外部委託
「ねえ、退魔師の才能を悪用している場合って、退魔協会に報告したら調べて取り締まってくれたりするの?
碧の従兄弟関連で出てきたあの女に近い感じの才能持ちが、母の会社でちょっと悪さをしているっぽいんだけど」
家に帰り、碧に尋ねた。
私ってこんな感じの、依頼を出すんじゃなくて業界団体として退魔協会がやってくれることに関する情報を全然持ってないんだよねぇ。
遠藤氏とかに聞けば教えてくれるのかな? 少なくともオリエンテーション研修では教わらなかったけど、流石に聞いても教えてくれない程の秘密ではない……と思いたい。
分厚い規約書なんかは買いてある文章が固すぎて、何処までやってくれるのか読んでいても分からないから、諦めちゃった。
先祖代々退魔師をやってきた家系の人と、ぽっと出の退魔師の情報格差が大きいよねぇ。これって退魔協会側としては意図的な情報格差状態な気がする。
まあ、私も碧に聞けば良いやとちゃんと問い詰めていないけどさ。
父親が死んじゃった蓮君なんて、そこら辺は大丈夫なのかな?
私らみたいに妙に事件に行き当たりまくらないで、普通に依頼を受けるだけな場合は特に問題無いのかもだけど。
「え、あの絵梨花さん成り変わり事件の女?
誰か、凛のお母さんの会社の人が成り代わられてるの??」
碧がびっくりしたようにタブレットから目を上げた。
「いや、成り代わってはいないけど、魅了系の力を使って周囲を軽く洗脳して会社のプロジェクトの邪魔をしつつ、ライバル会社に勤めている彼氏の為に情報を盗んでるっぽい」
明らかに単なる給料泥棒以上の害悪だが、周囲を自分のお願い通りに動かすのって才能なしでも媚びるのが上手い女がそこら辺じゅうで普通に日常的にやっている事だからなぁ。
洗脳している時点で周囲に抵抗する手段がないのだから、判断力の欠如ではなく抵抗できない攻撃としてより悪質だとは思うけど。
「露骨に誰かを害していたり、退魔協会へ損害を与えていれば動くんだけどね。
そう言う証拠がないなら難しいね。
そういえば、探偵として能力を使った悪事の証拠集めをしてくれるちょっと変わり者な退魔師出身の人がいるって父親から聞いたことがあるわ。
まずはその人を雇ってみたらどうかな?」
碧が提案してきた。
ほほ〜。
そんな便利な人がいるんだ??
まあ、私も碧に会って退魔協会の存在を知らなかったら、黒魔術の才能を使って不思議な事件を調べる探偵っぽい事をやろうとは思っていたからね。
私と違って退魔師になってからそっちの道に入ったとなると、より調査能力とかがしっかりありそう。
「いいね、それ!
情報漏洩とか器物破損とか、何か試作品を盗んでいるかとか、そう言うのを調べてもらってその結果で懲戒解雇させれば良さげ!
探偵事務所なら母親の会社に雇わせる方向に説得できれば、私がしゃしゃり出るよりずっと信用性があるし」
それに、母親の会社のためにタダ働きするのはちょっと嫌だがお金を請求しても金額に合意するのは難しそうだからねぇ。第三者に外部委託するのがベストでしょう。
「ちなみに。退魔師の才能を持つ人間がその力を使って悪事を働くと退魔師への社会的信頼が損なわれそうだから、もっと退魔協会が何かしても良さげな気がするけど、やっぱやってないんだ?」
と言うか、私らの報酬から中抜きしている手数料で運営されている退魔協会が人件費を負担して正義の味方っぽい活動をやれと言うよりも、国が治安維持の為に退魔協会にお金を払って委託して欲しいね。その為の税金でしょうに。
「普通の詐欺と退魔の能力を活用した悪事とで結果に大して違いはないし、被害総額は普通の悪人がやった詐欺の方が圧倒的に大きいからねぇ。
退魔協会も悪質な違法行為の証拠があれば能力の封印程度はするけど、退魔協会や国が能動的に能力持ちに集中して悪事をしている人間を探すことはしてないみたい」
碧がタブレットのチャットアプリにメッセージを打ち込みながら言った。
そっかぁ。
確かに人数的には普通の詐欺師の方が圧倒的に多いもんねぇ。
国はオレオレ詐欺とか特殊詐欺とかフィッシング詐欺とか、次から次へと出てくる詐欺手法に対応するので手一杯なのか。
退魔協会は退魔協会で、退魔師への依頼もそこそこ長い待ち時間なしに全部こなせていない状況で、更にやる事を増やすのは厳しいんだろうなぁ。
まあ、取り敢えず。
まずはその探偵モドキな人の連絡先が分かったら料金とかを確認したら上で、あの荏原莉里に関して調べさせるよう、母親を説得しないとね。