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怪しい話に耳を傾けちゃダメでしょう

「ちょっと調べて主な悪霊を対処してくるから、入り口の辺で根本さんと一緒に待っててくれる?」

 ペンと手帳を取り出しながら碧に頼む。

 これだけ瘴気が濃かったら依頼主も奥に入りたがらないと思うが、そばに居たら邪魔だしマジで健康に差し支えるだろう。


『取り敢えず、私が怨霊達の背景確認と、地底湖に沈んでいる白骨死体が何故あそこにあるのかと、名前を知っていそうな霊がいたらそれも確認するね。

 情報を全部抜き取れたら取り敢えず私が一旦怨霊を除霊して、その後に碧が地底湖を含めてここを清める感じでいい?』

 碧に念話で尋ねる。


『え!!

 白骨死体!?』

 碧の驚きが伝わって来た。

 おや、白骨死体に気付いていなかったんだ。

 魂とか死に敏感な黒魔術師な私だから先に気付いたのかな? 碧もここ全体を清めようとしたら気付いただろうけど。


『7、8体沈んでると思う。

 埋葬するのにも名前が分かった方が良いだろうから、調べられる範囲で調べてみるね』


「分かった、ここで待っているわね」

 地底湖の方へ目をやりつつ、碧が応じた。

 根本さんも奥まで入りたくなかったのか、体を固くして通路の入り口付近で立ち止まっている。

 退魔協会の調査人を案内したんだったら最低でも一度はここに来ていると思うんだけど、なんか周囲を見回す怯えの混じった目線は入り口での態度と一致しないなぁ。

 もしかして、今までは別の誰かに全部押し付けてたのかな?

 退魔師が来たから今日は自分が責任を持って出て来なければと思ったんだったらいいけど、押し付ける相手が居なくなってしょうがないから本人が現れたんだとしたら……事業で嫌な事ばかりを押し付けるせいでもう付き合ってらんね〜と部下に見切りをつけられたんだとしたら、たとえここが綺麗に浄化されても椎茸栽培事業が立ち行かなくなるんじゃない?

 一人でビジネスを動かすのは厳しいと思うな〜。


 まあ、それはさておき。

 根本さんは放置して、ヤバい台の方へ歩み寄る。

 そしてこちらに取り憑こうと詰め寄ってきた霊を捕まえる。


『イリコビッチめ。何が同志だ。

 大いなる超越者を呼び込めれば腐敗した政府の人間やアメリカの帝国主義者どもを一掃出来ると言ったのに!

 太田も杉本も諦めるのが早過ぎる! しっかり結果が出るまで頑張らないから大成しないんだ!!』

 ブチブチと怨霊が仲間?に対する不満と恨みを繰り返している。

 なんかこう、劣化が酷くてこっちを襲おうとしたのに私をちゃんと認識すらしてないっぽい。しょうがないので無理やり記憶を読むことにした。

 力技だと情報過多になりやすいから、情報を無理やり毟り取るより質問に答える形の方がやり易いんだけどねぇ。


 恨みと怒りと驕りでちょっとグチャグチャな記憶を頑張って読み取る。

 どうやら、この怨霊は元々この鉱山の持ち主の分家の息子だったらしい。賢いからって事で本家の支援で東京の大学に行かせて貰ったのだが、本家を盛り立てるのに役に立てと言われ続けてきた怒りもあってか、学生運動にのめり込んだようだ。

 本家が色々とお金を出してくれたお陰で大学に通えていたんだから、ギブアンドテイクである程度の恩返しは当然な気もするけどねぇ。

 まあ、それはとにかく。

 学生運動で過激な連中と連んでいるあいだになんか共産化してロシアからの指導者?とか称する男と出会い、学生運動の組織が分裂して運動も下火になってきて怒り狂いつつも無力感に絶望していたところへ、何やらロシアの古代から伝わる隠された秘技を教えようと言われて縋った様だった。


 ロシアの秘技ねぇ。

 と言うか、なんでそんなものを日本の学生に教えたがるのか、考えてみるべきじゃない?

 教わりたがる方の気も知れないが、こちらはまだ『周囲が弱腰すぎて国の圧政に負けつつあるから、逆転の為に最後の手段だ』って事で怪しげな秘技に縋ったのも分からないでもない。だけど、変な儀式を教えた方は何を目的にしていたんだろう?


 最初は仲間の間でちょっと腕を切って血を捧げて超越者へ祈ると言う程度だったらしいが、思う様に効果が出なかったことからもっと大きな犠牲が必要だと誰かが言い出し、結局東京で見かけたホームレスを攫って来て生け贄として殺し始めたようだ。

 と言うか、効果がないのは誰にも魔術の才能がなく、やり方もいい加減だったからだろうに。

 何故にそこで変な儀式のことを言って来た男が詐欺師うそつきだと思わずに、人を殺せば効果が出ると言う結論に達するかねぇ。


 しかも殺されたホームレスの名前すら確認していないし。

 酷すぎるぞ。

 学生運動にせよ赤軍運動(?)にせよ、国の圧政から弱者を守るとか解放するとかって言うのがお題目だったんじゃないの?

 弱者の最たるものであるホームレスを犠牲にするなんて、ダメじゃん。


 自分の主張の為に人を殺すんだったら、せめて敵だとしている政治家とか自分たちを生贄にするべきでしょう。

 全く関係ないホームレスを使うなんて、安易過ぎる。

 まあ、そう言う安易に人の命を軽視する様な人間だから、学生運動から更にヤバい方向に傾いていったんだろうけど。


 で、結局何人もホームレスや家出少年っぽい人間を殺しても効果が無く、仲間内でもいい加減に止めようと言い始めた人間まで殺し……穢れと、悪霊化した死者の囁きに収拾がつかなくなったグループがお互いに殺し合う羽目になったっぽい。

 その頃にはロシア人の指導者とやらはいつの間にか消えていた。どうせならそいつもここで生け贄として殺していたら、そいつから情報を得られたんだけどねぇ。

 残念。


 私が捕まえた怨霊は殺し合いの果てに最後まで生き残った一人で、どうやら仲間の死体も全部地底湖に投げ込んで逃げた様だ。結局祟り殺されて、ここに引き戻されているけど。


 これじゃあ半分ぐらいの死骸は名無しのままに無縁仏になりそう。本人の霊が残っていて名前と家族の事ぐらい、聞けると良いんだけど。

 と言うか、名前が分かったところで50年近く前にホームレスになっちゃった人や変な学生運動に嵌った挙句に黒魔術に染まって人殺しまでした人間なんて、家族が生き残っていても遺骨の引き取りを拒否されそう。


 取り敢えず。

 悪霊化しちゃった被害者と加害者を一人ずつ昇天させますか。



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ロシアの秘技!? ラスプーチン系統的な?
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