迷惑!!
「このアプリ、マジでムカつく!!!」
携帯から通知音が鳴り始めたので手に取ったら、どこぞの海外の知らない番号からだったのでさっさと通話を拒否した上で番号をブロックし……思わず携帯をソファに投げつけた。
「どしたの?」
碧が聞いてきた。
「普段は押し売り電話なんて殆どかかって来ないのに、このチャットアプリを入れてからアプリの通話がちょくちょく来るのよ!!
海外の怪しい番号からが多いせいか、昨日の晩なんて夜中の三時過ぎに鳴って起こされたの!」
韓国系資本のチャットアプリはフリーなスタンプをゲットするために友達登録したところからたまに広告が入る程度で、それもブロックすれば沈黙してくれる。だが碧の勧誘目当てで来たけれど案外とまともだから知人付き合いを続けている留学生のキャロルが連絡に使いたいと言われたアメリカ会社のチャットアプリは、やたらと海外から押し売り電話が入ってくるんだよねぇ。
まあ、英語の話し掛けが聞こえた時点で切るが、時には日本語のコンピュータ合成音のセリフも流れることがある。
番号を片っ端からブロックしているんだけど、どんどん新しい番号から掛かるから、収まらないんだよねぇ。
「こう、登録していない番号はミュートとか着信拒否って出来ないの?
じゃなきゃ携帯そのものを夜中はミュートにするとか。
夜十一時から朝七時までは鳴らないようにすれば安眠妨害もないよ?」
碧が言った。
「それは私も考えたんだけどさ、もしも夜中に両親のどっちかが大怪我したとか突然倒れて意識不明になったなんて事になったら、碧に泣きついて同行して貰えば、命を救えるかもじゃない?
取り敢えず死なない程度に直してフルな回復は退院してから頼むにしても、まずは心肺停止する前に辿り着く必要があるいから、連絡が取れない状態じゃあダメじゃん」
アプリの方は登録してない番号からの通話を着信拒否出来ないか、もう一度ネットで調べよう。さらっと見て、特に目に入らなかったから諦めちゃったんだよなぁ。
そういえば、白魔術師が医師の監督下以外で医療行為をしちゃいけないのって、金さえ取らなきゃ『奇跡ですよ』でシラを切ってもいいのかな?
後で勿論私がこっそり対価を渡すにしても、表立って両親が払わなきゃ碧が医療行為をしていないとごり押しできるんだろうか。
碧がぽんっと手を打った。
「そう言えば、夜中に死にかけた場合、連絡を貰えなきゃ救えないか。
どうせ遠いんだし、緊急事態なんて気にするだけ無駄だと思って夜中は携帯をミュートにしてたわ」
「緊急事態だったら白龍さまに乗せてもらって諏訪まで飛べないの?」
龍なら速そうだけど。
「うっかり風に吹き飛ばされて私が死にかねないからなぁ。
厳しい」
碧が顔を顰めて言った。
「こう、誰かに借り一つって事でヘリでも出してもらえないかな?
前もって手配してもらう約束をしとかなきゃ緊急時に使えないだろうけど」
そう言えば、ヘリって夜中に飛んで良いのかな?
飛行機が夜中に飛んでないのって騒音のせいなのか、公共交通機関が動いていないからなのか、どっちなんだろ?
「朝一で連絡を受けて新幹線で行っても間に合わないような状況だったら、運命だと思って諦めるから気にしないで良いって両親からは言われてるのよね。
変に確実に常に連絡が取れて駆けつけられるようにしていたらキリがないからって諏訪を離れる時に」
碧があっさり答えた。
うわ〜。
そうなんだ。
救えちゃうけど、救える状況に常にある必要はないなんて、流石碧の両親。
偉い。
私なんて自分の力じゃないのに碧に頼る気満々で夜中に携帯をミュートにしないで迷惑電話にイライラしてるのに。
「そっかぁ。
確かに、無理に連絡が取れるようにしなくていいよね。
キャロルにチャットアプリを変えるように連絡してこのアプリはもう削除するけど、夜中は携帯をミュートにしよう」
キャロルとは別にチャットじゃなくてメールでやり取りするんでも十分だし。
「まあ、凛のご両親は東京にいるんだから、もしもの時は起こしてさえくれるなら駆けつけて手を貸すのは構わないよ?」
碧が言ってくれた。
「いや、朝まで待つ暇もなく突然死んじゃっていたんだったらそれも運命でしょ。
碧の能力は親にも教えてないんだから期待もされてない筈だし。
ありがとね」
まあ、大体父親か母親が夜中に突然発作を起こして死にそうな場合、もう片方は朝まで気づかない可能性が高いだろうし。
うちの親ってどちらも眠りがかなり深いからねぇ。
それはさておき。
「そう言えばもうそろそろストックが切れそうだから、近いうちに諏訪に行って聖域の雑草とヨモギ刈りをしない?」
暑くてうんざりだが、アイピローやお守りで大分と使ったし、真夏の真っ只中よりは多少でも朝夕は涼しい今のうちに行っておく方がいいでしょう。
ちょっと夏休みまで待てなそうなんだよねぇ。