そろそろヤバいと思うな〜
『北村さまから先日の呪詛返しに関して問題があったとクレームの電話が掛かってきました』
水上さんが楽しみにしていた株主総会の三日後、退魔協会から電話があった。
ちなみに北水グループの事業分離に関しては、いつも読んでいる新聞には出ていなかった(と思う)がネットで検索したら証券会社のアナリストのレポートっぽいのにちょこっと言及されていた。
幾ら大成功した企業とは言っても、20代の子供がいる親世代が創業したのだったらそれこそ開業して20年から30年ってところだから、バブル崩壊後に起業したのだったらまだ極端に大きな企業ではないんだろうなぁ。
まあIT関係のスタートアップなんかは斬新なアイディアやプログラムを開発して、程よいタイミングで売ればがっぽり儲かるみたいだけど。ただ、そう言う企業だって業界では知る人ぞ知る優良会社かもだが、私らみたいな一般人には名前すら知られていないことが多いんだろう。
それはさておき。
「クレームですか?
また痣が戻ってきたのだったら、それはもう一度呪詛を掛けられたからでしょう。
一度返した呪詛が何らかの理由で失敗して戻ってくるなんてありえませんよ。
……ありえませんよね?」
返した呪詛が戻ってきたと言うクレームをつけるなんて無茶苦茶だ。
もう一度呪われるほど嫌われているのは本人の日頃の行いが悪いからだと思う。
とは言え、水上麗奈がもう一度呪詛をかけたとしたら驚きだけど。
『きちんと清めなかった悪霊が戻ってきたと言うのはまだしも、返した呪詛が戻るなんてことは退魔協会の経験では過去に一度もありませんね。
ただ、今回は呪詛返しが呪詛を掛けた相手から消えているので、転嫁の対処に失敗したのではないかとのクレームなんです』
遠藤氏が言った。
あ〜。
水上さんの顔から痣が消えたのが許せないと言う事か。
「呪詛を返しにお伺いした翌日に、北村さんは呪詛を返した相手と会うと言っていました。
その時に痣が相手の顔に出ていたかを確認して下さい」
痣があちらの顔に浮かんでいたなら、ちゃんと転嫁を回避して狙った相手に呪詛を返した証拠だ。
と言うか、水上さんはあの痣を晒したまま株主総会とその後の打ち上げパーティに出るつもりだったようだから、痣付きの顔の姿はあちこちで目撃され、SNSとかメディアの画像に出ていた筈。
たとえ北村亜里沙が水上さんのバッチリ痣のついた顔を見に行くのを何らかの理由で諦めていたにしても、証拠はあちことにある筈だ。
『いえ、一昨日は確認したそうですが、昨日会ったら無くなっていたので返しに失敗したのだろうとクレームの電話を入れてきたみたいなんですよ』
遠藤氏が応じた。
ちゃんと相手の屈辱の瞬間を見に行ったのかぁ。
そんでもって、いい加減にちょっかいを出すのをやめなきゃあんたが自分に掛けている呪詛を返すよ?と脅すために水上さんが昨日態々会ったら、痣が消えているのが発覚したのね。
「元々、あの痣は二日程度しか続かない設定の呪詛だったんです。
期間ではなくサイズが倍になって返っていたようなので、呪詛返しの影響も昨日になったら消えていたのでしょうね」
思わずため息を吐きながら遠藤氏に説明する。
先日私らが行った時は中々派手に痣が顔一杯に現れていた。明らかにサイズが大きかった分、消えるのは元の呪詛と同じ日数で早かったんだろうね。
『二日間の呪詛?!』
遠藤氏が驚いたように聞き返す。
「まあ、調査の時間も入れたら三日かもですね。
どうやら呪詛を掛けた人間は呪詛を掛けたのが明らかで、かつ返っても長期的なダメージがない呪詛を敢えて選んだようです」
態々相手を大人しくさせるために掛けたくもないのに呪詛をかけるって何か間違っている気もしないでもないが。まあ上手くいったならば良いんでしょう。
『ほとんど害がない呪詛だって無料ではないのに、理解を超える呪詛ですねぇ』
遠藤氏がふうっと大きく息を吐くのが聞こえた。
「ですからクレームを付けられても何も出来る事はないし、やらねばならないこともないと向こうに伝えて下さい」
水上さんに掛けた呪詛は解呪したのかな?
そろそろ解呪しないと、呪詛返しが来たらヤバいと思うよ〜?
呪詛返しが消えたって段階で、水上さんがそれなり色々と理解して計画的に動いているって気づいて、ヤバいって危機感を感じるべきだと思うんだけどね。
こっちにクレームを入れている暇なんか、無いよ?
ちょっかいを掛けられた水上さんが北村亜里沙をボコるか、悪女が負けを認めて呪詛を解呪して引き下がるか。どっちになるか、興味があるなぁ。
ハネナガにでも、庭から暫く覗き見して実況中継して貰おうかな〜。