意味が無くない??
『転嫁付きの呪詛の返しをお願いしたいのですが』
遠藤氏が電話で言ってきた。
「場所は何処ですか?」
暑くなってきたので、出来れば遠出はしたく無いなぁ。
怪しげな儀式が行われた鉱山跡の依頼の時は今から思えばまだ『暑くなりかけ』って程度で、日帰りの温泉についでに寄ろうかなぁと考える程度の気温だったが、ここ数日は窓から外の日差しを見るだけでウンザリするぐらい暑い。
炎華が家の中の温度は管理していてくれているから、エアコンドライと併せれば室内はそこまで不快じゃあないんだけど、なんかこう……外を見るといかにも暑そうで、外出する気が減退する。
目で見て違いが分かる程に日差しが強い訳ではないと思うのだけど、天気予報で30度以上って言っているのが記憶にあるせいか、日向の白い日差しを見るだけで暑そうな印象を受けるんだよねぇ。
車の中ではクーラーを効かせても前の座席じゃあ影にならなくて暑そうだし。
炎華に同行してもらって温度管理を頼むと言うのも一つの選択肢だが、留守にしている間に家のエアコンが故障して源之助が熱中症になっちゃったらどうしようと思うとそれも躊躇する。
出不精な炎華に同行するよう説得するのも大変だしね。
『都心近くです。最寄り駅まで迎えを出すとのことです』
遠藤氏が言った。
お、だったらあまり暑い思いをしないで済むかな?
碧を見たら頷いている。
「分かりました、受けましょう。
ちなみに返すだけで良いんですか?」
まあ、呪詛返しをしたら呪詛を掛けた相手はそれなりにダメージを受けるので、態々呪いを受けている時間を長引かせて呪詛の元を探す必要は無いっちゃあ無いかな。
呪詛が比較的弱いものだったら倍返しになっても相手が再度呪詛を掛けるだけの元気がある危険もありそうだが。
『顔に痣が出てくる呪詛なので、人前に出てこなくなった知り合いか、痣が出来た知り合いがやったことだと分かるから構わないそうです』
遠藤氏が言った。
うわぁ。
痣が出る呪詛ねぇ。なんかこう、女性同士の戦いっぽい雰囲気だなぁ。
呪詛なんて使わなければ良いのに。
しかも返された相手の怨みが酷かったら、それこそ次は生霊が直に祟り殺しに来そう。
背景を知っているからとそっちに関しても依頼されるのはちょっと嫌かも。
ドロドロな女の争いって苦手なんだよねぇ。
一方だけが悪い場合もあるだろうけど、どっちもどっちな場合も多そうだし。
依頼に受けに行く日時と報酬、ピックアップされる駅とかを話し合い、電話を切る。
「悪いね、転嫁付きだったら今回も凛にやってもらうことになりそう」
碧がちょっと済まなそうな顔で言った。
「いやいや、浄化の時なんかは碧がガンガンやってくれているんだから、文句なんて烏滸がましいよ。お互い様って事で気にしないで」
それに太った時とか病気や怪我の時は頼らせて貰うからね。
「でも、痣が出る呪詛なんて珍しいね。
今時だったらメイクでかなり誤魔化せそうだし、シールを貼って痣を誤魔化すのも可能だろうから、ピンポイントに何かの日の直前に呪ってその日を台無しにしたとでも言うんじゃ無い限り、あまりダメージは無さそう。
それこそ、太るとかニキビが出来まくるとかな呪詛の方がまだ嫌がらせとしても効果が高いだろうに」
何かの日を狙った呪詛だったら、その日が過ぎたら呪詛を解除しちゃえば呪詛返しを恐れなくて済む。
退魔協会に依頼する暇があると言うことは、そう言う嫌がらせではないのだろう。
「確かにねぇ。
何か警告的な呪詛なのかしらね?
もしくはコンシーラーを無効化するような呪詛だとか?
自分がやったってバレるなら、返されることを考えると嫌がらせは呪詛なんぞ送るよりもネズミの死体でも家の前に置いておく方が無難だけど」
碧が頷きながら言った。
「返されるリスクを負ってでも呪うなら、もう少しダメージが出るタイプの呪詛にすればいいのにね。
呪った人の想像力が足りないのかね?」
ちゃちな呪詛でも安くは無いし、カルマ値へのダメージは蓄積されるだろう。
そう考えると意味がない行動な気がする。
呪詛って掛ける方も掛けられる方も人格的問題がありそうで、あまり好きじゃないけど、今回は更に意味が分からないなぁ。
まあ、依頼が来る事でお金になるんだから文句は言わないけど。
さっさと返して家に帰ってこよう。
なんだったら、帰りに何処か美味しいスイーツの店にでも寄るのもありかも?
ちょっとピックアップされる駅近辺で何か良い店がないか、探してみよう。




