地底湖
トロッコか何かで採掘した鉱石を運び出していたのか、キノコを栽培していると言う正面の方も、問題があると言う左側の通路の方にも下にレールのような物が地面に設置してあった。
考えてみたら、最近だとソーラーパネルの銅線とかを大量に盗む人が居るらしいが、こういうレールを廃業する際に回収しないのかな?
まあ、銅ではなく鋼鉄だろうし、簡単に外れない様に固定してあるしで撤去する手間が素材を売り払う収入に対して割に合わなかったのかも。
もしくは、ヤバい儀式をやって祟りがすごい事になったから慌てて逃げたとか。
でも、廃業の時に変な儀式をやっていたとは思えないから、やっぱコスト的な面でレールを掘り起こしてリサイクルする価値が無いと判断したのかな?
後から廃坑になったと知って変な儀式をしたんだろう。
多分。
「ちなみに、この鉱山を廃業した時の持ち主はその儀式跡に関して何かを知っていましたか?」
依頼主(根本さんと自己紹介された)に聞いてみた。
「本来ならば鉱山跡も定期的に危険な状態になっていないか確認する為に人が来なきゃいけないんですが、ここは大元の鉱山会社のオーナーがバブル後にほぼ一文無しで亡くなった際に遺族が相続放棄したせいで国の物になったそうなんです。その際の書類手続きがかなりいい加減だったみたいで、ちゃんとした管理がされていなかったようです。
私がここを買い取る手続きをするのにも本当に苦労したんですよ。買値自体は雇った弁護士費用よりも安いぐらいでしたが。
近くの温泉町に住んでいるその潰れた鉱山会社の事務で働いていたと言うご老人に話を聞いたところ、左側の坑道は閉山時にはまだ水没していなかったとのことです。普通に道具とかの忘れ物がないかの確認に人が見て回って異常なしと報告したらしいので、その時点では変な儀式跡は無かったんでしょうね」
根本さんが答えた。
まあ、鉱山の従業員が自分の職場である坑道の先でヤバい儀式をするとは思えないから、やったのが鉱山関係者だとしても閉山した後に忍び込んでやったんだろうね。
と言う事でレール沿いに歩いていくと、ちょっと坑道が下がった後にまた上がってきた。
おや?
と言う事は、奥のヤバい儀式をした場所は水没してなかったのかな?
トロッコを使うなら水平の方が良いと思うが、鉱石がある場所を狙って角度を調整するのかな?
この左側の坑道自体、ちょっとぐにゃぐにゃしているし。
緩い坂になっている坑道を登り切ったら、広場っぽいところに出た。
「うわぁ、凄い瘴気だね」
碧が辟易とした様に呟く。
右側の方が低くなって水が溜まっており、ライトの光が反射している。
これでこの瘴気が無ければ幻想的な地底湖的風景になったと思うのだが、穢れがおどろおどろしさを演出しているせいでホラー映画に出てくるヤバい化け物が潜んでいそうな夜の沼っぽい雰囲気になっている。
「この地底湖っぽいのはいつからあったんですか?」
なんか複数の死骸があの中にあるっぽい感触なんだよねぇ。
昔から水があってそこに意図して死骸を破棄したなら錘でも付けているだろう。単に死骸破棄場所にしていた穴に後から水が溜まったんだったら、白骨が地底湖の底に無造作に転がっているだけになると思うが。
「ここは最後の方まで採掘をしていた場所なので、こんな地底湖が出来ているという情報は無かったですね。
排水のポンプを最後の方に持ち出したとご老人が言っていましたから、元々水が多少は出る場所だったようなので閉鉱後は比較的早く水が溜まったのだろうとは思いますが」
根本さんが言った。
地底湖って雰囲気があるから、汚れを祓ってちょこちょこ灯りをつけたらキノコ刈りと涼しい湖でのボーティングみたいな観光名所狙いも可能かも? 坑道の中に入ったら肌寒いぐらいになったから、真夏の暑い最中には悪く無いレジャー先な気もする。
でもまあ、死体が大量に見つかった場所じゃあダメかな。根本さんが先程から腕を摩っているのは瘴気からくる寒気だと思うし。
だが、碧が清めれば一気に清らかになる……筈!
鉱山跡の空気がどの位清らかになるかは知らないけど。
で。
目を逸らしていたが諦めて左側を見ると、ちょっと高くなって黒ずんだ場所に台が置いてあり、その周辺を怨霊がぐるぐる漂っていた。
あの黒ずみ、多分血だよねぇ。
一体何の儀式をしたんだろ??
それなりの人数が殺されているぽいけど、こんな僻地にどうやって被害者を連れ込んだのかも不思議だ。
都会ならまだしも、こんな田舎で行方不明者が出たら直ぐに発覚しそう。
都会でホームレスなり騙されやすい人間なりを騙して車かトラックに詰め込んで連れてきたのかね?
こう言う依頼で見つかった怪しい白骨事件って警察は調査するのかな?
被害者の名前すら調べようが無いと思うから、せめてその程度を調べるのは協力してあげないと、遺骨の埋葬すら名無しになっちゃうよねぇ。