ちょっと固すぎだよ〜
「炎華ってこう、熱を吸収する効果を何か物に付与できない?」
二人とも月曜日は授業を取っていないので、土曜〜月曜で諏訪に行こうと車のレンタルを手配していたら、碧が窓際でまったり昼寝している炎華に声を掛けていた。
付与かぁ。
前世では魔術師が作る魔道具は魔法陣を金属か魔物由来の素材に刻み込み、それを魔石で動力を得て動かすって言うのが多かった。
錬金術師なら魔道具だけでなく、魔法陣とは理の違った効果の付与っぽい事も出来ていたが、魔術師には真似が出来なかったから『そう言えばこんな便利な道具があったなぁ』程度にしか知らない。
錬金術師の付与は一度効果が切れたらそれで終わりなので、故障さえしなければ魔石を充填すればずっと使い続けられる魔道具の方が同じ効果だったら人気だったし。
錬金術師じゃないと作れない物もあったけど。
それこそ、冷気を発するとか熱を吸収する魔法陣を作ってハンディエアコンっぽい感じに便利な温度調整の道具は魔道具だったが、あれは魔石が必要だったし魔力の流れがあった。なので魔力に敏感なタイプの魔物から隠れなければならないような事が多い探索者なんかには錬金術師による冷熱耐性の付与の方が人気だと聞いた気がする。
現世では私も碧も熱を吸収とか遮断する魔法陣を作れないから、炎華がそれに近い効果を付与できるなら、ぜひ欲しい。
夏の車って方向次第では前部車席に座っていると直射日光がモロにガラスを通して注いでくるのでかなり辛いんだよねぇ。
クーラーをガンガン効かせればマシだが、クーラーの風が当たるところはちょっと肌寒く、直射日光にさらされている場所は暑すぎるしで夏はキツい。
何かに効果を付与できるなら、それこそサランラップに遮熱効果か吸熱効果を付与してもらって車のフロントガラスに貼り付けたい。
レンタカーを返す前にひっぺがせばオッケーでしょう。
『私の羽根でも使えば熱をゆっくり放射して温かくするのはそれほど難しくないんですけどね〜。
熱を吸収するとなると吸い取った熱を放出しないと発火しちゃうかも?』
炎華が首を傾げながら言った。
燃えちゃう?
「じゃあこう、魔力を吸収しやすい石か宝石を追加でつけて、それに吸収した熱を魔力にして蓄えてもらうのは出来ないかな?
それで魔石モドキが出来上がったらそれはそれで便利だし」
思わず炎華に身を乗り出して提案する。
「そんな都合が良い石があれば良いですよ〜」
炎華が答えた。
確かに魔石モドキとして使えるだけの魔力の保持力と漏れ出ない特性がなきゃダメだし、考えてみたら魔力を込めても危険がない安定性も必要。
車がガタンと揺れた拍子に発火したり爆発されては危険過ぎる。
今回も源之助を連れて行くんだし。
「ガラスじゃあダメだよね?」
コンクリートブロックや木材は問題外だとして、水晶に近いガラスはどうかな?
ちょっと大きめなガラスのジョッキを取り出して炎華に見せる。
『あら光が通って綺麗。
でも無理な気がする〜』
そう言いながら炎華がガラスにチョンと嘴を付けてみた。
一瞬ガラスが明るく光ったが、すぐに消えてしまった。
魔力視でもほぼ魔力は残っていない。
「そう言えば、クルミの躯体の魔力を入れるのに鹿の角なんか悪くなかったけど、あれなんかはどう?」
植物系の綿とか布とかはプラスチックよりはマシだったけど、それでもピンバッジぐらいのサイズにしたら全然足りなかったんだよね。
鹿の角はその点中々良かった。
『良いかもだけど、それだけのサイズの角があります〜?』
炎華が問題点を指摘した。やっぱ真夏の熱を車サイズの内側だけで吸収するだけでもそれなりな熱量になるようだ。
ネットで売っている鹿の角ってボタンサイズか、10センチから20センチ程度だからなぁ。
足りないか〜。
「確か、諏訪でも鹿が邪魔って事でシーズンになると狩猟を推進していたから、誰か近所のお爺さん経由で聞いてまわれば鹿の角を丸ごとくれる人がいるかも。
今回はダメにしても、次回の暑いか寒いかな時期のドライブのために、今週末に鹿の角をゲットしよう!」
碧がぐいっと拳を握って宣言した。
『なんでしたら境界門から一度里帰りして、良さげな素材を取ってきましょうか〜?
それこそ北の氷熊あたりの魔石だったら程よく冷気を溢してくれそうだし』
炎華が提案してくれた。
氷熊って全長5メートルぐらいある、北国に出没する熊の魔物だよね??
毛皮が凄く人気だけど、凶暴だから貴族でも滅多に入手出来ないと有名だった気がする。
「それってうっかりすると魔石の周辺が氷結したりしません?」
強力な魔石って、それなりに慎重に出力をコントロールしないと危険なんだよねぇ。
強い魔石を使うような魔道具だと安全弁っぽい装置が必ず付けられてるし。
あれは私が作れる装置じゃないから、魔石を貰ってそれが暴走したら車ごと氷漬けになりそうで怖いかも?
『上手くいかなかったら噛み砕いて飲み込んじゃったらお口直しに良いんですけど〜。
お二人には固いですかね?』
おっとりと首を傾けながら炎華が言った。
人間に魔石は噛み砕けないよ……。