして猫ハウスやトイレ、水を出して固定した。
ちなみに今回は源之助にはハーネス型のリードを装着してもらい、リードを奥の扉の上にあるグリップ(って言うんだっけ?)に結びつけておく。
長いリードなので車の中はほぼ自由に動けるが、外へは飛び出せなくなる。今までも特に車から飛び出したそうな素振りは見せてこなかったけど、もしもの事があったら悔やんでも悔やみきれないからね。
ハーネスに追加して嵌めているいつものGPSトラッカー付き首輪にはピンバッジ型躯体のクルミも固定してあるから、何が起きても源之助が行方不明になることは無いはず。
「ハーネスがちょっと邪魔だと思うけど、我慢してね〜」
碧が前の座席から身を乗り出し、おやつを取り出して源之助に差し出して撫でながら言い聞かせる。
さっきハーネスをつけた時にもおやつでご機嫌を取ったから、ちょっとあげすぎな気もするよ?
まあ、碧がいれば多少の重量オーバーも健康被害が出る前になんとでもなるんだろうけど。
今晩は少し食事を減らしましょう……と言いたいところだけど、多分碧ママとパパもおやつをあげたがるだろうなぁ。
まあ、皆が一生懸命源之助と遊べば運動することでカロリー消費が出来て大丈夫でしょう。
「さて、準備完了かな?」
おやつをあげ終わり、ウェットティッシュで手を拭いた碧が声を掛けてくる。
慣れたルートなのでナビゲーターは不要だしリードが何かに絡まったら困るので、今回は常にどちらかが後ろで源之助と一緒に乗ることにしたんだよね。
「大丈夫〜。
高速でサービスエリアに入ったら交代しよう」
「ん」
碧が頷き、サングラスを掛けようとした……ところで、突然炎華が現れた。
『じゃあ、ちょっと熱避けの術を掛けますね〜。
帰りは三日後でしたっけ? 少し弱くなっているかもですが、多分大丈夫でしょう。
全然ダメだったら白龍さま経由で声を掛けて下さい〜』
炎華が言い、何かの術を車に掛けた。
そっか、付与はダメでも術そのものを掛けられるのかぁ。
鉄の塊である車に術が定着するとは思わなかったよ。
「え?!
そんなこと、出来たんだ??」
碧がびっくりして炎華に尋ねる。
『まあ、熱や炎は私の眷属みたいなものですからね〜。
寄るなと命じるのはそれ程難しく無い……筈?』
ちょっと自信無さげに炎華が言った。
そうだよねぇ、魔物の毛皮とか、丈夫なトレントの木を使った家とか、魔素との相性がいい岩を使った建築物なんかへ掛けた術ってそれなりに保つらしいけど、クルミの躯体選びで苦労したことを考えると、車はあまり術を掛ける対象には向いて無さそう。
でも。
流石、実は巨大な幻獣。
それなりに車が涼しくなった。
何よりも、窓から刺さってきていた直射日光のジリジリとした熱が一気に無くなった感じだ。
すげ〜。
「うわ、大分と快適になった!
ありがとうね、炎華!」
碧がお礼を言う。
素晴らしいね、これは。
幻獣って魔法も使えるんだって事を忘れてたわ。
幻獣が使う力は単に火を吐いたり鎌鼬を飛ばしたりって感じの四大元素をそのまま攻撃に使う形が多いが、巣の周りを快適にしたり、人間と仲良くなった時なんかに魔法を使ってくれる事もあるって教わったんだった。
「凄い!
ちなみに、魔法だったら魔力の調整がしやすくなったり?
これで日本の周りの海を少し冷やして貰えたら、気候変動もちょっとは抑えられそうだけど」
思わず炎華に尋ねる。
海面温度が暑すぎるせいで線上降水帯が発生したり、夜になっても気温が下がらなかったりするんだろうから、がっつり広範囲の海水の温度を2度か3度ぐらい、下げて貰えないかなぁ。
『トウキョウワン?とか言う港湾地域ぐらいを冷ますのは可能ですが、もっと広範囲となると氷龍ぐらいの力が必要ですねぇ。
でも、この世界でやると魔力が尽きて回復に幻想界へ帰らなきゃいけなくなるのでお願いするのも難しいでしょう』
炎華が言った。
ダメかぁ。
でも、東京湾を冷やせたら、東京都のヒートアイランド現象だけでもなんとかならないかなぁ?




