才能? 観察力?
「なんか、元退魔師な探偵で、普通の情報漏洩だけでなく退魔師の才能を悪用した違法行為も調べてくれる人を碧のお父さん経由で紹介してもらえた〜。
その人に電話したら、調査料はこのくらいだって」
実家に行って、安川探偵事務所の事を母に伝えた。
基本的に、あの女が自分の彼氏にために色々とやっているという情報は私がクルミ経由で彼女の記憶を読んだから分かった事だ。
母には単に彼女が能力を使って、自分に好意的になるよう周囲に弱い洗脳を掛けているのが見てとれたとしか伝えていない。
やっぱ、たとえ家族でも人の心や記憶を読めるって知ったら嫌がられるだろうからねぇ。
相手がストレスや思い入れの強さ故に自分の考えや感情を力一杯発信しているならば不可抗力で聞こえてしまうことがあるし、何かヤバそうな状況だったら自分や周囲の安全のために敢えて読むこともあるが、私は基本的に周りの人間のプライバシーを尊重している。
だけど、ある意味これって自分のプライベートな悩みや考えが書いてある日記が常に机の上に置いてあるような状態なんだよね。通りすがりの家族がついつい好奇心に負けて開いて読んでしまうリスクがそれなりに高い状況とも言い換えられる。
部屋に置いてある日記を勝手に母親や兄が読んだら怒るだろうが、それこそ人に知られたくないようなプライベートな内容が書いてあるなら鍵が掛かる引き出しにでもしまうべきだと言い返されるのも想像できる。
日記が机の上にただ閉じて置いてあるだけだったら、通りすがりの家族がちょっと気になって開いて読んでしまっても不思議はないでしょうと言われてもしょうがない感じだ。
つまり。
私は誰の日記帳でも、いつでも開けて読めちゃう人なのだ。
周囲の人間が己のプライベートな想いを守るために、私を家の中から締め出そうとしても……ある意味、不思議はない。
そう考えると、前世で黒魔術師の適性持ちがああも制約魔術でがんじがらめにされたのって、過去にやらかした黒魔術師がいたと言うのもあるが、自分の心の中を読めるような人間にはその力に制約を掛けたいと、貴族だけでなく一般市民までもが思ったからあの体制に反対する人が居なかったのだろう。
まあ、どれだけ王族が私らの能力を悪用しているかが一般には知られていなかったせいもあるとは思うけど。でも、制約魔術を掛けられて自由意志や将来の設計が大幅に制限されると言うのに、逃がしてあげようとか同情する人が居なかったのは事実だ。
私が黒魔術師の適性持ちだと知った途端に家族からも一歩距離を取られた感じだったし。
今世でも何かの拍子に触れそうになった際に母親から避けられるのはやっぱちょっと切ない。そう言う状況にならないためにも、余計な情報は共有しないのが一番だ。
「あら、良いわね、これ。
部長と話してみるわ」
安川探偵事務所のホームページをプリントアウトした詳細(依頼をした際の料金目安も記載されていた)を見て、母が頷いた。
「ちなみに、なんで隣の部署の話にお母さんが関与しているの?
あまり関係ないよね?」
なんか問題が不可解すぎるって事で母が自発的に自分の娘は退魔師ですがって言ったのかな?
あまりそう言うしゃしゃり出るタイプだとは思っていなかったんだけど。
「私って人を見る目があるって信頼されてるのよ〜。
なんか怪しいなって私が思った人が情報漏洩していたり、雇ってみたらヤバい程使えない人だったりってことが過去にも何度かあってね。
お陰で中途採用の際の面接とか、誰が原因なのか分からないような問題がある時に頼られることが多いの」
母が笑いながら答えた。
マジ〜?
もしかして、黒魔術師の適性がちょっとあるのかな? 魔術を使えるほどの魔力がないせいで才能が発現しなくても、人の本性を感じ取れる程度の才能はあるのかもね。
単に観察力が優れているってだけの可能性もあるが。
まあ、取り敢えず。
安川探偵事務所を雇うことで話が終わると期待しておこう。